Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

all streets −shibuya−

枝 優花 (映画監督・脚本家)

映画監督が渋谷で探す
未知との出合い

all streets −shibuya−は、2022年春、渋谷に新たに誕生したホテル「all day place shibuya」が発信するローカルガイドメディア。毎回、渋谷に縁のあるクリエイターをゲストに迎え、お気に入りのスポットを歩いて巡る“渋谷散歩”へと出かけます。大通りから路地裏まで、歩くほどに見えてくるのは、日々移り変わるまちの日常の姿。渋谷の歩き方、楽しみ方は人それぞれ。まだ知らない渋谷を探しに出かけましょう。

01/10/2024

カルチャーの発信地である渋谷でも、近年、映画館や書店の営業終了が相次いでいます。歴史に幕を閉じた空間に、たんなるノスタルジーではなく、知らない世界の接点との喪失を感じると話すのが、今回のゲストの枝 優花さんです。弱冠23歳で手がけた初長編映画作品『少女邂逅』が異例のヒットを記録したことでも知られる気鋭の映画監督。彼女は自らの作品が渋谷で公開されるようになってからも、日々の隙間を見つけては映画館に足を運び、書店の棚から作品のヒントを見つけ、制作の息抜きに散策をしているそう。映画監督のまなざしを知るべく、6ヶ所のお気に入りスポットを紹介してもらいました。


脚本を書くための気分づくり


「映画監督といっても、やることは小学校とあまり変わりません。脚本を書くのが国語なら、数字を細やかに管理するのが算数。現場仕事はまるで体育。国語、算数、体育をいくつになってもやっているような感じです(笑)」

そう静かにほほえむ枝 優花さんは、自らを「家だと集中できないタイプ」と評します。脚本をカフェで執筆することもめずらしくなく、お気に入りは桜丘町にあるそう。

「『WHITE GLASS COFFEE』によく行きます。執筆ってそのときの気分に引っ張られがち。だから窓が大きくて、自然光がきれいな明るい空間を選ぶようにしています。渋谷駅周辺の喧騒から少し離れているのもうれしいですね」


日常的であり吸収する場としての映画館


「渋谷の映画館では『CINE QUINTO』が好きです。セレクトに特色があるので、打ち合わせ終わりや移動の合間などに、おもしろそうな作品があればふらりと入るようにしています。今年でいえば、忙しくて気分が落ち込んでいたタイミングで通りがかり、上映5分前だった『リコリス・ピザ』に駆け込んだことがありました(笑)」

映画館には連日行く時期もあれば、制作中の作品の世界観が揺さぶられないよう、現場仕事を優先して1ヶ月も足が遠のくこともあると言います。映画監督はどのような姿勢で映画を鑑賞しているのでしょうか。

「もちろん、友だちと予定を合わせて、ポップコーンを片手に映画を観ることもありますよ。でも『CINE QUINTO』で上映しているような作品だったら、最初から最後まで集中して観たいし、なにかを吸収したい。冒頭に持ってくるもの、ショットの意図、現場の空気……全部に目を向けないといけないのが監督なので。仲間たちと映画を観た後、そのまま飲みに行って感想や意見をぶつけ合うようなこともよくやっています」


オンラインではなく現実ゆえの偶然に期待して


枝さんは、映画に期待するのは共感ではなく、見たことのない世界との出合いだと話します。それは本についても言えること。打ち合わせが多い仕事柄、その空き時間を見つけては書店に入るようにしているそう。

「たとえば大型書店である『MARUZEN & ジュンク堂書店 渋谷店』の店内を歩くだけでも、知らない本がいくらでもあり、思いがけない一冊と偶然めぐり合えるかもしれません。なにかおもしろそうな本がないかとうろつき、制作の参考にできそうな心理学の本を見つけたこともあります。いくらオンラインで本が買えるようになったとしても、検索ってじつはすごく限られた狭い世界。だって、知っていることしか検索できませんから」


