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【Papersky Archives】

KYOTO BICYCLE
京の町から山を越え
絶景を目指して丹後の海へ

ムーンライトギア・千代田高史さんと走る
バイクパッキング6日間の旅

「自転車は、世界を探検し、発見するための最適な方法である」そんなPannierの言葉にインスパイアされたPAPERSKYは、まだ見ぬ日本を発見するため、京都駅から丹後半島を目指し、6日間320km の自転車の旅に出た。旅のゲストは、ウルトラ・ライト…つまり超軽装備でアウトドアを楽しむ達人で、そのギアを扱うセレクトショップ、ムーンライトギア代表の千代田高史さん。彼とともに発見した、日本を自転車で旅するということ。

03/02/2026

※本記事は、2016年11月発売の雑誌『PAPERSKY no.52』に掲載した内容を一部抜粋して再編集しています。


東京・岩本町にあるアウトドアギアのセレクトショップ、ムーンライトギア。その代表兼バイヤーを務める千代田高史さんは、ウルトラライト・ハイキング(UL)やファストパッキングといった現在のオルタナティブなアウトドアカルチャーの日本におけるキーパーソン。彼のユニークな点は、そのバイイングのセンスはもちろん、自らが積極的にフィールドで遊び、その情報を発信していることにある。そんな彼の最近のSNSの投稿に、じつはハイキングよりも頻繁に登場しているのがバイクパッキングだ。

「僕はアウトドアの入り口がマウンテンバイクだったんです。大学4年のとき、最初は単純にファッションとして買ったんですけど、やっぱり使いこなさないと格好よくないということで、当時は暇で時間だけはあったから、いろんな場所に走りに行くように。その後、山歩きをするようになり、ULと出会ってからは、その道具を売ることを仕事にするまでになるんですが、じつはいちばん好きなのは今もマウンテンバイクなんです。

夜のうちにマウンテンバイクを押して上がって山の上でキャンプして、早朝にトレイルを下るような、キャンプ&ダウンヒルみたいなスタイルが好きなんですけど、自転車と自分のライフワークであるULは、安易につなげてはいけないと最近まで思ってた。自分のなかで『自転車は趣味、ULは仕事』って線引きがあったんです」

日本海を望みながら丹後半島の沿岸を駆け抜ける。健脚の千代田さんはいつも先頭を走っていた

千代田さんのなかでその両者がひとつになったきっかけは、やはり、バイクパッキングという新しいカルチャーの登場にあった。

「5年くらい前から、海外のサイトで自転車に変なバッグをつけた画像を見るようになって。そのうち、バイクパッキングは欧米で大きな潮流になってきて、ついには『ウルトラライト・バイクパッキング』っていうキャッチコピーを掲げているブランドなんかも登場してきたときに、『これは俺たちが語らないといけないぞ』って思ったんです。そこからは水を得た魚になって、最近はバイクパッキングばっかり(笑)」

嵐山から亀山に向かう途中、峠の手前の茶屋で雨宿り

だが、当初はアメリカという広く平坦な場所が多いフィールドで生まれたバイクパッキングという方法論を、急峻な山岳地帯の多い日本にいかに「翻訳」するのか、手探りの状態が続いたという。

「日本でのバイクパッキングを確立する使命感を勝手に背負っていたんです。だから最初は『バイクパッキングは長い距離を行かないと』とか『なるべくダートを走らないと』とか、ちょっと肩肘張っていたかもしれません。でも、能登半島を一周したり、八ヶ岳をパスハンティングで横断してみたり、伊豆大島とかで島旅をしてみたり、いろんなスタイルのバイクパッキングをすることでその旅の感覚がだんだん体になじんできて、今は逆にいろんなバイクパッキングがあってもいいと思うようになりましたね」

雨のなか、京都の山のジープロードを行く

PAPERSKYがプランニングした今回の旅は、普段の千代田さんからすると幾分スローな旅だったが、そこではどんな発見があったのだろう?

