“暮らしの器”をつくる
生まれ育った静岡県掛川市を拠点にする建築家・横山浩之さん。昔からものづくりには興味があったという横山さんが建築の道を志したのは、思い返せば建物が完成するまでの過程を目にした時に感じていたことだったそう。
「建物の骨組みの状態を見てワクワクしていたことを覚えています。でも、そういうものがどんどん完成していって街並みになるんだと気がついた時に、もう少し何か良くすることができるんじゃないかって感じたんです。都市計画的なまちづくりも重要ですが、僕が思ったのは風景の一部としての建築、風景づくりができるといいなと」
建築事務所で働いたのち、2013年に独立。独立してしばらくは掛川市内で事務所を開いていたが、2019年に実家があった土地を引き継ぎ、自分が生まれ育った場所に自邸と事務所を構えた。
「もともと地元が好きだったので、その良さというものをあまり考えたことがなかったのですが、海も山もあって、景色も良くて、気候も良くて、土地の魅力というのはすごくあると思います。そういう環境のなかで、そこに合ったものを考えていけたら」
そう横山さんが話すように、環境は建築に大いに影響を与えている。
「僕の拠点は田舎のほうなので、土地は広いんですよね。街中だとどうしても狭い敷地をどう利用していくかということで、2、3階建てという考え方になるのですが、広い敷地にどのような気持ちの良い空間をつくっていくかとなると、平屋という選択が増えていくんです。平屋には地面と近い安心感や自分の目線で庭やまわりの環境と繋がっていける良さ、また人と人の近さがあると思います。それらをどのようにプライバシーを保ちながら設計していくかも大事ですね」
横山さんが手がけてきた建築を見てみよう。「磐田の住居と店舗」は、ケーキ店を営む依頼主が、家を建てるタイミングでお店も同じ場所に移転したというプロジェクト。
「ここはもともと茶畑で、そのなかにポツンとあるような感じなんです。南側に何もないので、そこに面した窓でどうやって気持ち良さを切り取れるかを考えました。外から見るとわからないのですが、中は天井も高くて4メートルくらいあります。庭の植物もご家族と選んで、一緒に植えました。そうすると愛着も湧くみたいで、住んでいる方は今とても植物に詳しくなっているんです。植物が成長して、景色が変わっていくことを楽しみながら住んでいけるのではないでしょうか」
「沖之須の家」は、横山さんの実家があった場所に建てられた横山さんの自宅と事務所。
「実家のある地域は、家の敷地がマキの木に囲われていて、敷地面積は広いのに、入り口は車一台分のようなことが多いんです。なので、その反対で、地域に対して開いた家にしたいなと思って、全部取っ払って、パブリックな庭のようなかたちにしました。奥にもスペースがあるのですが、そちらは駐車場でもあり、また洗濯物を干したり、プライベートな庭になっています。手前が事務所なのですが、自宅とパブリックな庭を囲むようになっていて、家の中でも段差を使ってリビングを囲むようにしていて、人の居場所がいろんなところにできるんです。空間の使い方次第で、広くないスペースでも、いろんな居場所があるよと」
こちらは完成したばかりのプロジェクト「小坂の家」。
「山の中にある、もともとは畑があったところで、本当に気持ちの良い場所です。家の真ん中に土間があって、そこから見えるすばらしい景色もあって、家の中なのだけど、外にいるようなイメージです。土間が一段下がってあることで、土間はダイニングになったり、奥さんがフラワーアレンジメントの教室をしたり、人が集まれる場所にもなります」
「山崎の家」は、平屋ではなく、2階建てのプロジェクト。
「はじめは平屋を希望されていたのですが、敷地的に無理があったので、プライベートなスペースは2階にして、1階とは吹き抜けでつながることで、平屋の良さを残すようにしました。このご家族は本当にインテリアが好きなので、なるべく建物はシンプルにつくって、自分たちで暮らしながら色付けを楽しんでいけるように設計しました」
そして実は横山さんは『PAPERSKY』編集長・ルーカス B.B.と編集者でパートナーのバルコ香織の焼津のサテライトオフィスのリノベーションも手がけている(本記事のメインビジュアルはその外観)。横山さんにお願いした理由をルーカスはこう話す。
「静岡の人にお願いしたかったのと、古い友人からの紹介ということもあったけど、実際に横山さんの建築を見て、居心地をとても大切にしていることやアプローチに無駄がないこと。それとすごく話をしっかり聞いてくれるから、いろいろ悩みながら、じっくり練っていくことができたのが何よりよかった」
「僕は“暮らしの器”をつくってあげるという感じがあって、建物ができて完成ではなく、家は暮らしがあって完成していく。どんどん彩られていって、その人の家になっていくプロセスがあるから、家っていいなと思うんです。なので、どんな家にしたいかより、どんな暮らしをしたいかということをメインに聞いています。あとは絶対にやりたいことよりも絶対に嫌なことで、その人の考え方がわかったりするので、それも聞くようにしています。それを自分で噛み砕いて具現化していくのですが、そのつくる過程に関わってくれる職人さんや建築関係の仲間がいることも面白さです。建築は大きなものづくりですが、人の手でつくっていくものなので」
そこで暮らす人たちが家という器に彩りを加えていく。その積み重ねが、少しずつ街の風景になっていく。
横山浩之
1982年、静岡県掛川市生まれ。2013年、横山浩之建築設計事務所設立。静岡県掛川市を拠点に、個人住宅を中心として、店舗、オフィスの設計も手掛けている。