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Kyushu’s National Parks Interview

‘A Feast for Your Eyes’

九州4大国立公園を巡り
各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ

耳にしただけで旅心を刺激する「国立公園」というフレーズ。旅の目的は、広大な九州を舞台に4つの国立公園を巡り、それぞれのエリアでサンドウィッチをつくって食べ、各公園のキャラクターを身体全体で体感するというもの。具材となるのは、九州各地で探した魅惑の食材。かの地で展開する豊かなフードカルチャーを目と耳と舌で感じ取りながら、僕らの旅は進んでいった。九州全県を巡る、壮大なロードトリップへ。

04/03/2021


出会ったのは幾人ものチャレンジャー

日本各地で日々、汗を流しながら信頼できる農作物をつくり続ける生産者たち。そんな農家を訪ね歩き、とびきりおいしく、新鮮な野菜を神奈川・横浜の地で販売する「青果ミコト屋」。この、旅する八百屋を牽引するのが鈴木鉄平さんだ。鉄平さんを先導に、僕らは九州を巡る旅へと出かけることにした。

もうひとりの旅のパートナーはチョークボーイ。鉄平さんが日本各地を巡る旅のチームメンバーとしてその活動をアートにして表現したり、食のイベントなどでは音楽とビジュアルを制作したりといった役割を担う。こうしたふたりと行き先を模索しながら僕らの旅は続いていった。

山中を歩く鈴木鉄平さん(左)とチョークボーイ(右)。今回の旅のパートナーを務めてくれたふたり
宮崎県五ヶ瀬町の「うのこの滝」で。壺の大きさ5,000㎡、落差は20mの迫力

福岡から佐賀を抜け、長崎、熊本、大分、そして宮崎から鹿児島へ。九州には何度も訪れている鉄平さんだが、あらためてこのエリアの深く、濃い魅力をこう話した。

「野菜も風景もすばらしいんですけど、やっぱり僕にとっての魅力は人なんですよね。たとえば東北など雪深い地域だと、冬は耐えしのがないといけないので、助け合って生きていくというハートを感じる人が多い。九州の生産者さんたちから感じるのはそういうマインドよりも、自分が中心となって世界を変えていこうっていう強い意志であることが多い。そんな個性に満ちた人たちと会うのが、九州の旅の楽しみなんです。何かに挑戦したり、新しいものを生み出そうとしている生産者さんたちに会うと、僕自身、勇気をもらえますからね」

言葉どおり、僕らは九州各地で幾人ものチャレンジャーに会った。挑戦の規模は大小それぞれにしても、自分の信じる道を突き進む心意気、新しい手法を自ら構築していくというクリエイティビティには驚かされるばかり。陽気にいくつものハードルを乗り越えていく彼らのストーリーは、僕らをおおいに感化した。

今回のトリップを敢行したのは夏も終わろうという9月の初頭。この時期、大型の台風がふたつも九州を襲い、取材トリップも台風を避けながらのルートづくりに追われた。まさに台風が明日、上陸しようというタイミングで出会った天草の生産者、馬場照昭さんは田畑を歩きながらこうつぶやいた。

「まあ、台風を気にしてもしょうがない。全部ダメになったらまたやり直せばいい。心配もしてないよ」

温州みかんの産地、天草郡苓北町で、創業49年目を迎える「福田果樹園」を訪ねた
別府湾を見下ろす畑でカボスを収穫。温暖な気候でよく育つ

超大型の台風が来るというのに、じつに拍子抜けのコメント。そんな馬場さんを引き合いに出し、鉄平さんは九州の生産者たちのたくましさをこう評した。

「つねに自然の脅威と対峙しているから本当に鍛えられてますよね、心が。僕ら、都会の人間はさまざまなものに依存してるけど、彼らは毎日、自然と共存していて、生き抜く力が蓄えられているんだと思う。近くに水がなければどうにかして引いてくるし、電力まで自給してる生産者さんだって少なくない。そういう強さにはいつも頭が下がりますし、学ぶことが多い。何より、そうやってたくましく生きながらおいしく健全な野菜をつくり続けている人たちに、たまらなく魅力を感じます。僕たちミコト屋のチームは野菜も好きだけど、やっぱり人が好きなんですよね」

海岸線から標高150m付近まで連続する、春日の棚田を見下ろして

鉄平さんとともに何度も各地を旅したチョークボーイは、九州で生産者たちを巡るトリップについてこう言葉を紡いだ。

「野菜がおいしいと感じるとか、どういう場所でつくられているってことを知るのももちろん楽しいんだけど、そういう作物をつくっている人のバックグラウンドに興味があって、いつも鉄平さんと旅しているんです。そういうおもしろさやいろいろな発見が今回のトリップでは毎日あった。

