おいしさの理由は、愛ある生産者の思い
木更津市内の養豚場は残る一軒。その平野養豚場を訪ねた。照れ屋の三代目養豚家の夫・平野賢治さんに代わって渉外を一手に担う妻の恵さんは「愛情と努力を惜しみなく注いだ豚さんたちがどんな風に育っているのか。携わる人の思いを知ってもらってから預けたい」と言う。だからどんな取引相手とも必ず話をして選ぶ。生産者だけでなく携わる人とも同じ熱量で仕事をしたいという、夫の思いを受けての恵さんのやり方だ。
ゆえに家族以外は雇用しないと宣言していた賢治さんだが、その心をも動かした19歳の青年・海夢くんが加わり、現在は賢治さんの母との4人で、林SPFというブランド豚を常時1,500頭育てている。一日の大半を糞尿の処理に費やし、餌やりに体調管理に設備のメンテナンスにとめまぐるしい。
「信頼できる飲食店やお肉屋さんはもちろん、けんちゃんのお肉はおいしい、と言ってくれる地域の人の喜びは励みなんです」地元に愛される養豚家でありたいという気持ちは強い。穀物中心の飼料で豚は元気に育つが、人による絶え間ない管理が不可欠。豚コレラなど感染症への対策は万全に備えながらも、その恐怖や緊張感は拭えない。しかしそれ以上に恵さんたちの言葉や行動は、生きる時間を共に過ごす豚への愛情と優しさに溢れていた。
昨年春にドライブスルーのみで開店した「1分おむすび」は、シンプルな塩むすびも、熟成させた酵素玄米おむすびも美味。できる限り地元の無添加食材の具材を用い、地域の他のお店とのコラボで完成する季節の恵みたっぷりのおむすびも絶品。「1. 忙しい人にこそおむすびを。2. 縁と縁を結ぶ=おむすび。3. 来店して1分で会計まで済ませる」という、オーナーで米農家の山野晃弘さんの思いが詰まったお店だ。
「子どもにご飯を残さないよう注意するばかりで、実は自分もお米を育てる工程を知らなかった」。ちゃんと食育をしたいという気持ちが芽生え、無農薬のお米を作ろうと木更津へ移住した。テレビ番組のディレクターという仕事を続けながらの挑戦だった。はじめは東京から通いながら、移り住んでからはWWOOFの制度を活用し、手伝ってくれる人たちを住まわせ食べさせて田んぼを増やした。無農薬での米づくりをやってみせることで、地域の先人たちの信頼を得ていったのだ。
無農薬のお米づくりながら、お願いできる仕事は地域の他の農家さんに一部依頼する。できる人が力を合わせ、自分だけで頑張らない米づくりの先は、おむすびがつなげる。「お米をつくったその先の戦略が必要。お米には誰かが絶やさずつないでいける力がある」。どんな人でもできそう。山野さんは、そんなお米づくりのビジネスモデルを目指す。