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バーゼルから都市農業の可能性を発信|スイス、持続可能な食 (2)

ヒューバーさんの農場の背後には、古城がそびえ立つ。15世紀に築城されてから代々受け継がれ、17世紀にベルサイユ宮殿などヨーロッパ各地の庭園を参照して庭園も造られた。現在、希少種の動植物の保護と育成を行うプロ・スペツィエ・ […]

11/12/2015

ヒューバーさんの農場の背後には、古城がそびえ立つ。15世紀に築城されてから代々受け継がれ、17世紀にベルサイユ宮殿などヨーロッパ各地の庭園を参照して庭園も造られた。現在、希少種の動植物の保護と育成を行うプロ・スペツィエ・ララ(ProSpecieRara)財団が庭園を引き継ぎ、研究と栽培を行っている。17世紀当時から、観賞用のみではなく食用の栽培も行っていたこの庭園は、同財団が活動を展開する場として最適だったのだといえる。種子を専門とするミラ・ランゲガー研究員(Mira Langegger, Seeds Librarian)が小ぶりな瓜のような実を手に取り、栽培している植物のことを説明する。
「これは希少種のメロンです。熟すと黄色っぽくなり、とても良い香りがします。まだ香水がなかった時代には、強い香りがするこのメロンを洋服ダンスや部屋に飾り、フレグランスとして使用していたのです。個人的にも可愛らしい実の形だと思って栽培し始めたのですが、土地の環境に適しているのか非常によく育ち、種も増えています」
種を保存することは、例えば、現在の主流種と掛け合わせて新種を生み出す可能性も広げてくれる。古代種を現代に適用し、生産性の高い植物を生み出すことには、環境の変化に対応するためのヒントが隠されているかもしれない。
「種を絶滅させてしまうと、それを再生させることは非常に難しいので、昔からある純粋種の保存は、豊かな環境を維持するためにとても大切なことなのです」
バスでバーゼルに向かう。腕時計の見本市や世界最大規模の現代アートフェアが開催される都市として世界的に知られるスイス第3の都市だ。ドイツとフランスの国境に接しており、独自の文化的混淆が進んでいる。ヴィルデッグを経由せずにチューリッヒから直行すると、その距離は85キロほど。コンパクトな国土に多様な顔を持つスイスの特性を改めて感じさせる。
都市での食物の生産システムを開発するアーバン・ファーマーズ(Urban Farmers)社の本社とショールームを訪れた。「都市の住人と生産地との距離を縮めることで、輸送費を削除して安全で美味しい食材を適正な価格で届けることができるはずだ」と語るのは、創立者の1人であるローマン・ガウスCEO。そうした意図から、建物の屋上で野菜と食用魚を生産するシステムの開発が始まった。淡水魚のティラピアを育てて水を浄化し、野菜の育成に用いる。排水された水が再び水槽に入り、循環を繰り返す。もちろん無限にループが続くわけでないので、水は随時足されていくが、そもそも食材の生産には大量の水が必要だ。水を節約することができれば、商品の価格を抑えることもできる。そこが、このシステムの生命線だ。
「スイスでは1分間に1平方メートルずつ都市化が進んでおり、昨年世界一周したときには、その進行はケニアでもコロンビアでも日本でも同様だということがわかった。つまり、都市化と自然環境の減少は世界的な問題なのだ。エネルギーの消費と廃棄物の排出をできるだけ抑え、美味しくて安全な食品生産を行い、都市の建物の屋上というデッドスペースに緑を増やすことは、その世界的な課題を解決する糸口になると私は信じている」
前回の記事で紹介した大手スーパー、ミグロの屋上にシステムを設置し、階下の売り場で野菜や鮮魚を販売する取り組みも動き始めており、2016年には複数店舗で稼働することが見込まれている。意欲的なガウスCEOは、同社が提案するエコロジカルな生産システムに賛同するであろう東京、チューリッヒ、香港のような先進的な都市だけをターゲットにしているわけではない。「5年前に創業したときには、多くの人にクレイジーな取り組みだといわれたアーバン・ファーマーズだが、もう食産業において無視できない存在になっているはずだ」と自負するガウスCEOの展開に期待したい。
バーゼルの次に向かうのは、首都のベルン。スイスの旅は続く。
取材協力:在日スイス大使館
https://www.facebook.com/SwissEmbassyTokyo