音、光、映像を駆使して見る人を楽しませるインタラクティブアート。いま、この分野で世界的な注目を集める真鍋大度さんは、日々、人間の五感に対して実験、挑戦を試みている。彼は、誰も感じたことのない驚きや楽しみを、どうやって生みだしているのか。アイデアを生む原動力、それを実現する行動力、そして近未来のアート、ショーの形について、真鍋さんに訊いていく。
―Perfumeの東京ドームライブにおける仕掛けづくりや、ロッテガム「ZEUS」CMのイメージづくりなど、仕事の領域は広がる一方ですね。前例のないプロジェクトに対して、どうすれば斬新なアイデアが出てくるのですか?
とにかく以前使ったアイデアや手法はなるべく忘れて、新しいことを考えようということですね。最初から答えが明解になっているより、無茶なお題を出されたほうがおもしろいし、燃える(笑)。僕らの側にとびきり高いモチベーションがないと、誰もが驚くようなアイデアなんてなかなか思いつかない。当たり前ですが、毎日同じことをルーティンでやっているとどんどんモチベーションが下がってくる。だから毎回、新しいチャレンジだという心づもりで仕事に向かうようにしているんです。リスクを承知でね。
―リスクとは具体的にどんなことを指すのでしょう?
たとえば、Perfumeのライブでは直径5mの巨大な風船を8個設置して、メンバーがレーザー銃で撃つと破裂するように見える仕掛けをつくったんです。安全策を取るなら、それこそ吹き矢で割っても良かったかもしれない。でもその方法を取ると、あまりコンピュータを使ってる意味はないですよね。だから、自作の装置やソフトウエアを開発して会場のさまざまな装置にその信号を送るようにしたんです。大規模な会場でこういうシステムを連係させようとするとリスク対策が大変になるのですが、これを実行したおかげで、Perfumeの動き、音、光をすべてきっちり連動させることができたと思います。実行したことのないアイデアだったのでたしかにリスクはありましたけど、そういった手法をどんどん採用していかないと、斬新でおもしろいものにはならないんです。
―Perfumeだけでなく、ライブパフォーマンスの仕掛けはどんどん進化する一方です。近未来のショーでオーディエンスはどんな体験ができるようになると予測しますか?
無限の可能性があるとは思いますけど、たとえば観客のスマートフォンを利用した仕掛けは増えてくるんじゃないかと。ほんの5年くらい前だったらガラケーを持っている人のほうが多かったですが、いまでは観客の多くがスマートフォンを持っているはず。つまり、ステージ側からひとりひとりの観客に同じ信号を送ったり、映像や音を届けることが容易にできる。いまから10年以上前に、ゴラン・レヴィンというアーティストが膨大な数のケータイを使った大規模なアートを形にしたんですけど、そのころは特別な環境を設定する必要があったんです。だけどいまなら、ふつうに観客同士とステージをネットワークで結ぶことができる。あとはどんな演出でどう表現していくかということですね。あと、3Dプリンタは今後、どんどんおもしろくなっていくでしょう。ものの形をスキャンして、コピーをつくってしまう3Dプリンタは、これからますます技術が進化して、瞬時に、しかもローコスト、低電力でプロダクトの複製をつくれてしまうようになるでしょう。コピー以外にもプロダクトの配布や流通等が大きく変わっていくと思います。
―真鍋さんは広告やライブパフォーマンスの仕掛けづくりと併行して、アート作品もつくられていますね。作品の場合には、なにか大衆に伝えたいメッセージがあるのですか?
全然ないんです。自分の興味を徹底的に追求してるだけ。人はこういうものを見るとどんな反応をするかとか、機械にこういう信号を送るとどんな制御が働くのかということに興味があるんです。もちろん、僕の作品に対して受け手がメッセージを感じとる場合もあるでしょう。それは同じような問題意識を持っているから共感してくれているのだと思います。僕は身体やコンピューティングの可能性に一番興味があって、作品をつうじて政治的、社会的なメッセージを発信しようとは微塵も考えてないんです。
―真鍋さんの名前が世に知られるきっかけとなったのは、2008年に発表した『Electric Stimulus to Face』ですね。これは真鍋さんの顔に電流を流して、電気信号によって表情を強制的に変化させるというユニークな映像でした。これを制作したのはどんな動機だったんですか?
