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Portland Japanese Garden|ポートランドで見つける、“本物”の日本

隈研吾が手がけた建築物が新たに加わった「ポートランド日本庭園」。リニューアルオープン以来、伝統的な日本庭園の様式美とモダンな建築の融合が注目を集めている。開園60年を迎えたこの庭園の魅力を、今一度ひもといてみよう。 市内 […]

01/15/2020

隈研吾が手がけた建築物が新たに加わった「ポートランド日本庭園」。リニューアルオープン以来、伝統的な日本庭園の様式美とモダンな建築の融合が注目を集めている。開園60年を迎えたこの庭園の魅力を、今一度ひもといてみよう。
市内を一望するワシントンパークに、世界でも類を見ない、美しい日本庭園がある。「日本国外にある、最も美しく本格的な日本庭園」と称される「ポートランド日本庭園」は、池水庭園、枯山水庭園、ナチュラルガーデン、茶庭など、異なる8つの様式の庭から成る廻遊式庭園だ。「この庭園は古来、日本人がもっている自然観や手仕事への思い、平和を願う心を伝える、生きたギャラリーなんです」と言うのは、ここの文化・芸術・教育プログラムを監修する中西玲人さんだ。
「ここでは、推奨ルートや庭や植物についての案内板を用意していません。庭園全体がひとつの体験となるようデザインされているので、好きなように散策して折々の自然を感じてほしいと思っています。それが日本庭園本来のあり方ですから」
自然の風景に倣ってつくられる日本庭園は四季の移り変わりに従ってその時々の表情を見せてくれるものだが、ここも例外ではない。たとえば平庭では、春には枝垂れ桜、夏には枯山水の砂紋で描いた水の流れ、秋には真っ赤な紅葉、冬には常緑のツツジや松に雪が降り積もるさまが楽しめる。庭の向こうにそびえる大木は、ポートランドらしい情緒を添えてくれるダグラスファー。オレゴンの州木である。日本とは環境も文化も異なるポートランドにあって、日本らしさをどう表現するのか。歴代の日本人庭師たちは自らの経験と独自のアイデア、自然への哲学でもってこの庭に豊かな風景を描いてきた。その積み重ねが現在の姿なのである。
とはいえ、その道のりは平坦ではなかった。この庭園は1967年、オレゴン動物園の跡地に誕生した。遡ること6年前、動物園移転後のワシントンパークにいったい何をつくるのか、ポートランド市民が集まって協議した。その結果、街のランドマークたる場所に日本庭園をつくることになったのである。東京農業大学の戸野琢磨教授が設計した5.5エーカーの庭園は、様式の異なる庭をひとつの施設に集約するというユニークなものだった。とはいえ、開園当時は終戦から20年しか経っていない。当然、反日感情をもつ者も少なからずおり、市民から生まれたアイデアとはいえ、日本文化がすんなり受け入れられたわけではなかった。実際、日本から招聘された初代の庭師は差別的な言葉を投げつけられるなどの嫌がらせをたびたび受けたという。
あれから60年。庭園は市民の憩いの場となっており、「ポートランドの宝」と呼ばれるまでに。一昨年には、建築家の隈研吾が手がけたビジターセンターが完成した。今から14年前、この庭園にふさわしい、日本の伝統文化を伝える文化・教育施設をつくろうと企画されたものだ。庭園の美しさを引き立てるためにデザインされたミニマルな建築物は、隈とガーデンキュレーター、内山貞夫が共同監修したもので、「カルチュラル・ビレッジ」には日本の文化を体験できるプログラムを随時、開催するスペースの他、ギャラリーやミュージアムショップが備わっている。それと対を成すように設けられた「ウマミカフェ」では本格的な抹茶や和菓子を提供する。ビジターセンターのエクステリアには、高さ6m、幅50mの穴太積みの石垣を設けた。かつての戦国武将が競って築いたという穴太積みは、自然石を組み上げただけなのに現代技術を凌ぐ強度を誇ったという伝統工芸であり、この石垣は日本の卓越した職人芸を世界に発信する屋外アート作品となっている。
「ポートランドと日本には少なからず共通点があります。自然への畏敬の念、クラフトマンシップへの誇り、文化や事象をその土地に根ざしたかたちで発展させるローカライゼーション……。それらを体現したこの庭が、日本の文化への理解や友好関係を深める役割を担ってきたのだと思います」
現在、この「カルチュラル・ビレッジ」では、中西さんが手がける、年間280にものぼるイベントを開催する。その内容はお月見や盆踊りといった伝統的なものから現代作家の作品展まで、文化、アート、食とさまざまな視点で日本文化を掘り下げる。今後はアートと建築、そしてランドスケープデザインを結びつけるようなプログラムを企画したいのだとか。そもそも日本庭園の歴史をひもといてみれば、三者は切っても切り離せない関係にあったからだ。
「海外にある“日本”が時代の流れとともにどう変化するのか。変わらないもの、変わらないもののために変えるべきもの。オーセンティックとローカライゼーション。手探りしながら、本物の日本文化のあり方を考えていきたいと思っています」
終戦から75年を迎える2020年は、広島と長崎にフィーチャーしたイベントを開催し、文化や風土を1年かけて伝えていくという。改めて現代の平和を考えるという企画の数々に期待したい。
Portland Japanese Garden
Japanesegarden.org