ひっそりとした森と荘厳な山々に囲まれた、隠れ家的雰囲気を感じさせる大分県日田市のキャンプ場。もとは福岡県久留米市でアパレル関連の仕事をしていた赤星幸平さん、なぎささん夫妻は、子どもたちを連れ、ひょんなことからこの山奥で暮らすことになり、キャンプ場まで始めることとなった。このユニークなファミリーと会うため、PAPERSKY編集長のルーカスは大分へ。同行したのは、同じ大分県国東半島に住む写真家の谷知英さん。お土産のそば饅頭を頬張りながら、キャンプ場と里山暮らしとBESSの家がゆるやかにつながっていった家族のストーリーに、皆は耳を傾けた。
訪れた人/ルーカス B.B.(PAPERSKY編集長)
訪れた人/谷知英さん(写真家/大分県国東市在住)
迎えた人/赤星幸平さん・なぎささん(「camp & cafe redstar works」オーナー、大分県日田市在住、BESSの家オーナー)
1. 家を建てるなんて何十年も先だと思ってたのに
目の前には清らかな川が流れる絶好のロケーション。赤星ファミリーの家のはずなのに、エントランスの前には「camp & cafe redstar works」の看板が。そう、ここはキャンプ場であり、カフェであり、赤星さんのご自宅なのだ。大自然に囲まれながら家族の暮らしを営み、なおかつキャンプ場を経営するなんて、まさに夢のようなライフスタイル。現在の状況に至るプロセスについて、ここに訪れたルーカスと谷さんも興味津々だ。
赤星幸平(以下、幸平) 「以前は、福岡県の久留米の町なかで夫婦ともどもアパレル関連の仕事をしていました。それで、二人目の子どもが生まれる時に、やっぱり土日に休める仕事がいいだろうということで、僕の地元の日田(大分県)に戻って、転職もして」
赤星なぎさ(以下、なぎさ) 「ちょうどその頃、私が雑誌でBESSの広告を見て、夫はこういう家が好きなんだろうな、となんとなく感じたんです。それで、なんかこの家、面白そうだよと夫に話して」
幸平 「家を建てるつもりなんて全然なかったんですけど、まあ一回行ってみようかという感じでBESSの家の実物を見にLOGWAY(BESSの展示場)へ。家を建てるなんて何十年後の話だよ、なんて言いながら(笑)。でも二人で行ってみたら即座に『これだ!』と(笑)」
谷 「テンション上がりますよね、やっぱり実物見ると」
ルーカス 「やっぱり、ワクワクな気持ちになって?」
幸平 「ひとつは、僕が田舎育ちなんで、土間のある家に馴染みがあったんです。近所の人が遠慮なく、土間を通って勝手に入ってくる感じ。まさに、この土間がある理想の家のイメージがBESSだったんです。それで僕は、その時住んでいた日田市内に家を建てようと思い始めたんですけど、BESSの担当の方に色々と相談していたら、『せっかくなら、地元の山奥に家を建ててはどうですか?』と助言してくれたんです。僕の地元は日田ではあっても、市内の栄えた所ではなく、今いる山奥のすぐ近くで」
ルーカス 「BESSの人にヒントをもらったね」
幸平 「そうですね。そういう選択肢もあるのかなということで、実家の近くに田んぼだった土地をたまたま見つけて。それでようやく念願だったBESSの家を建てることになったんです」
ルーカス 「キャンプ場はどうやって始めることになったの?」
幸平 「土地を入手して、家を建てることになったのは良かったんですけど、田んぼのままでは住めない。そこで重機を借りて自分で整地したんです。自力でやってみると思いのほか、土地が広いなってことに気づいて(笑)。するとある日、近くの公園に来た人たちから声を掛けられまして。『ここでキャンプさせてください』と。なんだろうと思って話を聞いてみると、昔は公園でキャンプできたのに今はできないから寂しいというんです。ここに僕の家があって、ちょっと変な敷地になってるけど、それでもいいのって聞いたら、全然いいと。そんなキッカケでキャンプ場を始めようと思うようになったんです」
谷 「もともとキャンプは好きだったとか?」
幸平 「いえ、僕たち夫婦はほとんどキャンプなんてやったことなくて、キャンプ場やるっていっても、何をどうすればいいかわからない。だからキャンプに詳しい人に尋ねたりして。最初は受付だけあればいいからって教えてもらって、そういうもんかなと(笑)」
ルーカス 「それは面白いプロセスだね」
谷 「それで家を建てて、キャンプ場まで始めてしまうっていうのもなかなかすごいですね」
2. 理想的な子育てって、どういうことだろう?
