成井さんと成井窯 PAPERSKY Japan club

JRの秋葉原駅からやきものライナーというバスに乗って2時間強。バスを降りて小高い丘に続く坂道をのんびり10分ほど歩くと目的地に到着する。栃木県益子町にある成井窯である。年に3回か4回、今もご家族で登り窯を使って器を焼き上 […]

01/04/2020

JRの秋葉原駅からやきものライナーというバスに乗って2時間強。バスを降りて小高い丘に続く坂道をのんびり10分ほど歩くと目的地に到着する。栃木県益子町にある成井窯である。年に3回か4回、今もご家族で登り窯を使って器を焼き上げるたびにお邪魔して器を分けてもらっている。
成井窯の焼き物に出会ったのは10年ほど前。益子のとある店で、店内に並んだ焼き物をぼんやり眺めていたときである。棚の奥にある灰色の器が目についた。大きな茶碗のような、あるいはどんぶりのようなその器は、少し歪みのあるぽってりとした形をしてなんとも味わいがある。すっかり魅了された私が店のオーナーにその器のことを尋ねると、益子在住の成井恒雄さんという陶芸家のものだと教えてくれた。
後日初めて成井さんを訪ねたときはとにかく驚いた。「まあ、どうぞ」と案内してもらった仕事場のなかを見まわすと、まるで江戸時代にタイムスリップしたのかと錯覚するような風景である。昼間でも薄暗く雑然とした仕事場の隅にある囲炉裏。長年焚かれ続けてきた薪で黄色く変色した障子から入ってくるぼんやりした光。仕事場全体に漂う燻された薪の香り。仕事場から見える登り窯。ボロの着物をまとった昔の陶工が今にも現れそうだった。
成井さんは益子に代々続く窯元の家に生まれ、十五で陶芸の世界に入り益子を一歩も出ることなく、地場の土と釉薬だけを使って半世紀以上にわたり焼き物をつくってきた。その成井恒雄さんが2012年にお亡くなりになった後、ご家族で再び窯元として始められたのが現在の成井窯である。再スタートの知らせを聞いて益子を訪ねた私は、昔のままの登り窯で焼かれたたくさんの器を前にして嬉しさがこみ上げてきた。恒雄さんの弟子でもあったご家族がつくる器は恒雄さんのスタイルを受け継ぎつつ、新たな成井窯としての魅力をもった器が並んでいたからだ。
これこそ手仕事、と言いたくなる愚直なまでに昔ながらのやり方で、まるで農作物を育てるようにしてつくる成井窯の器は今ではすっかり店の人気商品である。「まだまだ下手で…」といつも謙遜するご家族だが、その器はときに老練ささえ感じるほど、“本物”の風格がある器なのである。