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うどん天国
讃岐うどんの生い立ち

四国の北部にある日本で最も面積が小さく「うどん県」 の別名でも知られるのが香川県だ。雨の少ない土地柄で、最初にこの地に定住した人々は米を主食にすることができず、米に代わる作物を見つけなくてはならなかった。そうした事情を背景に、高い栄養と人気を誇る食べ物 「うどん」 が生まれたのである。

12/09/2021

現在「うどん」として知られる食べ物が、讃岐国(現在の香川県)の記録に初めて登場したのは1700年頃。麦が中国より伝来してから、約900年後のことだ。江戸時代に製粉技術が向上し、効率的な製塩技法が開発されたおかげで、風味と食感のより良いおいしい麺を作れるようになった。その結果、うどん屋があっという間に増えていく。また、この地域は麦の栽培に適しているだけでなく、瀬戸内海周辺で「いりこ」(日本のカタクチイワシの煮干し)の生産も盛んである。このいりこを使ったコクのあるだし汁により、そのままだと素朴であっさりした味のうどんから、旨味深い食べ物へと変化していくのだ。

うどんは日本全国に広く根付いているが、讃岐うどんは他の地域のうどんにはない独自性を保ち続けている。讃岐うどんの魅力は、原料自体が地元で容易に手に入るため、いつも新鮮なうどんを低コストで提供できることだ。また、「讃岐うどん」と表示できるのは、原料量やゆで時間を含む5項目の定義を満たしたうどんだけである。讃岐うどんには、他にも足踏みの工程―うどん生地を(言うまでもなく清潔な方法で)実際に足で踏むこと―と独自の塩加減という2つの特色がある。最終的な原料量や作業にかける時間は、季節、天候、うどん作りの名人の判断によって決まる。

讃岐うどんは他のうどんよりもコシと弾力が強く、太さは中程度。典型的な讃岐うどんのつゆは、コクと自然な甘みがありつつも、うどんの味を邪魔しないあっさりとした味わいだ。いまや讃岐うどんは、専用の濃口しょうゆを冷たいうどんにかける「冷やしぶっかけ」や、熱いうどんに薄切り牛肉をのせた「肉うどん」など、さまざまな食べ方で人々に愛されている。天ぷらのトッピングも人気が高く、いろいろな種類が提供されており、生卵や温泉卵を追加すれば、つゆの味がさらに深まる。天かすとネギは取り放題で、さまざまな薬味も自由に使えるようになっている。

近年、讃岐うどんの人気は日本国内のみならず、世界でも高まってきた。ただ、讃岐うどんの一般的な調理法は他の場所でも再現できるが、本物の讃岐うどんが味わえるのは、香川県だけである。香川県を自転車で旅してみれば、県の魅力を体感しつつ、楽しく運動してお腹を空かせることができる。なんと香川県にあるうどん屋の数は、信号機より多いという。ぜひ自転車に乗って県内を巡り、うどん屋の数を数えてみよう。

入門編として、丸亀にあるお気に入りのうどん屋を3軒ご紹介。




純手打うどん よしや

小さな頃から、うどん作り名人になりたいと思っていた店主の山下義高さんは、まず東京で経営を学んだ上で、2009年にうどん屋を開店させた。よしやのうどんは最近のうどん屋では珍しく、すべての工程が手作業で行われており、手作りならではの豊かな味わいと食感が魅力である。「ぬるいかけうどん」はぜひ試してもらいたい一品だ。「ぬるいうどん」とは、ゆであがったうどんをすぐに冷やしてから熱いつゆをかける食べ方で、「湯だめうどん」または「ひやあつうどん」と呼ばれることもある。ゆでてすぐに冷やすことでうどんが引き締まり、熱いままよりコシが出る。そこに熱々のつゆをかけることで、うどんの弾力と噛み応えがさらに強まるのだ。



なかむら

創業時には畑のすぐ裏にあったため、お腹を空かせて来店した客が畑から自分でネギを取って刻み、鶏舎から卵を取ってきたという伝説のある店。鶏舎はずいぶん前になくなったが、今でも釜揚げうどんがこの店の名物になっており、客が自分で丼に卵を割り入れて並び、熱々のうどんを入れてもらって、そこに特製のだし醤油を自分の好みに合わせて回しかけて食べている。この店のうどんは他の店より細目だが、コシが実に強い。かき揚げのようにサクサクとした天かすも用意されている。



根ッ子うどん

根ッ子うどんは、農村でよく見かけるタイプの温室の中に店を構えており、この温室は地元で「ジャングル」と呼ばれている。この店は現在の場所に30年以上前に創業して以来、だし汁とうどんの作り方を変えていない。ここのうどんは他よりほんの少し太めで弾力もやや強め、だしは風味豊かでバランスの良い味である。店主が作るコロッケは肉汁たっぷりで、天ぷらはほとんど全部揚げたての状態で並んでいる。どちらも、ここまで来た甲斐があったと思わせる美味なトッピングだ。