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北海道 釧路、ばんえい種の馬を育てる農場を訪ねて

人が住むにはあまりにも困難な場所が多く点在する北海道。極限的な寒さを意味する「しばれる」という北海道独自の言葉でしか表現できない冬が訪れることは周知のことであろう。北海道の南東に位置する釧路には、あまり雪が積もらない。夏 […]

03/05/2013

人が住むにはあまりにも困難な場所が多く点在する北海道。極限的な寒さを意味する「しばれる」という北海道独自の言葉でしか表現できない冬が訪れることは周知のことであろう。北海道の南東に位置する釧路には、あまり雪が積もらない。夏が短く、冬には氷点下の冷たい空気がその土地を覆う。自然の脅威にさらされながら、釧路の人々の気質は、忍耐強い性分となる。北海道の歴史をさかのぼると、そう古くはない。1869年に開拓使と呼ばれる本州が制定した省庁が置かれ、本土全国から派遣された屯田兵によって開拓が始まる。釧路郊外に鶴居村という小さな村がある。過去74年もの間、農耕馬の飼育を営んできたという田中さんご夫妻の農場を訪ねた。
その昔、田中さんの父親は、兵庫県から屯田兵として北海道に移住した。当時、一家でレストランを営んでいたが火事により焼失し、この農場が始まる。当初の農場には、牛、豚、馬だけでなく、バッファロー、羊、山羊、七面鳥やあひる等も飼育されていた。現在は、数頭の牛と北海道特有の「ばん馬」とも呼ばれる「ばんえい種」が、種馬から子馬まで多世代に渡って大切に育てられている。「ばんえい種」は、元来ヨーロッパの農耕馬であり、冬でも2層の毛が生え、雪、草や根を食べながら生き延びることができる強い馬。今では「ばんえい種」が農耕馬として用いられることは殆どなくなり、食用肉とされるか、「ばんえい競馬」という北海道特有のスポーツに用いられる。
「ばんえい競馬」とは最高1トンの重量をのせた鉄ソリを馬に曳かせ、全長200m、途中に坂の障害のある直線コースで競うレース。走ると言っても、審判が側を歩ける程度のゆっくりとしたペースで馬の力量を競う。このレースは北海道開拓に活躍した農耕馬の真価を試すために農民たちが競馬として楽しんでいたものが発展した。しかし、今では道内一カ所の十勝でしか開催されない。北海道が育てた「ひき馬」競馬を、存続させるには莫大な経費がかかり、農家の人々にとって自分の馬を出場させる事は、負担が大きく、裕福な人たちによる楽しみとなってしまった。
田中さんは、40年前に自分の馬に乗り、レースに出場したことがあるというエピソードを目を細めて懐かしそうに語る。父親が残した農場の借金を返済し、その後も全身全霊で農場を守ってきた。今では荒廃した顔を見せてはいるものの、まだまだ立派に機能しているこの農場で、愛する「ばんえい種」のみを育てる事に力を注ぎ続ける田中さんにとって、ここは「人生の誇り」であり「成功の証し」そのもの。今年、81歳を迎える田中さんご夫妻だが、毎日10時間かけて、馬を放牧し、夕方には馬小屋に連れ戻す。時には24時間態勢で監視カメラを付けてお産を見守りながら、夫婦で28頭の馬を育てている。
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