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all streets −shibuya−

蓮沼執太
(音楽家・アーティスト)

変化を肯定する街、渋谷で鳴る音

all streets −shibuya−は、2022年春、渋谷に新たに誕生したホテル「all day place shibuya」が発信するローカルガイドメディア。毎回、渋谷に縁のあるクリエイターをゲストに迎え、お気に入りのスポットを歩いて巡る“渋谷散歩”へと出かけます。大通りから路地裏まで、歩くほどに見えてくるのは、日々移り変わるまちの日常の姿。渋谷の歩き方、楽しみ方は人それぞれ。まだ知らない渋谷を探しに出かけましょう。

09/16/2022

蓮沼執太さんはひと言で形容しがたい、オルタナティブな創作活動を行なう音楽家です。ソロ活動に加えて、現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラの「蓮沼執太フィル」を組織し、国内外でコンサートを開催。映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、その音楽制作は多岐にわたります。そんな蓮沼さんにとって渋谷は、昔から馴染み深い土地でした。「Bunkamura オーチャードホール」や「LIQUIDROOM」で公演をするようになる遥か前、中学のころからCDショップ目当てに渋谷へ連日通い詰めていたといいます。この街でまさに「生まれ育った」音楽家に、都市の音はどのように響いているのでしょうか。


なにもかもが新しかった10代のころの渋谷。


「数えられないくらいこのへんは歩いていますよ」

蓮沼執太さんがそう声を上げたのは、明治神宮から代々木公園に向かう最中のことでした。原宿から渋谷へ五輪橋をくぐる山手線。明治通りや道玄坂とともに、このあたりが彼にとっての「渋谷らしい風景」だと言います。

「僕は中学・高校と帰宅部だったんですよ。だからとにかく時間を持て余して、放課後をすごすとなればいつも渋谷。音楽、文学、アート……毎日のように新しいカルチャーと出合っていました。10代なんてなにも知らないじゃないですか。新しいものとつねに出合える楽しい街というのが、僕にとっての渋谷の原風景ですね」


音に携わる人間として有事の渋谷を観察する。


では、「渋谷らしい音」とはなんでしょうか。蓮沼さんはスクランブル交差点の人工音につづけて、先ほどまでいた明治神宮で聞こえる音を挙げてくれました。

「2020年の春、最初の緊急事態宣言が発令された翌朝、渋谷でフィールドレコーディングをしました。ゾッとしたのがスクランブル交差点。無人の街に、屋外ビジョン広告や交通広告などの音がひしめきあっていたんですよ。でも、そこから少し離れると、明治神宮のような人工の森があるのが渋谷のおもしろいところですよね。無音があれば、鳥のさえずりが響き、電車の音はエコーがかかったように聞こえます。それらはいつもそこにある音ですが、音そのものはつねに変わっていますよね。変化に肯定的な態度というのは、音楽家としても大切にしたいなと思います」


都市の隙間に人々が集う音楽的な雑貨店。


「僕は街のボイド的なスペースに惹かれるのかもしれません。インスピレーションのようなものが生まれる気がして」

ボイド(void)には、「空白」や「隙間」の意味があります。明治神宮をそう称した蓮沼さんがその足で向かった西原の「àcôté」もまた、都市の隙間にあるようなお店でした。

「店主の今村真紀さんとは古い付き合いなんです。作曲家のイベントをしたり、いい音楽が流れていたり、日用雑貨店ながら音楽的なお店。音楽は演奏に限らず、本来はいろいろな場所で感じられるものなんですよね」
蓮沼さんはそう言うと、店内奥のナチュラルワインを品定め。「定番はあまり飲まない」という言葉に今村さんがおすすめした、フランス・アルザス地方の「クンプフ・エ・メイエ」の2本を購入していました。


音楽家が惹かれる音楽好きな店主の空間。


蓮沼さんが好きなお店には共通項があるといいます。それは店主が愛情を持って運営していること。

「自分が気に入っているから飲んでほしい、食べてほしい、使ってほしい……音楽だったら、聴いてほしい。そういうシンプルな気持ちが人々を魅了すると思っています。その点、NEWPORTは店主の鶴谷聡平さんの好きな音楽や料理が自然体で提供されていて、居心地がよく、普段からよく来ています。そうそう、ここで以前僕の誕生日パーティーを開いていただいたこともありますから(笑)」

代々木八幡の「NEWPORT」は良質な音楽で知られ、listudeの12面体スピーカーを採用。DJイベントなど本格的な音楽が楽しめるお店として根強い人気を集めています。

「いま流れている音楽もお店に合っていますよね。ブラジルのジョアン・ジルベルトかな……やっぱりそうだ、ジョアン・ジルベルトだ。飲食店って無音だと厨房の動きが聞こえて、緊張感が生まれるじゃないですか。そういう雰囲気を中和するような音楽が無理なく流れていると、いいお店だなと思いますね」

食事中、鶴谷さんに、翌々週に控えていた14周年パーティーへ誘われていた蓮沼さん。ふたりの表情は、音楽好き同士の親密な関係性を物語っているかのようでした。

NEWPORTの「ファラフェルプレート」が蓮沼さんのお気に入り。

1
明治神宮
渋谷区代々木神園町1-1
TEL:03-3379-5511

蓮沼さんのお気に入りは北参道が延びる代々木方面。反響音が聞きやすく、ミストが感じられる雨上がりがとくにおすすめだという。

2
àcôté
渋谷区西原1-7-5


店名は「隣」や「近くに」を意味するフランス語に由来。日々に寄り添う日用品が並ぶ雑貨店。ナチュラルワインも販売。

3
NEWPORT
渋谷区富ヶ谷1-6-8
TEL:03-5738-5564

季節野菜のベジタリアン料理とナチュラルワインのレストラン。テイクアウト可能な「ファラフェルサンド」も。

4
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS
渋谷区神山町17-3
TEL:03-5465-0588

「SPBS」の略称で親しまれる、奥渋谷の“出版する書店”。過去には蓮沼さんの蔵書やCDなど私物300点が販売されたことも。

5
Bunkamura オーチャードホール
渋谷区道玄坂2-24-1
TEL:03-3477-9111

音が重厚かつ豊かに反響する、日本初の大規模シューボックス型ホール。2021年には蓮沼執太フィルの公演「○→○」が行なわれた。

6
LIQUIDROOM
渋谷区東3-16-6
TEL:03-5464-0800

恵比寿に構える東京の代表的なライブハウス。蓮沼執太フィルでも何度となくコンサートを開催している


蓮沼執太 Shuta Hasunuma
1983年、東京都生まれ。音楽家、アーティスト。大学在学中の2006年、アメリカのインディーズレーベルよりアルバムをリリースし、本格的な活動をスタートする。2010年に「蓮沼執太フィル」を結成し、国内外でのコンサート公演に加えて、多彩な音楽制作、展覧会やプロジェクトなどボーダレスに活躍する。2019年に「第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞」を受賞。主な展覧会に「Compositions」(Pioneer Works 、ニューヨーク/ 2018)、「 ~ ing」(資生堂ギャラリー、東京 / 2018)がある。最新作は、タブラ奏者のU-zhaanとの3作目になるインストゥルメンタルのアルバム『Good News』。

all streets −shibuya−
一般的なガイドブックにあるきらびやかな渋谷だけでなく、まちの日常により溶け込み、楽しんでもらえるよう、all day place shibuyaが発信するローカルガイドメディア。all streets -shibuya-のコンテンツは、all day place shibuyaのウェブサイトからもご覧いただけます。
text | Yosuke Uchida photography | Kosuke Hamada illustration | STOMACHACHE.