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BESS × PAPERSKY

庭も街の景色も変えていきたい
創造的な仕事は、理想の暮らしから

One Japan ~ 47 Neighborhoods

日本各地にはそれぞれの魅力やオリジナリティがあり、それぞれの地域はつながりあい、影響しあいながら独自のカルチャーを育んでいる。 47Neighborhoodsは、そんな日本の各地方で実現可能な「クリエイティブで豊かな暮らし」をBESSとPAPERSKYが探す旅の物語。第五回目は長野県安曇野市の造園家を訪ねた。

09/29/2023

四方を壮大な山陵に囲まれた長野県安曇野市。「森の中で子育てしたい」という思いが夫と妻の間で共鳴し、横浜から長野へ思い切って移住した五郎丸良輔さんと会うことに。PAPERSKY編集長のルーカスとともに安曇野へ向かったのは、長野市、松本市の両市で人気のカフェを経営する小島剛さん。小島さんが作ったふんわり美味しいマフィンを食べながら、信州での暮らしや家や文化、思い描く理想のライフスタイルについて語る。

訪れた人/ルーカスB.B.(PAPERSKY編集長)
訪れた人/小島剛さん(松本市のカフェ「amijok」、長野市のカフェ「NorthSouthEastWest」オーナー/長野県松本市在住)
迎えた人/五郎丸良輔さん(「ガーデンホリック」代表、長野県安曇野市在住、BESSの家オーナー)


1. 二軒目のBESSの家で、最高の暮らしを手にいれる



もとは松本市出身の五郎丸さん。以前は神奈川県・横浜市に住みながら、造園設計の仕事に従事。5年間必死に働いた後、松本へ戻り、念願だったBESSの家を建てることに。現在は自ら造園会社「ガーデンホリック」を設立し、日々、美しく豊かな庭の設計、デザインに没頭する。1500坪の敷地には周囲の自然と一体化した夢のような庭の風景が広がり、子どもたちが自由に遊ぶ。近い将来はこの敷地全体にショールーム的な機能を持たせ、訪れた顧客が造園のインスピレーションを受け取れる場所にしたいと話す。


ルーカス 「素晴らしい庭と家だね。こんなに広い敷地に住む人、なかなかいないでしょ」

五郎丸 「実はBESSの家を建てるのは二軒目なんですよ」

ルーカス 「え、どういうこと?」

五郎丸 「妻も松本出身で、子育てはやっぱり田舎のこちらでと決めてました。それで初めの子供が生まれるタイミングで、まずは100坪くらいの土地を安曇野で購入して、BESSの家を建てたんです。だけど造園の仕事をやっているので、会社としての展示場が欲しくなっちゃって(笑)。仕事柄、サンプルの樹木や重機とか木材とかを置く場所にも困ってたのもあり1000坪以上の土地を探してたら偶然、ここが見つかったと」

ルーカス 「それでまたBESSの家を?」

五郎丸 「そう。以前はカントリーログというタイプだったんですけど、気分を変えて今はG-LOGというタイプ。BESSの家との出会いはかなり前ですが、雑誌でBESSの家を見て、東京でLOG WAY(BESSのショールーム)に行ったら完全にやられちゃいました。そこで見たのは『家』というより、『暮らし方』でした。木のシンプルな家、インテリア、家具も自由で、自分達でどんなイメージにでもできる。暮らし方を想像し、暮らしながら創りあげていく感じ。妻も一緒に行っていたので『これしかないよね』ということで意見一致しました。G-LOGにしたのは、NIDO(空中の超ベランダ空間)から自分で造った庭を眺めたかったことと、居住性や子供たちに部屋があってもいいかなと感じたことからです」

小島 「なんか、森と一体になっている雰囲気ですよね、この敷地」

五郎丸 「若いころから夫婦で森の中で暮らしたいといつも言っていたんです。だけど、最初のBESSの家はそういう環境を選んでいなかったので、安曇野に生える木々をたくさん植えて森にしました(笑)。そこも気に入っていたんですが、仕事の幅が増えてきて、子供たちが安心して自然の中や庭で遊べることや、安曇野の森の中で展示場を造りたい、そしてそこから安曇野らしさ、長野県らしさみたいな景色を発信していきたいと、次にやりたいことのイメージが膨らんできたんです。そこでアンテナ広げて、広い敷地を探していたら、偶然この土地が見つかり頑張って次の家を建てようということになったんです。そして前の家に植えていた木々も一緒に引越ししてきました(笑)」