それと、トータルで2週間も、しかも車で九州を巡って、どれだけ多くの人に会ったんだっていう体験でしたけど、それでも会いそびれた人やどうしても行けなかった場所がたくさんあるなっていうのも印象として残った。だからまた絶対、近いうちに九州へ旅したいと思ってるんですよね。そういう気持ちが湧いてくるのが、いい旅の醍醐味なんだと思う」

GORDON MILLER」のバンで、九州を走破した今回の旅
火山の脈動をダイナミックに感じる、阿蘇のトレイルコース


身体全体で考える、ものづくりの魅力

宮崎では、都会でデザインの仕事をしていた過去と決別し、ゼロから農業を始めたという加藤潤一さんに出会った。彼は夜も昼もなく都会で働く毎日に虚無感を感じて、食の世界に飛び込んだ挑戦者だった。今では自らの身体全体を使って作物を育て、消費者の笑顔のために汗を流している加藤さん。そんなストーリーを知って、心の底から共感を覚えたとチョークボーイは言う。

訪れた先で描かれた、チョークボーイの作品

「僕は手で描くっていうことを仕事にしているので、加藤さんの気持ちがよく理解できた。コンピュータなら5秒でできることを、普段の僕は手で何分もかけて行っているわけです。はっきり言って面倒くさいことをやってる(笑)。でも、ひとつひとつの作業に対して身体的な感覚があって、そのことがとても大切だし、気に入ってるんです。

都会でデザインを行っていたときには得られなかった心地よい疲労を、加藤さんも感じているんだと思う。日が暮れたら農作業も終わりっていう明確な区切りがあるのも健全なことだと思いますね。仕事と身体的な感覚がシンクロしていて、生き心地がよさそうだなって。今はコンピュータがあれば机の上だけでいくらでも仕事が完結していく時代。だけど仕事には、身体を動かす心地よさとか疲労があったほうが健全だなと。効率とか利便性も大事だけど、その文脈で語れないこともものすごく多いですからね」

長崎の平戸で巨大なシイラ漁を体験
古くから開墾の重要な役割を担ってきた九州の牛たちに挨拶
杵島岳の山頂から、眼下に広がる草千里が浜を眺める

田畑の土を触り、新鮮な野菜を食べ、あたりの情景を楽しみ、また車に乗り込み、次を目指す。移動を続けながらヘルシーでおいしい野菜や肉、魚を食べ続け、見えてきたのはやっぱり九州という土地の豊かな風土と、たくましい人々の生き様だった。鉄平さんは旅の最後にこう話す。

「オーガニックであるってこともたしかに大事なんですが、これからも僕らが伝えていきたいストーリーの軸はそこじゃない。野菜とか肉は関わった人の内面を映し出すもの。そういう部分はおいしさに凝縮されているので味わって感じてほしいし、たとえばあの生産者さんはのんびりした感じだけどすごい技術を持っていて、じつはものすごいおしゃべりなんだよっていうエモーショナルだったり、ユーモアのあるストーリテリングで作物の魅力を補足していきたい。だからぜひ、ここに登場した食を舌で感じて欲しいですよね」

雲仙在住の料理家、奥津典子さんに会いに
古来種野菜が並ぶ「オーガニック直売所 タネト
白鳥山展望台でピクニック。えびの高原で雄大な池を巡る


鈴木鉄平
2010年、高校の同級生である山代徹氏と旅する八百屋「青果ミコト屋」を立ち上げ、北から南へ農地を巡礼し、おいしい野菜をセレクトして販売。食に関するイベントやワークショップを各地で開催する。近日中に横浜・青葉区でリアル店舗をスタートさせる予定。


CHALKBOY(チョークボーイ)
カフェのアルバイトでメニュー黒板を担当したことからチョークアートの世界に。国内外の飲食店、企業、メディアなどへ作品を提供する他、パフォーマンスイベントやワークショップも精力的に行う。手描き結社「WHW」代表としても活動中。著書に「すばらしき手描きの世界/主婦の友社・刊」がある。

PAPERSKY no.63 | KYUSHU’S NATIONAL PARKS
九州の4大国立公園を巡り、各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ。旅のゲストは「CHALKBOY」こと吉田幸平さんと「青果ミコト屋」鈴木鉄平さん。
text | Miguel Utsunomiya photography | Masahiro 'Lai' Arai (SunTalk) Special Thanks | National Parks of Japan, Gordon Miller