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Sections 3&4

TOKYO TREE TREK(TTT)

新宿御苑から浅草へ

 

07/10/2024

最初は、東京といえばどこまでも広がるビルの地平線、世界でも人口が多い大都市という典型的な風景しか思い浮かばなかった。しかし、執拗なほど点灯し続ける電光掲示板とコンクリートのビル群、絶え間ない雑音の向こう側には、人知れず都会の緑が存在していたのだ。

東京に広がるグリーンスペースと樹木を再発見する試みが始まった。日本のトラベル・ライフスタイル誌「PAPERSKY」の編集者ルーカスB.B.とバルコ香織による半年間のリサーチによって、東京ならではの文化と樹木の歴史を探求することができる、細部まで気が利いたトレイル「TOKYO TREE TREK=TTT」が完成した。

ルートは混雑した都市の中でひっそりと存在している場所を通過しながら、東京をぐるりと渦を描くようにして巡る約60kmのコース。大通りを避けながら、静かな場所を通りつつ、ユニークな路地など興味をそそられるスポットが意図的に散りばめられている。コースは6つのセクションに分かれていて、自転車、ハイカー、ランナーたちがそれぞれ自分の好きなペースで、好きなルートをピックアップして、東京の歴史と美味しい食文化を巡ることができる。


新宿御苑から浅草へ


新宿御苑から、戸山公園の箱根山に向かうと街の様子が変わり始める。箱根山は都心で一番高い人造山で44.6mもある(登頂した証として、登頂証明書まで発行してもらえる)。ゆるやかな起伏がある戸山公園を歩きながら満開の桜を眺め、1062年に建てられた穴八幡宮に向かう。朱色に塗られた門と、自然の形や樹木とのコントラストを生み出している。

ルートに戻り、チューダーゴシック様式の早稲田大学大隈記念講堂の側に植えられたハナミズキ並木を通り過ぎながら、神田川の駒塚橋を渡る手前まで大隈庭園を楽しめる。ルートは橋を渡って右に曲がるのだが、左折すると江戸中期に藩士の屋敷であった肥後細川庭園があるので、お見逃しなく。この庭園には散策路があり、3つの台地の中央に池がある自然景観を活かした伝統的な庭園だ。ルートに戻り、川に沿って更に進み、村上春樹の小説「ノルウェーの森」に登場する胸突坂(むなつきざか)を通り過ぎたその先には、歴史的に名高い椿山荘がある。その歴史は南北朝時代に遡るが、元武士、明治時代の軍人かつ政治家であった山縣有朋によって1877年につくられた邸宅が、今のラグジュアリーホテルとなった。広い庭園には全国から集められた歴史を感じさせる史跡が点在し、中でも広島から運ばれた千年の歴史がある三重塔は一際目立つ。

四季折々に表情を変える豊かな自然の中に、湧き水、滝、樹齢500年のスダジイ、樹齢300年のイチョウなどがある。神田川沿いのルートに戻ると、桜が咲き乱れる遊歩道があり、江戸川公園を通り過ぎながら、ジグザクに入り組んだ住宅街の路地へ。斜度のある坂も多く、急な坂には滑り止め防止のドーナツ状の凹凸が舗装されていた。

東京大学の赤門まで、心地よい風とともに軽やかにペダルを漕いでいく。

東京大学付属の小石川植物園は、近代植物学の発祥の地でもある。前身は1684年に徳川幕府が設けた小石川小薬園。4000種もの植物が存在する。クスノキの大木、ヒマラヤスギ、メタセコイアやアイザック・ニュートンのリンゴの木など歴史的に有名な樹木や遺跡などがあり、植物研究の歴史に触れられる場所でもある。台地、傾斜地、低地、泉水地など用いて様々な植物が配置された森は、300年以上もの時間をかけて、都心における森林の山へと成長した。数キロ先にある東大本郷キャンパスの赤門をくぐるとイチョウ並木があり、その先にある工学部前には樹齢300年を誇るオオイチョウ。

大学前の通りから裏道に入り、静かな通りを進むと根津神社に至る。現在の社殿は江戸時代に創建され、神社を中心に発展したであろうことがうかがえる木造建築の家や当時の細かい路地、懐かしい下町風情が残っている。明治時代の文豪たち、夏目漱石、森鴎外、川端康成らはその下町文化という独特な風習に影響を受けた作家たちである。地域の住民たちによるプランターや鉢植えがそこら中に並び、洗濯物が揺れていたりと生活感溢れるエリアだ。しばらく行くと、谷中のシンボル、100年以上前に植えられたヒマラヤスギと「みかどパン店」が目にとまる。

上野公園に向かうと、自然と文化が共存しているようなノスタルジックな風景に変わる。明治時代に、美術館、博物館、コンサートホールなど近代を代表する多くの文化施設が建てられ、国立西洋美術館は、20世紀を代表するフランス人建築家ル・コルビジェによるデザイン。東京藝術大学沿道にある老朽化した鉄のフェンスを40種類もの苗木を植えて、四季の表情豊かな混垣に置き換える「藝大ヘッジ」という樹木プロジェクトも進んでいる。広大な敷地を誇る上野公園周辺には、多くの文化施設があり、公園内にある上野東照宮には、東京大空襲や多くの震災を生き延びた樹齢600年以上のオオクスノキがある。1651年の東照宮が建てられる前から存在していたといい、1879年にアメリカの大統領であるグラント将軍が来日した際に植樹したというローソン・ヒノキや、夫人が植えたマグノリアなどもある。

上野公園は、桜だけでなくムクノキやカエデなど、年間を通して巡りたくなる場所も多い。

上野公園の外にある小さなお店で手焼きせんべいを買った。この辺りには、ランチにちょうど良い場所も多く、HAGISOというカフェとギャラリーを併設した最小文化複合施設(宿泊も可能)もそのひとつ。食材にこだわり、旅をテーマにした各地のメニューなども展開している。

数キロ進むと、セクション4も終盤となる。東京の下町の中心に位置する浅草寺は、645年創建の都内最古のお寺。背後には、スカイツリーも見える。関東大震災や東京大空襲により浅草寺を含めた多くの建物が焼けてしまった。戦後の街の復興のシンボルとして覚えられているのが、浅草寺の境内にある樹齢800年のオオイチョウ。他の建物と同じようにこのイチョウの木も焼けてしまったのだが、その後、新芽が生えて今に至る。焼け焦げて傷ついた跡は、今でも木の表面に残されている。

TOKYO TREE TREK(TTT)の全セクションはこちら
Sections 1&2 北品川から新宿御苑へ
Sections 3&4 新宿御苑から浅草へ
Sections 5&6 浅草から皇居まで

TOKYO TREE TREK(TTT) ROUTE MAP

PAPERSKYが創案した、東京の樹木をつないで歩く約60kmのトレイル。江戸の玄関口として旅人を迎えた品川宿(北品川)を起点に、時計回りに渦を描くようにぐるりと巡り、江戸城のあった皇居を目指して歩くオリジナルルートです。