無理やり、笑顔をつくれるマシンがあったらおもしろいなって。隣の人にセンサーをつけてその信号をもらえば、表情がコピーできるとか、隣の人が右手を挙げたら僕も強制的に右手を挙げさせられるようなマシン。ただ、そういうものがつくれたら、人間とは何かということを考えるきっかけになりますよね。何が制御できて、何が制御できないのか。そういった興味からスタートしています。極端なことを言ってしまえば、企画とかアイデアって誰の頭のなかにもある。だけど難しいのはそれをどう実現するかであって、ただ頭のなかで夢想していることは「思いつき」でしかない。やってみないとわからないことのほうが多いですしね。で、実際にやってみたら自分がコンピュータに支配されているようで本当におもしろかった。結局、この動画は世界中の人にYouTubeで160万回も再生されて。アートとか作品ってそういうことが起こりうるから楽しい。僕は作品をつくるとき、タイトルに「TEST」という文字をつけることが多いんですが、まさに実験というか、予想外の反応を待つという感じ。この筋電センサーを使った遊びにしても、日本での反応と海外での反応がけっこう違うんです。日本では「どうやってこの装置をつくった?」と訊かれることが多いんですけど、海外では「なぜ、こういうことをやるのか?」と訊かれることがほとんど。それにイタリアなどでは、人間が機械に操られているという点に意外な反応が多くて、神の領域を超えている行為、なんていうことも言われた。ブラジルではステージ上でパフォーマンスをやったんですけど、顔に電極をくっつけただけで、もうみんな笑いはじめちゃって。まだ始まってないんですけど…っていう(笑)。つくづくものの受け取りかたっていうのは世界共通ではないなと思ったし、そこにおもしろさがあるとあらためて感じたんです。
―海外からのオファーがどんどん増えていると聞いていますが、海外でインスパイアされることは多いですか?
最近では年10回くらい海外のフェスやイベントなどに出かけていって、ワークショップをしたり、作品発表という感じでしょうか。作品づくりでもときどき、海外に出かけることはありますね。以前参加した『ディファインド・カラーズ』というプロジェクトは、世界20カ国をめぐる途中でその国の色、音をモチーフに作品をつくりつづけるという内容でした。音に関しては「時報」を録音していくというコンセプトだったんですけど、それぞれお国柄があって楽しかった。日本やイギリス、アメリカあたりの時報は波形で見てもきわめて正確なんですが、フランスではほんの少しずれていたり、ハンガリーやルーマニアでは時報なのに1日何分かずれたりしてる。10秒おきのアナウンスが多いんですけど、タイでは15秒おきだったり、イタリアの時報はBGMがあって優雅だったり。ひとつの視点をもって旅をすると、いろいろなことが見えてきて楽しいですよ。
―そもそも真鍋さんは、どのようにしてこの世界に入ったのですか?
父親はベーシストで母親はヤマハで音楽ソフトを作っていたこともあって、小さいころから音楽とは近い距離にあったんです。自然な流れでバンドやDJもやっていて。大学では数学を専攻していたんですけど、やればやるほど自分のなかでは音楽と数学がつながっていった。音階は物理現象で決められているので数学とは深い関係にある。音の組み合わせのパターンは、確率、数理統計、代数を使って考えることもできます。大学時代にはそういったことに興味があったのでクセナキスのような作曲家に憧れたりもしました。でも、人の感性に訴える音楽というものは数学の理論だけではつくれません。数学と同じく音楽も万国共通ですが大きく違うところは、音楽は誰でも楽しむことができると言うところですね。自分でもライブパフォーマンスをやる機会があったので、自然と自分のための音楽制作ソフトをつくるようになった。大学を卒業した後、プログラマーやウェブエンジニアとして会社勤めをしていた時期もあったんですけど、ICCでメディアアートの展示を観て可能性を感じて、それについて学べるIAMASという学校に通うことにした。そこからですね。音をリアルタイムで映像に変換したり、映像と光をシームレスに扱う楽しさを知ったのは。数学はいまでも大好きですけど、極めて客観的かつ概念的、そして普遍的。哲学に近いですね。
―最後に、真鍋さんの作品を楽しめるイベントの予定について教えてください。
来年の1月26日から山口情報芸術センターで新作インスタレーションを発表します。約1カ月間、この施設にこもって創作に集中するんです。ふだん温めているアイデアを自由に表現する絶好の機会なので、楽しみにしていてください。
真鍋大度(まなべ だいと)Daito Manabe
メディアアーティスト。東京理科大学理学部数学科、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。「Perfume」のインタラクションデザインなどの音楽関連プロジェクト、NIKE「MUSIC SHOE」、ロッテ「ZEUS」などの企業プロモーション、イベントと併行し、数多くのインスタレーション、パフォーマンス作品を制作するデザインファーム「Rhizomatiks」Director。ハッカーズファーム「4nchor5La6(アンカーズラボ)」代表。www.daito.ws/
This story originally appeared in Papersky No.40. Text: Hiroshi Utsunomiya
Tokyo
Interview 真鍋大度|メディアアーティスト
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12/21/2012