制作の息抜きにすごすお気に入りの空間


「大型書店とは違って、選書を通して知らない世界に出合えるセレクト書店として『SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS 本店』にもよく行きます。写真の3冊は実際に買いましたが、まさに検索できない内容。一般流通にないZINEが売られているのもめずらしいですよね」

奥渋谷には映像制作会社がいくつかあり、制作の時期によって通うことがあるそう。同じ理由でたびたび訪れているのが神宮前だといいます。

「『LOTUS』は空間が魅力的で、系列店すべてに行ったほどファンです。『YOGORO』も大好きで、10回以上は食べています。私は映画のことを一日中考えてしまうので、こういった好きなお店ですごすのが息抜きになっています」

枝さんが「YOGORO」でいつも食べるという「チキンホウレン草カレー」のチーズ入り。

最後に、映画監督として渋谷を舞台に作品を撮るならと質問を投げかけてみました。

「なんだろう……これだけビルが空に向かって延びている街なので、反対に路上を撮ってみたいですね。たとえば宝くじ売り場。私の地元では全然見かけないのに、変化が激しい街で残っていることがすごいじゃないですか。そこにカメラを向けたら、おもしろい映画ができるかもしれませんね」

1
WHITE GLASS COFFEE
渋谷区桜丘町23-18
TEL : 03-6416-4550

チョコレートブランドが手がけるコーヒーロースター。芳醇なコーヒーに加えて、ドーナツやケーキなども人気。
@whiteglasscoffee

2
CINE QUINTO
渋谷区宇田川町20-11 渋谷三葉ビル7階
TEL : 03-3477-5905

1999年に開業したミニシアター。「世界中の喜怒哀楽をお届けする」をテーマにし、渋谷PARCOには姉妹館も。

3
MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店
渋谷区道玄坂2-24-1 東急百貨店本店7階


渋谷最大規模の約1100坪を誇った大型書店。入居する東急百貨店本店の営業終了に伴い、2023年1月31日に惜しまれつつ閉店。

4
SHIBUYA PUBLISHING&BOOKSELLERS 本店
渋谷区神山町17-3
TEL : 03-5465-0588

通称は「SPBS」。2023年1月に15周年を迎えた。作家や写真家など出版関係者によるトークイベントも頻繁に開催。2月12日までブックフェアと記念トークイベントが開催されている。
@spbs_tokyo

5
LOTUS
渋谷区神宮前4-6-8
TEL : 03-5772-6077

2000年にオープンし、カフェブームの火付け役となった表参道の名物カフェ。フードもドリンクも豊富に揃う。
@lotus_omotesando

6
YOGORO
渋谷区神宮前2-20-10
TEL : 03-3746-9914

開店前から行列ができる人気店。鉄鍋で提供されるカレーはスパイシーながらもまろやかで中毒性があり、リピーターが絶えない。


枝 優花 Yuuka Eda
1994年生まれ。群馬県出身。映画監督、脚本家。2017年に初めて制作した長編映画作品『少女邂逅』がMOOSICLAB2017で観客賞を受賞し、劇場公開されると高い評価を得る。香港国際映画祭や上海国際映画祭に正式招待、バルセロナアジア映画祭では最優秀監督賞を受賞。2019年には日本映画批評家大賞の新人監督賞を受賞。『神木隆之介の撮休』(第4話)などドラマやMVも手がけるほか、アーティスト写真や広告など写真家としても活動中。

all streets −shibuya−
一般的なガイドブックにあるきらびやかな渋谷だけでなく、まちの日常により溶け込み、楽しんでもらえるよう、all day place shibuyaが発信するローカルガイドメディア。all streets -shibuya-のコンテンツは、all day place shibuyaのウェブサイトからもご覧いただけます。
text | Yosuke Uchida photography | Kosuke Hamada illustration | STOMACHACHE.