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Nurturing Fish & Chefs

漁師、魚屋、料理人
チームでつなぐおいしさと未来へのバトン

国内外からその目利き、そして仕立てた魚が求められ、料理人からも絶大な信頼を得ている前田尚毅さん。前田さんが5代目を務める「サスエ前田魚店」は、焼津の地で60年続く老舗だ。新鮮な魚の刺身、切り身や干物など、町の魚屋として地元にも愛されている。店内に並ぶ商品を見ていると、こんな店が近くにあったら、と羨ましくなる。

04/18/2023

「仕入れて売るだけの魚屋の商売は、魚があったから成り立っていた。今は魚が少なくなってきているので、漁師さん、料理人さんに半歩足を踏み入れて自分はやっているんです」

前田さんは漁師、魚屋、料理人へとバトンをつないでいくような関係を非常に大切にしている。

「我々は陸にいて、漁師さんは海にいる。人間は見えるところは判断しやすいけど、海にいる漁師さんだって海底は見えない。そうなると難しいのはじつは天然魚で、養殖の魚と違って、自然がつくる天然魚を相手にすることは毎日が勝負。当然、良いときも悪いときもある。だから漁師、魚屋、料理人が、みんなで点と点を一本の線にして、それぞれの持ち場で点数を上げていく。そういうことを考えてやっています」

漁師や料理人との連絡は主にSNSで行われ、そのやりとりは1日平均700 件、多いときには1000件を超えるという。ライブ感をもって伝えられる漁師からの情報は仕入れでの武器となり、また料理人たちには動画などで共有され、その魚がどこで、どんな状況で、誰が獲ったものなのかまで知るところとなる。

「せり場に並んだ魚を見ていると、『あの人にはちょっと大きいだろうな』『この大きさがよさそうだ』と料理人の顔が浮かぶんです。そうなったら、その魚はその料理人に渡します。東京に出せばもっと高い値段になるとわかっていても、地元に落とすんです。魚を大事にしてくれる人、本当においしくしてくれる人に渡したい。あの5人は集まって馬鹿やっているように見えるけど、じつは桁違いに熱心なんです」

“あの5人”とは、前田さんの元に集まる料理人たち。最初は、「てんぷら成生」(静岡市) 志村剛生さんとふたりの関係だったが、「茶懐石 温石」(焼津市) 杉山乃互さん、「Simples」(静岡市) 井上靖彦さん、「日本料理 FUJI」(静岡市) 藤岡雅貴さんの順に加わり、さらに「馳走西健一」(焼津市) 西健一さんが2022年の6月に加わった。それぞれが県外からもその味を求めて客が訪れる人気店だ。

「彼らは自分たちの店が休みの日でも朝と夕方、毎日ここに来ます。たとえば、普通に食べたら食感だけで旨味がない魚を、温度のコントロールで食感を保ちつつ旨味を上げます。それを彼らに渡し、店で料理して出す。お客さんは、その日、そのタイミングでしか食べられないものに出会える。それはおいしいだけじゃなく、記憶に残るものになります。そういう一品を、みんなでつくってきました」

それは各店のシグネチャーとなり、前田さんと各料理人とで閉店後に行われる「夜な夜な会」でさらに味を研ぎ澄ませている。前田さんは月に2〜3回は各店を訪れ、料理人に寄り添って新たな試作を積み重ねてもいる。

「魚を食べて純粋においしいとか、幸せっていうのが増えていくといいんじゃないかな」と前田さんは話す。寝る間も惜しんで魚に向き合い続ける日々も、そこに根本があるからこそ、シンプルな情熱で力強く突き進んでいけるのかもしれない。


サスエ前田魚店(西小川店)
静岡県焼津市西小川4-15-7
TEL:054-626-0003

Text | Daisuke Horie Photography | Toshitake Suzuki