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和歌山の鳥たち、その風景の色彩を重ねて

木版画作家・久木朋子

『PAPERSKY』74号の特集テーマは、和歌山の自然を舞台にした「バードウォッチング」。その巻頭特集に彩りを与えてくれた木版画作家の久木朋子にインタビューを敢行。野鳥との思い出や、制作について話を聞いた。

2026年8月26日

− 今回、和歌山の風景を描き下ろすにあたり、実際に和歌山でバードウォッチングをしたと伺いました。


私は和歌山県出身ですが、他県に住んでいるので、和歌山でバードウォッチングをする機会はあまりありませんでした。今回、南部梅林や和歌浦、護摩壇山、高野山へ野鳥を探しに出かけましたが、特に海でのバードウォッチングは初めてで、和歌浦で出会ったシロチドリのかわいらしさに感激しました。

また、護摩壇山は山頂近くまで車で行けるので、気軽に山深いところにいる鳥に出会えたことはちょっとした驚きでした。久しぶりにオオアカゲラを見ることができ、うれしかったです。

− 2000年に独学で版画をはじめられたとのことですが、きっかけはどのようなものだったのでしょうか。


20代は広告制作会社でグラフィックデザインの仕事をしていました。パソコンを使った仕事ばかりのなか、「自分の手でものをつくりたい」という思いが募り、仕事を辞めてしばらく好きなことをしてみることにしました。

そんな時、ふと木版画をつくってみたのが始まりです。何も調べずにいきなりだったので最初はうまく摺れませんでしたが、多色摺りの色の美しさにすっかり夢中になりました。

大学で木材工芸を学んでいたので彫ることはできたものの、バレンで思い通りに摺れるようになるまで時間がかかりました。でも、少しずつ新しい表現ができるようになるのが楽しくて、やめられなくなってしまったんです。和紙にバレンで摺る多色摺木版画の色は、印刷や他のものでは表現できません。

気がついたら個展を開くようになり、デザイナーに戻るタイミングを逃していました。

久木さんの版画作品の木版。色ごとに版を作り、色を重ねることで一枚の版画が完成する

− 山登りもされるそうですが、はじめたきっかけは?


山歩きは26歳の時、夫に誘われて始めました。運動は得意ではなかったので気が進まなかったのですが、なぜか下山するころには「次はどこに登ろうか」とふたりで相談していました。最初は近所の低山、半年後には2,000mくらいの山、1年後には3,000mクラスの高山へテントを持って出かけるようになっていました。


− 山を歩くことで、作品づくりに影響はありますか。


作品に描いていることのほとんどは、山で経験したことや見た景色がもとになっています。山に登ると描きたいイメージが浮かんできます。

− 山や森で印象に残っている風景や出来事があれば教えてください。


どの山だったかは忘れましたが、山を登り始めた頃、自分が登ってきた道を山頂から眺めていた時に「こんなふうな作品がつくりたい」と思った瞬間がありました。

それが自分の作品づくりの始まりで、その風景は今でも覚えています。ただ、「こんなふうな」というのは実際の景色そのものではなく、曖昧なイメージです。それをどう表現すればいいのか今でも探し続けています。

− もともと鳥をモチーフにされることも多いかと思います。


山に登り始めたころ、シジュウカラの雄が雌にエサをあげる求愛給餌を偶然見たことがありました。その時は鳥の名前も行動もわからず、帰ってから調べてみたらとても面白くて、他の鳥の名前や鳴き声も覚えるようになりました。

そうすると色々な鳥が目に入るようになり、「こんなにたくさんの鳥がいるんだ」ということに気づくようになりました。そうすると「山」とひとことで言ってもそこにはたくさんの木があって、花が咲いて、鳥がいて……と色々なものに思いを馳せるようになります。

何もかも描きたいところですがそういうわけにもいかないので最初にきっかけをくれた「野鳥」をモチーフにすることが多いです。かわいいですし。

− 鳥を観察するときに、特に惹かれる瞬間や仕草はありますか。


山で泊まって、夜明けに鳥たちが鳴き始めるのをテントの中で聞いている時が一番ワクワクします。仕草で言えば、親鳥が幼鳥に餌をあげるところ、さえずる姿、水浴びする様子など……挙げればキリがないですね。


− 思い入れのある鳥や、何度も作品に登場する鳥があれば教えてください。


ヤマガラ、オオルリ、キビタキ、アオゲラ、コゲラ、ホトトギス、エナガ、ジョウビタキは庭にやってくるので、よく登場します。高山の作品だとライチョウやホシガラスやイワヒバリがよく登場します。

サンコウチョウやコマドリやクロツグミなど美しくて珍しい鳥に出会えると作品にしたくなります。それまで一度ぐらいしか見たことのないヤマドリを描いていた時、ふと窓の外を見ると庭にヤマドリがいたことがありました。

− 兵庫に構えられているアトリエ周辺はどのような環境なのですか。


アトリエ周辺はツツジ科の木やコナラ、マツなどが多い雑木林です。野鳥の他にもイノシシやシカ、リス、ノウサギ、アナグマなども棲んでいます。庭には大きなアベマキの木が生えていて秋にはドングリをたくさんつけます。そのドングリをカケスやリスが食べに来ます。春にはヤマガラなどの野鳥たちが巣立ちます。

季節の移り変わりや、そこに棲む生き物たちの変化を観察できるので、そんな生き物たちのつながりや循環のようなものを表現したいと思っています。


− いま気になっている場所や山、これから訪れる予定の土地はありますか?


気になっているのは、九州の山です。未体験の山域で、神話にまつわる山も多いと聞いていますし、今までにない感じの作品につなげられたらいいですね。近いうちに行ってみたいです。

2026年7月15日(水)〜21日(火)まで松坂屋上野店(東京)で開催された「久木朋子木版画展」にて。

久木朋子 @tomoko_kyuki
1970年、和歌山県生まれ。 京都教育大学で木材工芸を専攻、卒業後、広告制作会社に勤務しデザインとイラストを担当。 2000年より独学で多色摺木版画をはじめ、国内外の山登りで出会った自然から得たイメージを自刻自摺で制作する。 2011年からは兵庫県の自然に囲まれたアトリエで季節ごとにやってくる鳥たちや移り変わる木々の様子を日々感じながら制作している。現在、全国で個展を開催する他、CWAJ現代版画展などへ出品。企業のカレンダーや出版物への作品提供も行っている。

展覧会は今後、以下日程にて各地で開催予定。

【2026年】
9月16日〜22日 仙台三越/10月14日〜20日 名古屋栄三越/11月12日〜18日 京阪守口店/12月3日〜9日 東急吉祥寺店

【2027年】
1月31日~2月10日 福屋八丁堀本店(広島)/3月10日〜16日 大丸札幌店/5月5日〜11日 近鉄和歌山店/6月16日〜22日 大丸京都店/7月28日〜8月3日 伊勢丹浦和店

詳細はこちら

PAPERSKY no.74 | WAKAYAMA | Birding
バードウォッチング・フィールド、和歌山の旅へ。「Birding=野鳥観察」をテーマに、アオイヤマダさんをはじめ、イラストレーター、写真家、ミュージシャンの方々と新しい野鳥観察の可能性を探ります。
illustration | Tomoko Kyuki photograbhy | Rui Kawase text | Hikaru Kamo