Final Frontier Shiretoko, Hokkaido 知床半島・石川直樹

世界中のいろいろな場所を旅してきたが、その地を好きになるかどうかは、結局のところ人との縁としかいいようがない。見たことのない風景を見られるからとか、気持ちよくて落ち着けるからとか、懐かしい気持ちになるからとか、尋ねた場所 […]

08/14/2019

世界中のいろいろな場所を旅してきたが、その地を好きになるかどうかは、結局のところ人との縁としかいいようがない。見たことのない風景を見られるからとか、気持ちよくて落ち着けるからとか、懐かしい気持ちになるからとか、尋ねた場所を好きになる理由はたくさんある。けれど、何度も通いたいと願い、住みたいとさえ思うようになるのは、そこでの出会いが一番大きいようにぼくは思う。
その点、知床で、ぼくは出会いに恵まれた。
初めて訪ねたのは2001年頃で、まだ今ほど「流氷ウォーク」という遊び方が定着する前に、ドライスーツを着て流氷の上を歩き、氷の裂け目に飛び込んで冬の海を漂った。その頃の北海道旅行で知り合ったHさんは、今は知床でネイチャーガイドをしていて、ウトロに滞在していると、ばったりと出くわすことがある。
写真家たちが集まって道東を巡るスライドショーのツアーをしたときに取材してくれた女性は、今も斜里町に行けば必ず会う友人となっている。
閉校してしまった朱円小学校では、最後に通っていた生徒のみんなと卒業アルバムを作った。その朱円小学校の近くには、もともとパン屋をやっていた友人が住んでいて、最近も遊びに行ったばかりだ。
町役場の個性的な面々と知り合えたのは、ポスターを作る仕事を引き受けたことがきっかけだった。そこから派生して、いろいろな面白い試みがはじまったし、そうした動きがこれからもずっとずっと続いていけばいいなあ、と思っている。
斜里のなじみの宿の家族はいつも温かく自分を迎えてくれるし、閑散とした飲み屋街のスナックはいつ行っても落ち着ける。ウトロでよく行く手作りの土産物屋はマイペースな感じが大好きだし、道の駅は友人が一緒なら必ず連れていって、その誰もが品ぞろえに満足してくれる。
ウトロの知床自然センターの人たちには毎回様々なことを教えてもらっていて、本当にありがたい。その自然センター内には、新しいアウトドアのお店がオープンしたし、美味しいコーヒー屋さんもできた。
こうした繋がりのなかで、写真を軸にして地元の人たちと知床の魅力についてもう一度考えていこうとするグループ『写真ゼロ番地』も生まれ、毎年、多くの人と協同しながら写真展を開催させてもらっている。
他にも振り返ればキリがない。ぼくは知床でたくさんの出会いに恵まれた。
もちろん、人を寄せ付けない厳しい自然は極めて魅力的だ。羅臼岳をはじめとする知床連山、半島の突端にある知床岬、ウトロの海岸や森、野生動物たちとの邂逅、打ち寄せる流氷などなど、夏も冬も楽しめる自然は知床に人を惹きつける大きなポイントである。各所にある温泉も最高だし、魚も野菜もあらゆる食べ物がお世辞抜きに美味しい。が、そうしたことだけなら、ぼくはこの地をここまで好きにならなかった。
人と共にある自然、自然と共にある人、そんな繋がりをどこよりも強く感じさせてくれる知床半島が、ぼくは好きなんだと思う。
知床は日本列島の端にある。端に立てば、当然その先が気になる。異なる国や地域が目の前にあれば、おのずと自分のことを相対的に見つめ直すことになる。近くにある外国を意識しつつ、知り合った人々の営みに惹きつけられながら、ぼくはそこに自分自身を省みているのかもしれない。
列島の端っこにありながら、実はあらゆる示唆に富んでいる「知床半島」という場所に巡り合えたのは、ぼくにとって幸運だったとしかいいようがない。
石川直樹 Naoki Ishikawa
1977年、東京生まれ。2008年、『NEW DIMENSION』『POLAR』で日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を受賞。2011年、『COLONA』で、土門拳賞を受賞した。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』ほか多数。2016年、知床の写真好き有志と、知床フォト・プロジェクト「写真ゼロ番地 知床」を立ち上げ、新しい知床、多様な知床を発信している。
2019年10月4日より、鹿児島「霧島アートの森」にて、「島は、山。」island≒mountain展が開催される。
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