八ヶ岳にある森のレストラン、仙人小屋

山梨県八ヶ岳にあるギャラリートラックスから、車でくねくねとした山道を上っていくと、霧がかった森のなかに木造の「仙人小屋」が現れた。「まわりには本当になにもないから、そこに行くのは仙人がひっそりと暮らす聖地への巡礼みたい… […]

08/17/2010

山梨県八ヶ岳にあるギャラリートラックスから、車でくねくねとした山道を上っていくと、霧がかった森のなかに木造の「仙人小屋」が現れた。「まわりには本当になにもないから、そこに行くのは仙人がひっそりと暮らす聖地への巡礼みたい…」と噂で聞いていた場所だ。「仙人小屋」とはそんな山奥にたたずむ里山料理のお店。ようやくたどり着き、車から降りると、その小屋の隣に新しい小屋があるのが視界に入ってきた。「仙人小屋」によく似た木造の建物で、こちらは「自然屋」という名の料理店だった。どちらに入るか迷っていると、「自然屋」の若い店主に声をかけられた。彼は「仙人小屋」のマスターの元で修業を重ね、1年前にここに移住、2カ月ほどかけてこの掘建て小屋を建てたらしい。この人は仙人の弟子なんだ…と思っていると、「味には自信がありますよ!」と一言。僕は「自然屋」の料理を味わうことにした。
春は山菜、夏は川魚、秋はきのこ。地元の素材でていねいにつくられた料理を口にすると、東京ではなかなか出会えない野性的で新鮮な味を実感した。せり、ふきのとう、つくしなど朝採りの山菜がまるでディスプレイのようにざるに盛りつけられている。みずみずしい葉っぱをかじりながらアメリカのユーエル・ギボンズの本を思いだした。60年代に流行っていた「自然への回帰」の傾向にともなって自然食の提唱者として知られているギボンズは、狩猟採集の生活を送り、見逃されがちな食用の草花やハーブが都市のどまんなかでもところどころに生えていると指摘した。つまり地方の産物を持ち帰って食べるのではなく、その場にあるものをその場でいただくほうがより豊かな経験になるというわけだ。
しかし山梨に行ったら山梨産のものを食べるべき、あるいは名産だからおいしいはず、というような価値観もなにか違っているような気がする。各地の特産品といわれる商品のほとんどは、観光客に向けたただの押し売りではないだろうか…。旅先でその土地のおみやげを買うときに、きっちりと包まれた食品を手にすると、これはどれだけこの土地から切り離された存在なんだろう…と思わずにはいられないのだ。