ルーカス 「やっぱりこういう場所に住むと、造園の仕事にもいい影響ある?」

五郎丸 「もちろん。田畑と森と北アルプスという安曇野の景観、人と生き物とのつながりを毎日感じ、自分が整うというか。庭で作業していると散歩している人たちが声をかけてくれて、そこから仕事になったりもします。お客さんから庭造りを頼まれた時、大事にしているのが自然とつながるストーリーの部分。帰ってきてから玄関まで歩いて通る数メートルの空間にちょっとした毎日の発見を入れ込みたい。単にきれいな庭をデザインするんじゃなくて、四季の移ろい、庭への愛着、次世代にもつないでいけるようなストーリー。例えば、安曇野にも生えるエノキという木には日本の国蝶『オオムラサキ』の幼虫が葉を食べたりする。お父さんがお子さんに『このエノキという木は、オオムラサキの食草で、この庭から日本の国蝶が羽ばたいていくんだ』なんて語ってくれたら、この木が家族の思い出の木になるだけじゃなく、木々も庭も自然の中の一部で地球に貢献しているんだ、なんて気づきにもなる。次世代へ続く、『想い』と『空間』が残せるかもしれない。そんな雑木や草花がいっぱいある。自然との繋がりを私もここで毎日感じています」

ルーカス 「じゃ、とても充実しているわけだ」

五郎丸 「はい。毎日が楽しい、最高だと実感しています」

ルーカス 「休みの日とかは何してるの?」

五郎丸 「もっぱら、この敷地内で子供と遊ぶことが増えましたね。生き物もたくさんいますし。あとは川へ行ったり。この前も私の父、私、子供の三世代で川へ行って、釣りをしていたんですよ。自分がそういう幼少時代を過ごしたんで子供たちにそういう経験をたくさんさせられるのはなによりうれしい時間です」



2. 長野は、これからもっと面白くなりそう



BESSの家での暮らし、働き方、仕事の内容にたっぷり満足していると話す五郎丸さん。一方、カフェを二軒も経営する小島さんはなんだか聞きたいことがたくさんありそうな様子。それもそのはず、小島さんはまさに自身の家を建てようというタイミングだとか。というわけで理想の土地について、話が膨らんでいく。


小島 「カフェを運営しているとやっぱり朝から晩まで仕事が続いてしまうんですよ。だけど、松本でカフェを初めて、次に長野市で二軒目。行ったり来たりで落ち着ける拠点がない状態だし、ずっと夫婦でカフェを切り盛りしてるので子供の面倒を見てきたっていう感覚もなくて。だからそろそろ安堵できる拠点がほしいって2,3年前から真剣に考えるようになったんです」

ルーカス 「どういう所がいいの?」

小島 「うん、抜け感のある風景、風通しのいい場所に家を構えられたらなと。五郎丸さんのように自然の環境とつながっている土地であればなお嬉しいなって。もうこの10数年、僕と妻が店に立ち続けて休みもないような毎日で、そろそろ余白とか抜け感というものを意識した生活をしていきたいなと思うようになって」

五郎丸 「やっぱり長野が好きですか?」

小島 「はい、大好き。僕の場合は気楽に山登りできることが嬉しくて、北アルプスに行っても日帰りで帰ってこられるし、町の中に川も流れているし。出身も松本ですけどほんと、長野は気持ちいいですよね」

ルーカス 「アメリカだったらコロラドに似てるかな。平地が広がってて、遠くからも山が見られるフィールドが多い。あとは人だよね。長野の人って自然へのリスペクトがとても高いと思う。そういう土地には多様な文化が広がるし」

小島 「長野の良さに気づいた人たちがどんどん増えているような気もします。移住者が来ることで新しいお店やビジネス、文化が生まれて。東京との距離も近いんで長野に住みながら東京の仕事をしてるっていう人も増えてる気がします」

ルーカス 「そういえば、小島さんはどういう思いでカフェを始めたんだっけ?」

小島 「単に店を持ちたいということではなくて、お客さんたちの港のような場所を作りたいって言えば分かりますかね。自由に出たり入ったり、そこに予想外の交流も生まれて、文化の芽のようなものがその場所をスタート地点に始まって、とか」

