Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

Tour de Nippon

自然と人の叡智が織りなす、まだ見ぬ色相を求めて

東京都新島村

東京の南方160kmの太平洋に浮かぶ新島と式根島。伊豆諸島に属する、隣り合うふたつの島へは、都会の喧騒を離れて船で最短2時間半、飛行機ならわずか40分ほど。目に飛び込んでくる同じ東京と思えぬほどの非日常的な島の景観に旅情が掻き立てられる。似ているようでそれぞれ異なる特色をもつふたつの島を行き来するアイランドホッピング。悠久の時間をかけて、自然とそこに暮らす人々がつくり出した未知なる彩りに溢れる島旅へ。

07/28/2025

この島だから生み出せる、この島だけのもの


わずか数時間で、コンクリートのビル群から異国感漂う島々が眼前に迫る。上陸時の高揚感も島旅の醍醐味だ。ミルキーブルーの海に映える真っ白な岸壁の造形美に息を呑む。この独特の海の色は「コーガ(坑火)石」に由来する。数万年前の噴火でできた伊豆諸島は、そのほとんどが真っ黒な玄武岩質だが、新島・式根島は流紋岩という白い火山岩で覆われている。平安時代末期の大噴火で今の島の形になったのだが、そのとき噴出した流紋岩の一種がコーガ石だ。組成的に新島とその周辺でしか採れないという希少な石で、防音、耐火、遮熱に優れ、軽くて加工も簡単。

コーガ石を多用した十三社神社。澄んだ空気が流れるパワースポット

「コーガ石はさまざまなものがつくれるんです」と、「Hostel NABLA」の梅田久美さんが、新島の石づくりの町並みを案内してくれた。丸窓がくり抜かれた家の壁や装飾性の高い庇は、コーガ石ならでは。島の冬は西風が非常に強く、強風で大火事が発生したこともある。そこで生まれたのがコーガ石を建材に使うというアイデアだった。神社の鳥居や社も、江戸時代に流刑地であった新島の流人たちの墓石もコーガ石。厳かにたたずむ、苔むした白い社。賭博好きには賽、酒好きには樽と、島民と流人との交友を感じさせる墓石に添えられた色とりどりの花。色鮮やかに心に刻まれた風景だった。さらに、コーガ石は高熱を加えると、オリーブグリーンのガラスに姿を変える。石の天然成分だけで発色するガラスだ。新島ガラスでできた緑の球を空に透かしてみたら、自然と人の叡智の結晶のようで愛しく思えた。

国際的なイベントも開催される「新島ガラスアートセンター」には、新島ガラスの作品や購入可能なアイテムが並ぶ

日本一くさい発酵食「くさや」も新島独自のもの。米が採れない新島は江戸幕府に年貢を塩で納めており、貴重な塩を節約するため干物をつくる際に塩水を何度も使いまわしていた過程の産物だ。「土曜の昼の下校時は村にくさやを焼く香りが漂っていたから、このにおいを嗅ぐとお腹が空く」と「池太商店」の池村遼太さんは笑う。差し出された褐色のくさやスティックを恐る恐る口にすると、独特の風味が広がる。好き嫌いはあるが、挑戦したい味だ。

くさやは腸内環境を整える効果が期待できる発酵食品。健康志向のファンも多い

くさやに限らず、食に欠かせないのが塩。生命活動にも必須な栄養素だ。「人は海から生まれましたから」と、塩に魅せられた斉木佑介さんは語る。「和み処サンシャイン」を営むかたわら、新島独自の塩を試行錯誤でつくり出している。薪は島の廃材、鉄釜の断熱材にコーガ石、乾燥剤に羽伏浦の砂を使い、海水を煮詰める日々。「塩をなめたとき、背景にある海が浮かんだら、地球を大切にする思いにつながる気がする」と斉木さん。川がなく雑味のない新島の海の塩は、切れのある味が特徴。目を瞑ってなめると、透明で力強い太平洋の潮流のただなかにいるように感じた。

山口県で塩の製法を学んだ斉木さん。島特産のアメリカ芋を用いた新商品も開発中だ


大きな感謝が溢れる、小さな島のひととき


この日は式根島に泊まろうと、新島港から連絡船に揺られて約10分。波しぶきが冒険心を掻き立てる。式根島は1周12キロの小さな島で、おだやかな入江が多い。港に到着して周囲を散策していると、島の釣り名人が「やってみな」と釣り竿を手渡してくれた。すぐに大きなアオムロアジが釣れて、幸先よく式根島探訪がスタート。まずは島の商店「おくやま」へ。店主の奥山敏仁さんが島で育てているアメリカ芋を原料に開発した焼酎は、3年熟成の華やかな味わい。この焼酎を軸に島の食材を活かしたオリジナル商品の展開を進めたいと話してくれた。