人からのアドバイスをきちんと受け止めながら、山奥へ引っ越し、土地を買い、家を建て、キャンプ場までスタートさせてしまった赤星ファミリー。幸平さんは仕事を代え、車で1時間かけて通える会社に勤務するようになり、なぎささんは仕事を辞めて、家にいる時間が増えた。ライフスタイルは予想外に激変したが、ご家族は皆、今の状況に大満足のようだ。
なぎさ 「私のほうはまた仕事を探そうかなと思ったんですが、子どもがいるので通うのも大変だしということで、キャンプ場の方に専念するかなと。そういう流れで夫は会社員、私はキャンプ場の管理というスタイルになったんです」
幸平 「じゃあ、カフェもやってみようということで、家の一階をカフェ仕様に作り変えて、彼女に仕切ってもらっています。僕はいま、毎日の通勤は少ししんどい場所に異動になってしまったので、平日は勤務先の近くに部屋を借りていて、週末はここに戻るという単身赴任状態なんです」
ルーカス 「生活がどんどん変化していくね」
なぎさ 「それこそ、何十年先に家を建てようとぼんやり思っていた時に、BESSの担当の方から『それじゃ面白くない』と言われて(笑)。私たち夫婦としては子どもたちが独立した後、夫婦でBESSの家に住みたいと考えていたんですけど、子どもたちと一緒に暮らしてこそ面白いのがBESSの家だと、その方の話から思うようになったんです。家自体も家族も、みんなで育てていくというイメージですね」
幸平 「山奥だから都市部より当然、土地も安い。その分、暮らしを充実させることにお金を掛けられる。無理して都会で土地を買って住むより、土地の安い場所に住む方が、自分の人生のためにお金を使えるような気がしています」
なぎさ 「実は、山奥に引っ越すことを夫の両親に反対されていたんです。子どもたちが高校に通う頃、問題が生じるだろうって。確かに学校の問題で田舎への移住を躊躇する家族は多いと思います。だけど、こちらに来てから気づいたんです。逆に子どもの独立心を育むのに田舎はいいなって。もうどうやっても家から高校へは通えないんだから、子どもたちには『どこへ行ってもいいよ』って言える(笑)。高校になったら全国どこへでも好きな場所へ行けるという選択肢を子どもに提示できるのはとてもいいことなんじゃないかって感じています」
谷 「子どもが大学進学の頃、親たちがそういう発想になるのは多いと思うんですけど、早いうちから自分で行きたい学校、地域を選ぶという発想が芽生えるのはいいかもしれません」
幸平 「周囲には20軒くらいしか家がなくて、ほとんどが高齢の方々。でもそれがまたいいんですよね。本当に、子どもたちに優しくしてくれるし、気遣ってくれる。さまざまな生活の知恵をさりげなく教えてくれたり、災害対策についてお話をしたり。山から採ってきたタケノコの炊き方を目の前で教えてくれると、子どもたちも喜ぶんですよ。周囲の方々がほどよい距離感で子どもたちを育ててくれるというか、生きるための力を授けてくれるというか」
なぎさ 「それに、二人でアパレルの仕事をしていた時は昼夜逆転なんて日も結構あったので、朝起きて夜きちんと寝るというスタイルはとても気に入ってます(笑)。山奥に来て、子ども中心の生活になりましたね」
谷 「僕も大分で生まれ育ちましたけど、僕が住んでいる国東半島は海のある地域なので、赤星さんのような山の生活に憧れがあるんですよね。清流とか、フライフィッシングとか。そう考えると大分って広いですね」
ルーカス 「ほんとだね。そろそろ、谷さんが持ってきてくれたおやつを食べようよ」
幸平 「そば饅頭ですね?」
谷 「やっぱり日田といえばそば饅頭だと思って。そば饅頭屋さんだらけだからどれを選んでいいかわからないくらい」
