“その驚きは一生。サボテンから広がる無限”
「これもサボテン?」。2022年1月下旬から静岡市葵区で開催されたエキシビション「ANNULATION」で目にしたのは、一般的なサボテンのイメージを大きく覆すものだった。主催したのは、静岡を拠点にサボテンを切り口にした作品を生み出している横江亮介さんだ。
会場の「Barber & Transit Gallery Sard Shave」はバーバーとギャラリーを融合し、アーティストによる展示を定期的に開催している場所。赤をテーマにした円形の什器と照明に加え、横江さんによるグラフィックのパネルが空間に艶やかな彩りを加える。
今回、コラボレーションしたのは友人でもある静岡の器作家、紅林親さん。「通常は黒のプラスチック製の鉢で育成していますが、様々な陶器の鉢に植え替えることによってサボテンの表情がガラッと変わることも面白さの一つです。植物からひとつのオブジェになる感じですかね」と、横江さんは言う。
横江さんとサボテンとの巡り合わせは約15年前。一緒に遊んでいた仲間が絵描きや写真家として活躍する中、何か武器になるものをずっと探していた頃だった。そんな時に出掛けた静岡市内の縁日の一際目立つ人だかりで、変わったサボテンばかりを販売する60代の店主に出会った。
「自分もいろいろ見てきたつもりだったのに、こんなの見たことない、すごくかっこいいなって、衝撃でした。一番惹きつけられたのはフォルムですね」。試しに2、3鉢購入するも、半年も経たないうちに腐らせてしまったが、店主を再び訪ね、その人からいろいろと学んだ。
“変わったサボテン”(突然変異:綴化やモンストローサ)は、数ある中でごく稀に存在する。「以前は、突然変異はいらないから持ってけ、というゴミみたいな扱いをしている人が多かった。僕らの世代がこっちもかっこいいじゃんって言い出してから高騰するようになって、今では希少なものとして扱われてますね」と、新たな価値を見出した。
サボテンを育てるには、長いもので数十年かかる。そして売れれば当然、手元からはなくなる。それでもサボテンをより多くの人に見てほしいという思いから、横江さんは写真に撮ってグラフィックに落とし込むことを始めた。「サボテンをつくってない人がこれをやっても、たぶん意味がないと思っていて。単にサボテンを販売したいんじゃなくて、サボテンを軸として他のことで見せていきたい気持ちがすごく強いんです」
サボテンを育て始めて十数年が経つが、「ビートメーカーや映像作家、フォトグラファーだったり、他の技術を持ってる人たちとクロスオーバーさせていきたくて、人にはできない見せ方や、今までなかったことをやりたいなと思ってるんです」と、サボテンを通じてやっていきたいことはますます増えている。
横江さんがサボテンに出会ったように、彼のサボテンを見たことをきっかけに、自分も店をやりたい、農家をやりたいなどと相談されることも多いという。サボテンの接木の仕方、組み合わせ方が無限なのと同じように、横江さんとそのサボテンの周辺で、これからどんなクリエイションの輪が育っていくのかが楽しみだ。
横江亮介
「THE FASCINATED」というタイトルで、サボテンの巡回展を全国各地で開催。併せて、サボテンをグラフィックに落とし込んだアパレルやポスターを制作している。静岡市のセレクトショップ「doodle & haptic」のオーナーで、ウェブマガジン「GOOD ERROR MAGAZINE」では編集長を務める。