1都3県にまたがる大トリップ
まだまだ寒さの残る春の週末、「tempra」のオーナー、小林健太さんを誘ってバイクパッキングに出かけた。目指すは、67名の選手が参加する東京オリンピック女子ロードレースのコース。府中市から富士スピードウェイまでの147km、獲得標高2692mという超ド級のハードコース。当初、皇居をまわって八王子まで走り、また皇居に戻ってくる周回コースが設定されていたが、よりダイナミックなレース内容とすべく、東京を起点に富士五湖と富士山の風景を楽しめるラインレースとなったそうだ。
スタートは西武多摩線多摩駅近くの「武蔵野の森公園」。ここから多摩川を渡り、都内のサイクリストに人気の通称“バーミヤン坂”を含む尾根幹で多摩丘陵の起伏を体感しながら西を目指す。市街地が終わるといよいよ、勾配のきつい、長い登坂が待ち構える道志みち(国道413号線)だ。
周囲の趣きががらりと変わるのは、津久井湖のあたりから。道志みち後半、山中湖手前の山伏峠(80.3km地点 )まで延々と、標高差なんと1000m以上の厳しい登坂が続く。そんな上りパートで嬉しいのは、ちょっとした立ち寄りポイント。サイクルラック併設の大渡の湧水でおいしい湧き水を汲んだり、眺望スポットの久保の吊り橋では、横にあるみやげ物店でおいしいピーナッツを買い食いしたり。そんな道草が何よりの息抜きに。どうにか1日目のゴール、道志の森キャンプ場にたどり着いた。
2日目は道志川でのフィッシングからスタート。バイクパッキングの醍醐味はこうした寄り道なのである。道志村漁業協同組合が運営している「道志川渓流フィッシングセンター」では、道志川の本流を仕切った釣り場で餌釣りとフライフィッシング、テンカラが楽しめる。道具もエサも貸してくれるから手ぶらで立ち寄っても楽しめる。
「道志川は昔から水がきれいなことで有名で、その昔は横浜から出航する遠洋漁船の積み込み飲料水とされていました。『赤道を越えても腐らない水』と、船乗りたちに重宝されたそうですよ」(「道志川渓流フィッシングセンター」池谷幸昌さん)
現在は渓流釣りのメッカとなっていて、3月から9月いっぱいまでヤマメやイワナ、ニジマスを、6月から10月半ばまでアユを釣ることができる。朝いちばんの釣り場では編集長ルーカスと小林さんがエサ釣りに挑戦中。小林さんは2投目で難関のヤマメをヒット!ルーカスも連続してニジマスを釣り上げた。結局、正味30分でトータル7匹を釣ってリリースする。ちなみに、5月以降は敷地内に観光レストランがオープンするので、そこで釣った魚を炭火で焼いて食べることができるそう。
釣りを終えて自転車にまたがり、道志みちをさらに西へ、西へ。ついに山伏峠(85km地点)が見えてくる。ここから山中湖までは久々の下り、快調にスピードを上げると、突如、雪を抱いた富士山が姿を現した。コース上で最もエキサイティングな区間だ。
山中湖に至ったら、湖を周回するサイクリング道をのんびり走り、「山中湖サイクリングベース」へ。山中湖村でバイク文化を推進する野間さんと落ち合った。
「オリンピックをきっかけに、この美しいコースを世界の人に見ていただきたい、日本の自転車文化を世界に発信したい。山中湖村ではサイクリングロードの敷設やサイクリストが休めるベンチの設置など、サイクリストのための取り組みが進められています」
山中湖村のバイクフレンドリーな試み
野間さんは昨年、役場に務めるサイクリストのトム・ボシス選手と力を合わせ、「交流型・地元密着型・育成型」のチームを立ち上げた。現在は7人の日本人選手と2人のフランス人選手が登録している。さらに山中湖の自転車文化の発信拠点として「山中湖サイクリングベース」をスタート。野間さんたちの夢は、地元で選手を育成し、ここから次のオリンピック選手を輩出すると同時に、山中湖を自転車の聖地にすることなのだとか。
山中湖を離れ、コースは後半のハイライト、籠坂峠(96km地点)へ向かう。この先はいよいよ、富士スピードウェイだ。今回は特別に許可を得てスピードウェイ内のアクセスルートを自転車で走らせてもらった。フィニッシュは憧れのグランドスタンド。旅の余韻に浸りながら、ゴールとなるレーシングコースを眺めた。
旅の最後、1泊2日の旅を振り返る。「東京の市街地から山へ、途中で山中湖や富士山を挟みながら、グラデーションのように風景が変わっていくのがおもしろかったよね」と小林さん。立ち止まって風景を楽しんで、キャンプ、釣り、地元のレストランやみやげ物店に立ち寄って。コースを外れて寄り道をして、地元の人との交流を楽しむ、そんな余裕のあるプランニングがいいという。
小林さんいわく、バイクパッキングは大人の遠足。自分の足で行けるところまで行くという経験は人生を豊かにしてくれる。