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Japan Long Trail Walker

森に抱かれた歴史の道で、坂本龍馬の足跡をたどって

維新の道 高知県梼原町

今回の旅の舞台は、坂本龍馬らが維新を夢見て歩いた、「維新の道(坂本龍馬脱藩の道)」。高知城下から愛媛県大洲を経て、山口県下関に至る「維新の道」のうち、高知県梼原町を貫く梼原街道を、愛媛県西伊予市との境界である韮ケ峠まで歩いてみる。幕末から明治維新にかけて重要な役割を果たした梼原町には、先進的な街づくりと豊かな森を未来につなげる試みが息づいていた。過去と未来が素敵に共存する、四国随一のトレイルへ!

06/20/2024



未来を切り拓いた歴史の道


1862年、脱藩を決意した坂本龍馬は高知城下の自宅を出発し、那須俊平・信吾親子の道案内のもと、梼原〜伊予(愛媛県)・大洲を経て長州(山口県)・下関へと向かった。龍馬が歩いたその道が、「維新の道(龍馬脱藩の道)」。今回は梼原町を貫く太郎川公園〜韮ヶ峠までの約20kmの足跡を、デイハイキングでたどってみる。

旅の相棒は、南国市でクラフトビール醸造所「Wayfarer Brewing Company(ウェイフェーラー・ブルーイング・カンパニー)」を営むボイド・マットさん。梼原町ではハイキングを経験済みというマットだが、この町に刻まれた歴史の足跡に注目するのは初めて。さて、この道でどんな発見をするだろうか。

スタートは、梼原町中心部にある自然体験施設「太郎川公園」。緑豊かなキャンプ場でテント泊を満喫した後、町公認のガイド、伊藤一博さんと「維新の道」を歩き始める。 

「脱藩」というと大罪のイメージがあるが、梼原では同じ志を抱く藩の監察吏が通行手形を発行してくれたそうで、「『坂本龍馬、まかり通る』と言って、堂々と番所を通過したという逸話がある」と伊藤さん。龍馬と仲間たちは未来への期待に胸を膨らませ、大手を振って韮ヶ峠を越えたに違いない。

「太郎川公園」併設のキャンプ場では手ぶらでテント泊が可能。「Wayfarer Brewing Company(ウェイフェーラー・ブルーイング・カンパニー)」のビールを楽しむマットとルーカス
ホップまで自家栽培する「Wayfarer Brewing Company(ウェイフェーラー・ブルーイング・カンパニー)」のクラフトビールは、キャンプの夕暮れにぴったり
出発前のコーヒーブレイク

当時の往還だった「維新の道」を歩いていると、かつてこの地域に息づいていた独特のお接待文化を垣間見る。それを象徴するのが、道沿いにいくつも現れる茶堂だ。茅葺屋根に板敷きの木造小屋で、中には石像や木像がずらり。住民たちはここで行き交う旅人をもてなしたとか。

 「こんなにカッコイイ茶堂があったら、ついひと休みしたくなるよね!」(マット)

 「ここは旅人が休む憩いの場であると同時に、他藩の情報や文化が集まる交流の場であり、じつは部外者を偵察するという重大な役割も担っていたようですよ」(伊藤さん)

「維新の道」沿いに現れた茅葺の茶堂で。目指す韮ヶ峠まで、あとひと息

県外のハイカーが「維新の道」を歩いて感じるのは、とにかく森が豊かなことだ。梼原町は面積の9割を森林が占めるが、これを生かそうと「伐採する木の価値を高め、植える木に新たな役割を与える」というポジティブな森づくりが進められている。

森から伐り出された材は建築材や木質バイオマスとして町内で利用されており、町内に点在する隈研吾が手がけた建築物はこうした材を活用したもの。それらの施設では木質ペレットほか、風力、水力、太陽光といった自然エネルギーが導入されており、2050年には地域資源利用によるエネルギー自給率100%を目指している。小さな町だが取り組みは先進的なのだ。

昭和23年に建設された「ゆすはら座」は、高知県で唯一の木造の芝居小屋。大正時代の和洋折衷様式が美しい建物は、梼原公民館として長く愛されてきた。建築家の隈研吾が関わった保存運動を経て、現在の形に
農家レストランくさぶき」の定食は郷土のグルメがずらり
町産のスギ材を組み上げた「雲の上のギャラリー」は、隈研吾の手によるもの。梼原の森に溶け込むような意匠だ
目覚めのおいしいコーヒーを、「COFFEE FLAG」で