1年中釣りを楽しむことができる式根島は知る人ぞ知る釣り天国

夕焼けを見たくて、伊豆半島や富士山を望む神引展望台へ急ぐ。眼下に、多様な青のグラデーションを描く海。足元の白い岩と這松を黄金に染めながら水平線に沈む夕日。振り返ると新島はやさしい淡色に包まれている。この島が何度も見てきた地球の色彩に思いを馳せる、幸せな時間だった。暗くなる前に「ゲストハウスひだぶん」へ。常連客と島の人々が集まっているようで、なにやら楽しそうな声がキッチンから響いていた。

長期滞在、ワーケーションにも最適な「ゲストハウスひだぶん」

翌朝は、「東要寺」で説法を聞いた。横山智公住職は「お寺は苦しみや執着を手放し、先祖に感謝する場」と説く。呼吸に集中し瞑想する静かな朝のひととき。帰り際、「考えても仕方ないことを考えすぎてしまうときは、体を動かして温泉に浸かるといい」と住職の笑顔に和んだ。式根島の温泉は、かの与謝野晶子も湯治のために訪れたという名湯だ。なたで地面を割ったような渓谷の先にある「地鉈温泉」の、海底から湧き出る鉄錆色の源泉は80度。湯加減は塩の満ち引きが決める野趣溢れる秘湯だ。「ひだぶん」の女将肥田光代さんが案内する夜の海中温泉ツアーもあるそうだ。漆黒の海に浮かぶ満点の星空の下、海中温泉に浸かりながら波の音を聴く。ここでしかできない、マインドフルネスな体験になるだろう。

やわらかな夕陽に染まる黄昏時。式根島の神引展望台から

かつて地続きだったという説があるほど近い、新島と式根島を巡る旅。長い時を経て形成した自然と人の叡智。それらが交差して、今もなおこのふたつの島にしかない色彩が生まれている。時とともに地層のように折り重なりながら生まれゆく色合いを見つけに、何度でもこのふたつの島と海を行き来する旅に出たい。

新島屈指のサーフポイント「羽伏浦海岸」。どこまでも続く白い断崖とミルキーブルーの海は圧巻のコントラスト
「おくやま」特製の島焼酎「地鉈」に、焼酎漬けした魚介を合わせて


海に山に町歩き
新島と式根島のアイランドホッピングへ

ツール・ド・ニッポン in 新島&式根島
2025年9月27日(土)・28日(日) 開催

1日目は新島の港からスタート。潮風に吹かれながら、新島の雄大な風景と歴史を感じるサイクリングと町歩きに出かけます。異国のような美しいビーチや、海を眺めながらのハイキングも。その日のうちに連絡船でお隣の式根島に移動して、夜は島の魚介と温泉を堪能しましょう。2日目はお寺で瞑想して心を整えてから、海釣り体験や風光明媚な秘湯巡りへ。新島と式根島をセットで楽しむ2日間。都会の喧騒を離れて、新しい発見や出会いが詰まった島旅。ぜひご一緒しましょう。


Tour de Nippon Guide
新島
式根島

Hostel NABLA
東京都新島村本村6-3-1
TEL:04992-5-0376

池太商店
東京都新島村本村6-3-3
TEL:04992-5-0118

和み処サンシャイン
東京都新島村本村6-1-3
TEL:080-3713-4157

新島ガラスアートセンター
東京都新島村間々下海岸通り
TEL:04992-5-1540

おくやま
東京都新島村式根島281-1
TEL:04992-7-0211

ゲストハウスひだぶん
東京都新島村式根島9
TEL:04992-7-0072

法光山東要寺
東京都新島村式根島11-1
TEL:04992-7-0133

PAPERSKY TOUR DE NIPPON
PAPERSKY ツール・ド・ニッポンは、「日本の魅力 再発見」をテーマに、PAPERSKYが企画・提案するツアープロジェクト。その土地の魅力ある文化、暮らし、自然、食、そしてそこに暮らす人々との出会いを求めて、自転車に乗って日本各地を旅しています。
text | Miyako Shimba photography | Rui Kawase special thanks | Niijima Village