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DANNER × PAPERSKY

OUTSIDERS

自然と都市の機能が調和する静岡市のNEWガイドマップ

アクティビティを通してその土地の風土を味わうと、新しい文脈で文化や歴史、地域の人々が姿を現すことがある。外遊びを楽しむ人々のフィルターで新しいガイドブックを作っていくシリーズ『OUTSIDERS』の第3弾は、静岡市へ。DANNERとPAPERSKYがコラボレートする『OUTSIDERS』とは、外遊びを楽しむ人々の目線でさまざまな土地を訪れ、オリジナルのマップを制作していくプロジェクトだ。

10/07/2024

駿河湾に面し、日本有数の景勝地である三保の松原や日本平から富士山を望む静岡市。人口50万以上の人々が暮らす政令指定都市でありながら、市内から車で20分も走れば、海、川、山が広がる。また、徳川家康公が人生の1/3を過ごした地であることから、駿府城跡や久能山東照宮など歴史的建造物も多く残っているのも特徴の一つだ。

「暮らしの延長線上に自然があって、大きな病院も商業施設もあって、新幹線も止まる。この街にはひと通りのものが揃っている」。そんな市民の声を旅の道中でよく耳にしたが、まさに自然と都市の機能が調和する都市と言える。

静岡市と焼津市にまたがる標高470mの満観峰。山頂には展望広場があり、静岡市越しに富士山を一望できる。2〜3時間で往復できる、市民の日常の中にある気軽なトレッキングコースだ


偶然か必然か。ドーナツ状に個性豊かな店が立ち並ぶ


喫茶店『EBONY』の店主であるミッチーさん、アウトドアユーズドショップ『LODGE』オーナーの築地翔吾さん、イラストレーターのumiさん。今回の旅の案内役の共通点は、活動の拠点が市の中心部からは少し離れたところにあること。静岡駅を真ん中とするならば、そこからかろうじて歩けるかどうか、という距離だ。市内と市外を区切る厳密な境界線はないが、『EBONY』も『LODGE』も、umiさんが働く書店『ひばりブックス』も、そして今回紹介する個性豊かな店の数々も、偶然か必然か、中心地からドーナツ状のエリアに店舗を構えている。

不特定多数の人々の目に留まる駅前に店を構えることを理想とせず、むしろ店が小さいこと、駅から少し離れていることにメリットすら感じているのだとミッチーさんと翔吾さんは話す。

「市内のはずれ、駿府城公園近くの雑居ビルの2階に『EBONY』はあるので、街を歩いていてふらっと遭遇できる場所ではないんです。うちのことを何かしらで知って、わざわざ足を運んでくださる方が多いので、そういうお客さんを接客できるのはすごく心地が良いなって思いますね」(ミッチーさん)

昔ながらの深くてコクの有るネルドリップ珈琲と、カレーやナポリタンが看板メニューである喫茶店『EBONY』。駿府城跡から徒歩3分ほどに位置する。

喫茶店『EBONY』の備品の一部が、かつてのこの街で28年間続いた喫茶店『OAK(オーク)』から受け継いだものであることは知る人ぞ知るエピソードだ。県内外から多くの人が通った歴史ある名物喫茶『OAK』のオーナーだった海野衛さんは、ミッチーさんのコーヒーの師匠にあたる。

「海野さんが『OAK』を閉めた直後に、1年だけ別のカフェで一緒に働かせてもらっていたことあるんです。その後、お互いの事情で一度離れたんですけど、連絡はずっと取っていて、この店を出す際にいくつか備品を譲り受けました」

アウトドアユーズドショップの『ロッジ』は、近年、再開発の動きで感度の高い店が増えている七間町通り沿いにある。ビンデージのDANNERのブーツや年代物のランタンなどと一緒に、アウトドア用品の古着、最新のトレッキングアイテムを取り揃えている。

アウトドアジャンルの古着とビンテージのアウトドアギア、ULなど、最新のアウトドアアイテムを取り扱う『LODGE』。DANNERのビンテージものも定期的に入荷している。

