レキシ・池田貴史さんと、日本のルーツを確かめる旅へ

15,000年前。氷河期が終わって温暖期に入り環境が安定すると、人々は農耕と牧畜による定住生活を始めた。農耕は広い土地を必要とするために集落は大きな組織となり、都市へと発展していく。都市国家は土地を確保する宿命にあるから […]

12/05/2014

15,000年前。氷河期が終わって温暖期に入り環境が安定すると、人々は農耕と牧畜による定住生活を始めた。農耕は広い土地を必要とするために集落は大きな組織となり、都市へと発展していく。都市国家は土地を確保する宿命にあるから、土地争いが起き、戦争による盛衰が繰り返されることになる。これが、いわゆる文明だとされてきた。世界では。
ところが、日本列島の人たちだけはちょっと違う道を歩んだ。狭いエリアのなかに海と川と山の恵みがあるという多様な生物環境のおかげもあって、漁労・狩猟・採集の里山的な定住生活を始めたのだ。農耕と牧畜によって土地を支配する“文明”の観点からは、その営みを未発展だと指摘することもできるだろう。実際、そのような言われ方をしてきた。けれども、土地を所有することなく自然と共生するこのシステムが10,000年以上も維持され続けたというのは、もしかして、ものすごいことなんじゃないだろうか。これこそが日本独自の文明、縄文文化なのだ。
青森県、秋田県、岩手県、そして津軽海峡を越えて、北海道へ。列島に及んだ縄文文化にあって、全国でも特に多くの縄文遺跡が存在し、のちの稲作を中心とした弥生文化の影響も比較的薄いエリア。今回の旅では、そんな縄文色の濃い道内・北東北の遺跡群を巡った。パートナーは、これ以上の適任者はいないであろうミュージシャン、レキシの池田貴史さんだ。
池田さんが好きなのは、とにかく日本史だ。小学生時代、学校の図書室にあった学研まんがに夢中になったのがきっかけだった。「他は全部赤点だけど、日本史だけは成績が良かったの。だからよくカンニングを疑われて(笑)」。そんな池田さんが音楽活動のかたわら、史実をテーマに曲をつくり始めた。レキシの誕生だ。遊び心を真剣に推し進めるうち、いつのまにかアルバムを4枚も発表、この8月にはついに日本武道館ライブまで実現してしまった。
「武道館が終わってひと区切りついたから、ちょっと旅に出たいなと思って。失効してたパスポートを取り直して、大きいバックパックも買ったところだったんです。そんな矢先にこの旅の誘いを受けたから、俺に今、旅の流れがすごく来てる感じがする」。
「キャラクター的に親しみやすいから誤解されるけど、俺はこう見えてじつは人見知りなところがあって。旅に出たいと思うのは、そういうのを脱却したいというのもあるかもしれない。でも、きのうも木造駅にいたおばちゃんに自分から話しかけておしゃべりしちゃったり、そんな自分が、自分で意外!みたいな。旅は人を開放的にさせるのかい(笑)?」。
ツアーに出ると、各地の遺跡や資料館に行けるのもいいですねと言うと、「いや、むしろそのためにツアーしてるから!」と返された。ライブが終わるとひとり残って、遺跡を見に行くこともあるそうだ。「こないだね、会津でのライブのあとに、飯盛山でガイドさんに話を聞いたんです。山中から町の炎を見て鶴ヶ城が落城したと勘違いして、白虎隊が集団自刃したでしょ? ドラマなんかでは泣きながらみんなで潔く自決してるように描かれてるけど本当は、どうしようかって長いことミーティングをしたらしい。そういう人間らしさを感じてしまう瞬間、その場に自分がいるような感覚がある。そのリアルさに、ゾクゾクするんですよね」。
だからか、歌詞を書くときは現在の自分から当時を眺めるというよりは、当時にタイムスリップして自分が現場にいる視点になることも多い。「たとえば土偶ひとつ見てても、つくる土偶がどうしても好きな人の顔に似てしまうなあ…なんて思えてきてしまう、そういう感覚。リアルな今の1分1秒と同じ感じなんです。大きく時代を見るというより、その時、その場の瞬間を感じたい」。まさにそれは、今回の旅のフィーリングでもあった。生活様式は時代によってさまざまで、縄文人の暮らしと今の自分の暮らしは違う。けれど、人間としての本質的な部分は、きっとそんなに違わないのではないか。「そう! 人の気持ちは一緒。レキシはそういう普遍的に変わらないことをテーマに歌ってるの。ストーンサークルをつくるのに、運ぶ石がだんだん小っちゃくなってくって話があったけど、言ったらズルでしょ? すごい親近感が湧くよね。逆説的だけど、そんなときにむしろ、何千年もの歳月を感じられるような。そういうことを感じたいから、遺跡をまわってるようなところがありますね」。
当時の人たちの気持ちは、残されたものから想像するしかない。けれどそれらからは少なくとも、野蛮でも原始的でもない、縄文人たちの暮らし方が見えてくる。たとえば、実用性からはほど遠いと思われる細工を施した土器や土偶をたくさんつくっていること。ムラの周囲にクリの木を植林し、計画的に収穫していたこと。実がならなくなったクリの木は建材に利用していたこと。ゴミという観念がなく、動植物も使い終えた道具も、数百年にわたって同じ場所(貝塚や盛土遺構)に安置していたこと。一度は稲作を採用してみるも、取りやめている集落もあること。そこからつい連想してしまうのは、必要なものは必要なだけ自分でつくり、人間が人間らしく、自然に生きるということについてだ。縄文時代の遺跡や遺物を見ていると、その日暮らしにはとても思えない。洗練された美意識で、今をしっかり楽しみながら、未来をも見据えていた眼差しを感じてしまうから。
ところで今回の旅では、縄文というテーマに、地元のお酒というキーワードもアクセントに加えている。酒税法の規制緩和後に乱立した地ビールメーカーと地ビールの大流行を経て淘汰された、実力のクラフトビールと、青森のりんごを使ったシードルと。縄文時代と変わらぬ青空と緑の木々を眺めつつ、縄文に思いを馳せながら楽しむ一杯。そんなごきげんな気分で、遺跡をまわろう。
ちなみに縄文時代は、ニワトコの実などを発酵させた酒も飲まれていたらしいことが最近の調査でわかっている。そうなるともう、21世紀との違いはiPhoneがあるかどうかだけという気さえしてくる。いや、それは大げさとしても、差異はテクノロジーだけではないのか。そんなことに思い至る瞬間にはすでに、身体の奥底に眠っている縄文スイッチが、カチッと入っている。先人から引き継いでいる縄文的スピリットが、反応してしまう。5,000年前の彼らとは、やっぱりつながっている気がする。それはそうと池田さん、〈縄文土器と弥生土器、どっちが好き〉なんですか? 「〈どっちもドキ。〉だけど、きっと今回は、その答えを探す旅なんだろうだね(笑)」。
 
池田貴史 | TAKAFUMI IKEDA | ミュージシャン
世界に誇る眼鏡の町、福井県鯖江市出身。SUPER BUTTER DOG、100sなどのバンド活動を経て、2007年、レキシとしてソロデビュー。アルバムやライブには椎名林檎や斉藤和義など錚々たる顔ぶれのミュージシャンが参加し、ライブでのエンターテインメントぶりが話題となっている。
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