ワイルドな風貌に人懐こい笑顔。奄美大島出身のプロサーファー、碇山勇生さんは、自然を愛し、自然を守る活動家としての顔も持つ。
「自然の恩恵によって楽しめるのがサーフィン。次世代のためにもこの自然を大切にしたい」。そんな思いから、ビーチクリーンや自然保護活動にも尽力する日々だが、常に心がけているのが「誰とも対立しないこと」だと勇生さんは言う。
奄美大島を代表するサーフポイント、手広海岸。ハマヒルガオなど浜辺の植物が自生し、ウミガメが産卵に来るというこの美しいビーチに、約10年前、護岸整備計画(手広海岸園地整備計画事案)が浮上した。希少な自然を守るべく、勇生さんは環境調査や署名運動などの手を尽くし、行政との対話が実現。その結果、護岸工事は中止が決定したが、一方、工事を受注する予定だった地元の工事会社にも配慮。自然に優しいハニカム構造による駐車場の舗装工事、併設の更衣室の設備をリフォームすることを提案し、話が決着した。「全員が納得できるかたちを目指したい」と語る勇生さんが切望するのは、自然を豊かにしていく新しい公共事業の在り方だという。
手広海岸と浜続きの「ビラビーチ」は、奄美屈指のビッグウェイブポイントだ。ここには小さな堤防があるが、現在は老朽化して半分以上砂に埋もれ、船の係留など本来の用途も果していない。では、撤去して自然の状態に戻せないか、と勇生さんは思い描く。
「堤防がなくなれば、人工物のない浜として日本有数の長いビーチになる。これからは開発より、そういうものに価値がつく時代だと思う。公共事業が“自然のかたちに戻すこと”に予算を当て、地元の工事業者が受注できれば、対立も生まずに奄美の自然が豊かになり、誰もが喜ぶ仕組みができる。そんなきっかけを実現したいんです」
島の東南部にある「嘉徳」は、護岸工事の賛否を巡り、激しい論争が続く場所だ。奄美大島のなかでも唯一、集落内に自然のままの砂浜の姿を残す嘉徳海岸は、別名ジュラシックビーチとも呼ばれ、希少な自然が現存する。しかし、鹿児島県による護岸工事は2023年度の完成予定で、住民たちの間でも賛成派と反対派によって分断が生じているという。一方、ひょんなことから自分のルーツに嘉徳の血縁があることを知ったという勇生さんが願うのは、やはり対立ではなく対話によって生まれる、“みんなのための未来”だ。
「たとえば、集落の廃校を活かして、子どもたちがアートや自然を体験できるような施設をつくれないかとか、いろいろアイデアを考えています。僕がしたいのは反対じゃなくて、メイク。相手と一緒にできることを何か小さくてもメイクしないと、次の道にシフトはできないから。それを楽しくできればいちばんいい」
碇山勇生 Yusei Ikariyama
1984年生まれ。奄美で生まれ育ったプロサーファー。中学1年生でサーフィンデビューし、23 歳でプロ資格を取得。奄美唯一のサーフショップ「Can.nen Surf」を運営する傍ら、環境保護活動にも尽力。パタゴニアのサーフィン・アンバサダー。