「アメリカに買い付けに行って、自分の目で触って、選んだものを店に並べています。仮に店を大きくしたり、店舗を増やしたりすると、きっと目の届かない部分が出てきてしまうと思うんです。LODGEは1店舗しかない小さな店なので、一品一品、自分の言葉を通してお客さんに提供できています。これは小さい店のメリットだと思います」(翔吾さん)


人も物も行き交った街には目利きが多い!? 古き良き店が残っているワケ


喫茶店『EBONY』の向かいのビルは、“クリエイタービル”とも呼ばれ、建築事務所やデザイン事務所があり、そのデザイン事務所内には各国の民芸品や古道具を扱うショップ『PILOTIS(ピロティ)』が併設されている。また、1階にはイラストレーターのumiさんが働く『ひばりブックス』が店を構える。

ひばりブックス代表の太田原由明さん。「町にある本屋さん」というあり方を大切にしながらも、詩集・短歌コーナー、外国文学、アート、人文書などを多く取り揃え、自費出版のようなZINEやアートブックも積極的に販売する。
新刊書店内にカフェとギャラリーを併設する『ひばりブックス』。少年誌や雑誌、小説に専門書、絵本などと並列して、リトルプレスで作られたZINEや写真集が並ぶ。カフェエリアでは近所のスイーツ店のメニューをイートインできる。

「私がアルバイトをしている『ひばりブックス』もそうですが、市内から外れたエリアにあるお店は、店主やオーナーのその人らしさが滲み出ている気がします。流行り廃りとは無縁な価値観の中でお店づくりをしていて、それが魅力になっているんだと思います。私は大人になってからこの街の魅力に気づいたんですけど、静岡市って老舗と呼ばれる古き良き個人店がけっこう残っているんです。でも学生時代は、この街が流行りに敏感すぎて、どこか嫌だった。東京で流行ったお店がすぐにできては消えていく、そんな印象がありました(umiさん)」

国の重要無形文化財である「型絵染」の技術保持者(人間国宝0に認定された染色家である芹沢銈介の作品とコレクションを収蔵する芹沢銈介美術館。生前彼が暮らした「芹沢銈介の家」も合わせて見学できる。

街を代表する老舗ピザ屋の『アンアン』、焼きそばの『松竹』、定食屋『はまや』など、地元民から長きにわたって愛されている店がある。都市として膨らみ、大手の商業施設が軒を連ねても、街から個人店が消えることはない。そんな静岡の街について、元『OAK』オーナーの海野さんは独自の見解を述べてくれた。

海野衛さんを囲んで。

 “くだらない”という言葉の語源。それは、文化の中心だった上方から江戸へと送られる良い物を「下りもの(くだりもの)」と呼んだことに遡るという。江戸で消費される良い物=くだりものに対し、できの悪い物を指したのが「くだらない」という言葉だったという説だ。

「静岡はね、いろんなものが通り過ぎていった街なんですよ。東海道が通っているから、古くから、人も物もたくさん行き交った。つまり静岡市民はくだりもの(良い物)も、くだらないもの(悪い物)もたくさん見てきた。だからこの街にはね、昔から目利きが多かった。確かに流行に敏感な街という側面はあるかも知れないけど、古くて良い個人店が点在しているんですよ」

リサイクルショップ『スペイシー』。2階には家具類を、1階にはインテリア雑貨、食器類、レコード類などを販売する。


思いもしなかったものに出合える街


現在はイラストレーターとして作品を発表しながら、『ひばりブックス』や市内のスーパーでパートタイムで働いているumiさん。スーパーでは鮮魚コーナーで魚を捌くことが日々の業務だという。

「もともと私は、仕事がイラスト一本でなければいけないとは思っていなくて、むしろどんな経験も自分の活動に活きると思っているんです。だから色々やってみたい人で。スーパーのバイトも魚を捌けるようになりたくて応募しました。募集していた内容に魚を捌く仕事は入っていなかったんですけど、面接でひたすら捌きたいとアピールをして、なんとか許可をいただきました(笑)」