「いつもは1泊2日や2泊3日が多いから、それで旅の満足度を上げようとするとあえてハードなことをするとか、もっと遠くまで行こうとか思いがちなんだけど、今回は6日間あったから浜辺で焚き火したり、朝ゆっくりコーヒーを飲んだり、そういう旅もいいものだとあらためて思いました。『ゆっくり』っていっても、今回もそれなりに走っているし、峠も越えているから、それでも楽な感覚でいられるのは、やっぱり荷物が軽いっていうのは大きいですよね」

お世話になった舟屋の宿・倉忠の女将さんと記念撮影
久美浜のホテル、HOLIDAY HOMEで。贅沢なランチタイム

今回はスローなだけでなく、たくさんの人々との出会いと別れが印象的な旅でもあった。

「1日目はヴィンセントさんの『オラが山』を一緒に走れたのはよかったな。『京都はいっぱいトレイルあるよ。あそこの山もこっちの山も下れるよ』って話してて、ちょっと羨ましくなった。男前豆腐店も、普段のバイクパッキングでも工場見学するのは全然アリだって思いましたよね。だっておもしろかったもん(笑)

あと、峠のパン屋さんにしても、二日目に泊まったぼっかってにしても、なんでそこに移住したのかって話も含めて、その地方に住んでいる人と話をするのはやっぱり楽しいですよね。それに自転車の旅では、そこに着くまでに厳しい峠を越えていくわけじゃないですか。そこまでして会いにくると、相手も『よく来たね』ってなる気がする。ぼっかってのアキさんもその空気感を感じたから、一緒に走ることになったんじゃないかな? 峠では何度か死にかけたけど(笑)」

琴引浜のキャンプ場。日が暮れる前に急いでタープを張る
今回の旅ではスタッフ一同ひとつのタープで眠った。目の前は日本海、琴引浜のキャンプ場で
急坂を登り切り、辿り着いた大内峠一字観公園。日本三景のひとつ、天橋立を一望できる絶好のロケーション

そう、今回の旅で僕たちが最も苦しめられ、かつ最も印象的だったのは、毎日数えきれないほど越え続けた峠だった。国土のほとんどを山岳地帯が占める日本を自転車で旅する以上、避けては通れない峠。けれど幾多の峠を越えていくうちに、不思議なことに峠がそれほど嫌いではなくなっている自分がいた。

気が遠くなるような峠にもいつか終わりはあるし、山登りと一緒で、登りきればやっぱり気分がいい。峠を越えるか越えないかだったら、越えたほうがまちがいなく充実した1日になる。でもそれって、「1日」を「人生」に置き換えたって同じことなんじゃないかって、峠で歯を食いしばりながらいつも考えていた。

晴れ渡った空と日本海を眺めながら、いくつもの峠を越える
最終日、伊根から宮津までの船上で旅の余韻を噛みしめる

「たしかに峠はキツいし、距離やスピードを考えたら国道沿いを行くのが正解かもしれないけど、旅の楽しさを考えたら絶対峠を越えたほうがいいですよね。1日1峠は欲しいって僕も思う(笑)。それに峠があるおかげで日本は景色が単調じゃなくて飽きない。峠を越えると平地に出て、また峠を越えると平地があって、ひと苦労して峠を越えるごとに次の街や集落に出る感覚が、すごく『旅感』があってよかった。そんなことも今回の旅で気づけたことですよね。

自分は今までバイクパッキングをアクティビティ寄りに捉えていて、『この下り坂のカーブをどう駆け抜けるか』みたいな部分にフォーカスしていたんです。でも、旅なんだから訪れる先が自分に何かをもたらしてくれるんだっていう、当たり前のことを思い出させてくれた。移動して景色が少しずつ変わっていって、自分の気持ちも変わって、それが楽しい。バイクパッキングっていうとちょっと難しそうに思われるかもしれないけど、じつはこんなふうに肩肘張らずに楽しめる旅の方法なんですよね。自転車で走る気持ちよさや自由さを感じながら、どこまでも旅ができる。

今回より旅が長くなったって、装備は変わらないですからね。半日洗濯物を乾かす時間があれば、いくらでも旅を継続できる。今回京都だけでもすごく発見があったし、まだまだ日本国内にも見たことのない景色がたくさんある。帰ったら、また日本地図を見返してみようと思います」

旅の終わりにたどり着いた伊根の棚田。紺碧の空と海と緑の棚田のコントラストは気が遠くなるほど美しかった
旅の終着点、伊根の漁港に到着。穏やかな海と舟屋群を眺める


千代田 高史
東京・岩本町にあるアウトドアショップ・ムーンライトギアの代表とバイヤーを務める傍ら、海外ブランドのディストリビューション、イベント運営、オリジナルプロダクトの開発など、アウトドアシーンを舞台にさまざまな活動を展開中。自身もハイキング、ファストパッキング、バイクパッキングなどを通じてチャレンジングな旅の発信を行っている。

PAPERSKY no.52 | KYOTO | bicycle
京の町から一歩外に出て、海の京都を目指す自転車旅を特集。ゲストの千代田高史さんと自転車にキャンプ道具をくくりつけ、いつもと違う京都に出会う旅へ出かけましょう。
text | Masaaki Mita photography | Takashi Ueda Special Thanks | Diatec ltd., KaO