ルーカス 「思い出した!小島さんのカフェに遊びに行った時、お店の隣の広場でフリスビーして遊んだんだった」

小島 「ね。そうしたら子供たちが自然と集まってきてね。まさに、あーいう感じ、いいですよね。フリスビーやりたがって子供が集まって、そこに賑わいが生まれて」

ルーカス 「そういう広場みたいな場所ってやっぱり長野の中心部でも減っているの?」

小島 「古い建物が人の手に渡るとすぐ取り壊されてマンションになったり、コインパーキングになったりっていう現象は目につきます。せっかく公園がある場所でも子供が遊んでいなかったりという風景を目にすると、どこも親が忙しくて子供と遊んであげられないのかなとも思ってしまいます。もっとゆっくりしたライフスタイルを皆が目指せばいいのになって。自分もそうですけど(笑)」

ルーカス 「じゃ、マフィン食べてゆっくりしようよ、小島さん」

小島 「はい、分かりました。ゴソゴソゴソ(持参した自家製マフィンを取り出す音)」


3. 自然と人が集まるような場所づくりを



ここで、小島さんのカフェ「amijok」で提供されている数種類のマフィンが登場。長野県産小麦粉と水分保持力の高い焙煎玄米粉を配合し、風味豊かに焼き上げられた美味しいマフィンの数々。チョコレートや桃、抹茶など、豊かなマフィンの味とコーヒーで皆の会話はさらにゆったり、まったりと。

五郎丸 「お金の余裕よりも、心の余裕。それが大事だっていうことを、学生の頃、ある貿易会社の社長さんから学んだんです」

ルーカス 「面白いね」

五郎丸 「その社長さんに蒜山高原の別荘へ連れて行ってもらって。その人の言動、行動を見ていると、なんだ、自分らしく自由に生きていいんだっていう当たり前のことを感じてしまったというか」

小島 「分かります、そういう感覚。僕も昔は旅が大好きで随分、貧乏旅行をしたものですけど、多様な人と出会う中でなんだか自由っていいなと感じました」

ルーカス 「そういうこと、学校では教えてくれないもんね」

五郎丸 「やっぱり良い学校出て、良い会社に入りなさいという教育でしたからね。関係ないかもしれないですけど、僕の会社はガーデンホリックという名前で。もう庭が好きすぎて仕方がないみたいな(笑)。好きで選んだ仕事なので、まあ忙しさが続いても苦じゃないというか」

ルーカス 「みんなが好きなことをやって、すこしゆとりがあってという世の中がいいよね。五郎丸さんもそういう気持ちで庭づくりを続けているわけでしょ?」

五郎丸 「そうですね。僕は庭という枠を超えて、少しでも街中に信州らしい雰囲気を残せないかなと思っていて。そういう環境が長野で暮らす人の心地よさや、信州の魅力につながっていけばいいと考えているんです」

ルーカス 「どうやって?」

五郎丸 「街の中に、少しづつ松本らしい、安曇野らしい、信州らしい雑木林のようなスペースを点々と作っていく感じです」

小島 「街路樹ってことでもなく?」

五郎丸 「1本の木だけじゃなく、数種類、長野県に生える自生種を植える。それだけでも林のような景色になっていく。結構、狭いスペースでもそういう雰囲気づくりはできるんですよ。信州の原風景を街中で感じられるっていう」

ルーカス 「そういう思想って、なにか名前とかあるの?」

五郎丸 「造園には雑木の庭と呼ばれる分野があるんですが、それに近いですかね。昔、里山に住む人々は火を起こすために薪を取ったり、食べ物を採集しながら、山も整備していたでしょう。人が関わることで森が健全に生き続けるということです。そのような雑木が街中にあって、そこに暮らす人や仕事をしている人が雑木から薪や木の実などをもらうという関係性。住む人、信州らしい里山に住む生き物たち、ゆとりある生活の中で生きる自然、そのような景色が街の文化となっていくようなイメージです」

小島 「いいですね、そういう試みが松本でも実現したらいい。松本はレンタサイクルが充実しているし、五郎丸さんが言うような休憩地点がところどころにあると自転車に乗る人にとっても貴重なスペースになりそうで」

ルーカス 「そんな風に、長野に住む人が少しづついろいろな工夫を重ねて、街が面白くなっていけばいいよね」

小島 「そう思います」

ルーカス 「それにしても、このマフィン美味しいよね、モグモグ」

小島 「あ、ありがとうございます!」


BESSの家
https://www.bess.jp

text | Miguel Utsunomiya photography | Shuhei Tonami