なぎさ 「そば饅頭屋さんはあるのに、蕎麦屋さんがほとんどなくて」
ルーカス 「ええ、そうなの?それもなんだか面白いね」
3. ここに住むからこそ生まれた、かけがえのない至福の時間
和菓子で有名な日田で、お土産の王道といえばやっぱり、そば饅頭。谷さんは、食べ比べのために、いくつかの老舗のおいしそうなそば饅頭をチョイス。お菓子を食べながら、日田らしい時間がゆっくり流れていく。
谷 「ここはそば饅頭が多いけど、うちの近くには唐揚げ屋さんがものすごく多くて。コンビニより多いくらいなんですよ。それだけあっても皆、好きな味があってお気に入りの店が違うんですよね」
ルーカス 「おいしいね、そば饅頭。赤星さんは食べる物を家の近くで採集することってある?」
なぎさ 「ありますよ。ここに引っ越してきてから、ふきのとうが大好きになって。家の裏でたくさん採れるんです。採れた食材を使って料理する時間が私にとってはとても大切で。平日は家族が揃わないので、家族全員で食事するのは週末限定。だから、この食材を使ってこう料理したら喜ぶかなとか、栗を拾えたから週末は栗ご飯だなって。そうやって家族のことを考えながら料理する週末の時間が、私はなにより大好きなんです」
谷 「いいですね、その時間。幸平さんはここに暮らしているからこそ、体感できるお気に入りの時間ってありますか?」
幸平 「ストーブのために薪割りすると、木くずが出るので、それをなんとなく庭で燃やすんです。すると子どもたちが家から出てきてワイワイした雰囲気になる。自然とウインナー焼いたり、肉を焼いたり。あとは寝る前の時間かな。窓が大きくて、カーテンをつけていないんでベッドに横になりながら星がすごく見えるんです。星を眺めながら眠りについて、朝日が昇るころに、窓からの光で自然と目覚める。その感覚が気に入っています」
ルーカス 「BESSの家って窓が大きいもんね」
なぎさ 「そうなんです、もう窓からの景色が絵画みたいで全然、飽きません」
ルーカス 「僕は今、静岡の焼津での海の暮らしと、東京の渋谷での都会の暮らしを行ったり来たり。だけど、山の暮らしもいいなって思う。家を建てること、移住、キャンプ場も全部、人のアドバイスを聞いて決めたことでしょう。それで人生がうまく回ってるのが面白いし、今っぽい。僕、結構、感動してる(笑)」
谷 「うん、うん、僕もそう思う」
ルーカス 「谷さんも以前、仕事を変えたのは人のアドバイスだったよね」
谷 「そう。以前は保育士をやってたんですけど、保育園では何かと写真を撮ることが多いんですよ。カメラとか写真に特別興味があったわけでもなくて。だけどある時、なにげなく撮った写真をアーティストの人に見せたら、『あ、作品も撮れるんだ』と驚かれて。そこから少しずつ、作品らしいものを撮るようになって、地元で僕が写真撮っていることを知られるようになると、今度は撮影の仕事を少しずつ頼まれるように。そんな流れで、保育士を辞めて、写真家になったという(笑)」
幸平 「僕はなんでも自分で決めるっていうよりは、誰かに言われるとやりたくなってしまうタイプ(笑)。絶対これがやりたいっていうことは特にないし、強いこだわりがあまりない。とにかくその時の状況に合わせて、いろいろと見直しながら調整している感じで」
谷 「人のアドバイスで、自分では気付けなかった部分にハッとさせられることありますからね」
ルーカス 「そういうスタンス、重要だね」
BESSの家
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camp & cafe redstar works
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