静岡出身のumiさんは数年前まで京都に暮らし、現代美術家の名和晃平さんの事務所で勤めた後、帰郷。イラストレーターとして活動を開始するが、そのスタートを後押しし、さまざまな人と彼女をつないでくれた人物が、海野さんだ。サロンとして機能した『OAK』が閉店した後も、海野さんは人と人をつなげることはやめなかった。

(1-2枚目) 各国の民芸品・雑貨などと、日本の古物を扱う『PILOTIS』。(3枚目)焼きそばをメインにラーメンや餃子が食べられる老舗の町中華『松竹』。(4枚目)治水機能と公園機能を有する麻機遊水地。市民たちの手で地域に在来していた植物や生き物を保全する活動の場でもある。(5-6枚目)静岡市を代表するクラフトビールブランド『West Coast Brewing』。静岡市内に直営店を複数展開し、醸造所を構える用宗漁港には、“ブルワリーに泊まれる”をコンセプトとした直営ホテル『The Villa & Barrel Lounge』がある。

また、海野さんのパーソナルワークのひとつに、静岡市内の気に入った店のチラシを勝手に作ってしまうというプロジェクトがある。誰に頼まれているわけでもなく、海野さんが信頼する店のチラシを自費で制作し、街に配る活動だ。イラストを担当するのは、umiさん。しかも翔吾さんのお店『LODGE』は、この勝手にチラシプロジェクトで取り上げられた数少ないお店のひとつだ。ミッチーさんのコーヒーの師匠であり、umiさんのイラストレーターのきっかけを作り、翔吾さんのお店『LODGE』を後押しする。今回の案内役の3人をつなぐ人もまた、海野さんなのだ。

そんな海野さんが手掛ける小さなメディアのようなチラシに、この旅で出合った店を物語る一文を見つけた。

“街の通りを歩いている時に惹かれるのは、ちいさなキラリとした個性のある店だ。その前を通り過ぎて、それまで気付かなかった何かを目にしたのかと思わず振り返ってしまうような店”

思いもしなかったものに出会い、思わず振り返ってしまう。これは街を歩く醍醐味であり、旅の醍醐味でもある。人が何かに心を奪われてしまう、そんな瞬間を表現する一文だ。

均一化された、充足感のある都市の豊かさとは裏腹に、この地でしか出合えない個性を光らせる店の数々。そのコントラストこそが、静岡という街の魅力であり、そうした両極端な価値を行き来しながら、消費するに値するもの、次の世代に残したいものを暮らしの中で見極めていく。そんな姿勢こそが、先代たちから静岡市民が受け継ついできた特性なのかもしれない。

1932年にワークシューズメーカーとしてスタートしたDANNERが、原点に立ち還り、原産国、素材、工程等を見直し、開発された『DANNER FIELD』。その『DANNER FIELD』をレトロリニューアルしたモデル「DANNER FIELD R」は、クラシックな見た目ながら、現代版ワークシューズとしてアップデートされており、ハイキングやキャンプといったアウトドアシーンはもちろん、「街」というフィールドにおいてもその力を発揮する。写真左:DANNER FIELD LOW R / 写真中央:DANNER FIELD R ※写真右は私物



SHIZUOKA Guide


ミッチー(写真中央)
1993年生まれ、静岡県静岡市出身。高校卒業後、ジャズバーやカフェ等の飲食店勤務を経て、2022年駿府城公園近くに喫茶店ebony(エボニー)をオープン。IG:@ebony.jp

築地翔吾(写真右)
静岡県静岡市出身。高校卒業後、7年間のサラリーマンを経て、2015年LODGEを開業。IG:@lodge_heavyduty

umi(写真左)
1990年生まれ、静岡県静岡市出身。高校卒業後、京都での生活を経て帰郷。現在は個人書店とスーパーで働きつつ、イラストレーターとして活動する。IG:@ o__u_m_i

DANNER
1932年創業のアウトドアブーツブランド。1950年代にはアメリカで初めてVIBRAM®を使用した登山靴を製作。1979年には世界初のGORE-TEX®ブーツであるダナーライトを開発。現在はマウンテンブーツからミリタリー、スニーカーまで各種ラインナップされている。
text | Ryo Muramatsu photography & videography | Masaru Furuya