豊かな森の恵みを次世代に


一方で、育林従業者を育成しながら従来の経済林を針葉樹と広葉樹が共存する針広混交林へ転換し、災害に強く多様性のある森林を育むというプロジェクトもある。地域おこし協力隊として造林を学んだ下村智也さんが、仲間とともに立ち上げた「KIRecub(キリカブ)」は、造林・育林を行う事業者だ。森林資源を残すためには伐採と植林が必要だが、機械化が進んでおらず、人力で下刈り作業を行う造林・育林は重労働ゆえに成り手が減っており、後継者の育成が急務。梼原町では地域おこし協力隊の活動で人材育成を行っている。

「僕たちはただ苗木を植えるだけでなく、どんぐりや地域の種から苗木を育てたり、地元の高校生と植林活動を行ったりと、森を未来に生かす教育や観光の取り組みも行っています」

植林作業中の「KIRecub (キリカブ)」の下村さん
梼原の森づくりを象徴する、造林・育林の現場を見学

さらに梼原ならではの森林の活用法として、森林セラピーがある。森林セラピーとはリラクゼーション効果を科学的に検証した森林浴のことで、町内に2ヶ所あるセラピーロードで町独自のプログラムを実施している。

時間があったら「久保谷セラピーロード」も歩いてみよう。水路に沿った全長3kmの自然歩道で、緑の木々は陽光を浴びてきらきらと輝き、水路には透明な水が流れている。せせらぎに耳を傾けながら散策すれば、歴史の道を歩くのとはひと味違う、非日常感を味わえそうだ。

平地が少ない梼原町には、こんな石垣がいくつも築かれている
梼原町にゆかりのある志士の像が並ぶ「維新の門」で和む2人

もうひとつ、“自然”つながりで訪れたい施設が、「百一草園」。園主の中平勝也さんが約400種の山野草を集めた私設自然植物園だ。園芸的な品種は扱わず、バイカオウレン、フクジュソウ、希少な高山植物のキレンゲショウマと、さまざまな山野草が季節ごとに花を咲かせる。

中平さんは広大な施設とそこに点在する野草をたったひとりで管理・手入れするのだが、その様子にマットは、「中平さんは“グリーンサム(=植物の命を導く人)”なんですね」としみじみ。 

「いろいろ試したいことはあるけれど、やり直すチャンスは1年に1度だけ。たくさん失敗して試行錯誤して、時間をかけて種類を増やしてきました」(中平さん)

高知の “グリーンサム”といえば、牧野富太郎博士を思い浮かべるが、「発見」の牧野博士に対し、中平さんは「育てる」派。中平さんのように植物に情熱を傾ける“グリーンサム”は、高知には珍しくないそうだ。

「百一草園」に咲いた可憐なフクジュソウ

1泊2日の旅を振り返り、「歴史のこと、森のこと、植物のこと。デジタル全盛の現代だからこそ、大切なことを口伝えし、次世代に残そうという町の人たちの気概に感動した」とマット。維新という夢を拓いた歴史の道は、150年後の今も未来を向いている。

今回のルートのゴール、韮ヶ峠に建つ坂本龍馬像




Trail Guide
農家レストラン くさぶき
高知県高岡郡梼原町太郎川3717
TEL : 0889-65-0500
久保谷セラピーロード
高知県高岡郡梼原町松原〜久保谷
TEL : 0889-66-0044(あいの里まつばら)
雲の上の図書館
高知県高岡郡梼原町梼原1212-2
TEL:0889-65-1900
太郎川公園(ゆすはらキャンプ場)
高知県高岡郡梼原町太郎川3799-3
TEL : 090-7626-6845
パンとおやつ ぶどうのたね
高知県高岡郡梼原町梼原1455
百一草園
高知県高岡郡梼原町東川488
TEL:090-8977-3751


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macpac story
macpacと旅する、高知・梼原町 深呼吸する散策道へ出かけよう
macpac
ニュージーランドの自然環境が生んだシンプルで機能的なバック、リュックを幅広く展開するアウトドアブランド
text | Ryoko Kuraishi photography | Yasuyuki Takagi special thanks | HARDWOOD Inc., Takefumi Yabe