山と道|2人で追求する、どこまでも軽快な山歩きのカタチ

世界最軽量クラスの山道具で知られるガレージメーカー「山と道」。夏目彰さん、由美子さんは夫婦で山歩きに魅せられ、このブランドを立ち上げた。極力荷物を減らしたうえで軽量なギアを選び抜き、軽快な山歩きのスタイルを追求。ウルトラ […]

05/31/2013

世界最軽量クラスの山道具で知られるガレージメーカー「山と道」。夏目彰さん、由美子さんは夫婦で山歩きに魅せられ、このブランドを立ち上げた。極力荷物を減らしたうえで軽量なギアを選び抜き、軽快な山歩きのスタイルを追求。ウルトラライトなバックパック、スリーピングマットなどを世に送りだすことで、新たなハイキングカルチャーの模索を続けている。
夏目さん夫妻の場合、山歩きの大きな目的はもちろん、軽量ギアのテストや新たなプロダクト開発のヒントを得ること。今年2月にはニュージーランドを縦断する約3,000kmのロングトレイル「テ・アラロア」の一部を約1ヵ月かけて踏破してきたばかりだ。夫婦で敢行した今回のトリップで多くのことに気づけたと彰さんは言う。
「ニュージーランドのトラックは本当によく考えられていると思う。ちょっと歩くだけで景色がどんどん変わっていくので飽きないし、整備されたトラックでは急な勾配も少ない。ピークを目指すことに重きを置いてないコース設定が新鮮でしたね。でもテ・アラロアはまだ完成したばかりで、なかには整備されてないトラックも多い。いままで道じゃなかった場所を、強引にトラックとして指定している場合もあるので、胸のあたりまで草木が茂っているところもあれば、湿地のなかをどろどろになって進まなきゃいけないときもある。でも道がないから川をカヌーで渡るコースにしてしまおうとか、とにかく発想が豊かだなとも感じました。ニュージーランドには本当に歩くことを楽しむ文化が根づいているんだなって」
時に悪路でのウォーキングを強いられたというロングトレイル。場合によってはハードな状況が、ふたりの旅をより充実させたと彰さんは語る。
「長期間、さまざまな状況でギアを使いつづけないと、耐久性を見極めることができませんからね。そのギアを1週間くらい使いつづけて大丈夫だったとしても、一ヵ月間歩きつづけてやっと問題が見つかるケースだってある。バックパックってあらためてこういうものなんだとか、こうすればもっと背負いやすいとか、長く歩きつづけることでそのギアに求められる本質的な機能とか、哲学といったものがどんどん頭のなかに落ちてくるんです。歩いていくうちに、こういうギアがあったらいいなとか、このギアのディテールはこっちのほうがいいぞとか。テ・アラロアのロングトレイルが教えてくれたことは想像以上に多かったですね」
道中では想定内のトラブルにも出会った。いままで耐久性に問題のなかったバックパックが、派手な転倒によって、壊れてしまったのだ。でもそんなときは、得意のリペアスキルを駆使して問題を克服。パートナーの由美子さんはこう言って笑う。
「もちろん針と糸を持っていたのでその場でバックパックを修理して。道中で出会ったハイカーのジャケットを修繕したり、パンツにリペアテープを貼ってあげたりもしたんです。とっても喜ばれました(笑)」
夏目さん夫婦が信条とするウルトラライトスタイル。軽量なギアで山を歩くことの楽しさも再確認できたと彰さんは言う。
「荷物が軽いとやっぱり軽快に歩ける。自然のなかを気持ちよく歩くということに集中できるなってあらためて感じましたね。重装備で山に入っている人たちが苦労しているのもよく見かけましたしね。たくさんの荷物を持っていると、当面必要ないものはまとめてふもとの宿に預け、山を降りたときにまたその宿に戻らなきゃいけない。でも僕らはバックパックひとつで身軽に動いているので、そんなことをせずに自由に移動できる。ウルトラライトのギアというのは生地が薄かったり、フレームがなかったりするんですが、複雑で重厚なギアだとロングトレイルの道中、壊れるリスクもより高まる。そもそも長い期間、歩くのであれば、道中でギアをメンテナンスするのは当たり前だと僕らは考えているので、ウルトラライトであるデメリットってほとんど思いつかない。長い距離を歩きつづける場合、ウルトラライトスタイルのメリットがより鮮明になると感じますよね」
荷物の重量を極力抑えている彰さんの、食料を除いたベースウェイトは約4kg。だからこそ持参できた“余分”な持ち物もあったと、由美子さんは笑いながら言う。
「せっかく荷物を軽くしているのに、どうしてもワインを持っていくというんでペットボトルに入れて(笑)。飲めば飲むほど軽くなるとか言って、山のなかで優雅にワインを楽しんでましたね」
夫婦ふたりで、さぞかし仲むつまじい道中だったのだろうと問うと、彰さんからは意外な答えが返ってきた。
「ずっとふたりで、誰にも会わない日が何日も続くと、時にはいらいらして喧嘩もするんです。でもまた歩きつづけているうちに、なんで喧嘩したんだか理由さえ忘れてしまって、仲直りする。お互いサポートしあいながら進まなきゃいけないとわかっているので、喧嘩も長続きしないんです。ロングトリップはギアに関する多くのことに気づけるけど、夫婦お互いを理解しあうとか、気づかうようになるって意味でもメリットがありますよね」
プロダクトの制作がひと息つく冬に、新たな長旅を計画しているという夏目夫妻。ふたりで運営するブランドを発展させるうえで、ロングトリップへの興味はより高まっているとあらためて語る。夫婦で模索を続けるウルトラライトなハイキングのかたち。仕事上の必然性と楽しみを両立させたふたりの山歩きは、これからも続いていく。
 
夏目彰さん・由美子さん | Akira & Yumiko Natsume
数年前、極限まで荷物を軽量化する「ウルトラライトハイク」の思想に出会い、夫婦ふたりでギアブランド「山と道」設立を実現する。以来、オリジナルでウルトラライトなギアを制作し、新たなハイキングスタイルを提案。そのプロダクトは国内外でその軽量性、デザイン性が高い評価を得ている。http://yamatomichi.com/