明治時代以降の日本文学に関する図書、資料、原稿などが集められた「日本近代文学館」。1963年に設立されたこの施設は、日本文学史を語る上でも重要なスポットとして長年、多くの研究者、文学好きに親しまれてきた。去る9月、この館内にユニークなカフェがオープンした。「bundan」と名付けられた店内には壁一面に約1万冊以上の名作、希少本がズラリと並び、雰囲気満点の古家具は気に入れば購入することもできる。メニューには「村上春樹の朝食セット」やコーヒー「AKUTAGAWA」「OUGAI」といった品目が並び、名作の中で登場した食事、飲み物などを再現。味覚からも名作の世界観に浸れるというニクイ演出が成されている。
このカフェの仕掛け人は、エディトリアルや広告の世界で存在感を示すクリエイティブ集団「東京ピストル」。代表の草薙洋平氏は言う。
「紙やウェブというようにメディアに縛られるのは面白くないと以前から思っていた。自分の中にどうもアンチな部分があって、世の中がIT、ITと騒ぎ出すとそれとは違うものを作りたくなる性分なんです。僕はもともと雑誌や書籍を起点とした編集者だから、コンセプトは作れる。だから、文学館の中にスペースが空いていると聞いた時も自然な流れで、ストーリー性のあるカフェを作ろうと考えた。ここ数年、紙の雑誌が疲弊して、優秀な編集者でさえなかなか上手くいっていないという状況もある。こうした状況を打破するには編集者自身がテーマやメディアに捕らわれずに独自のコンセプトを固めること。さらに大切なのは、企画を実行した上で継続させていく”運営力”だと思うんです。店舗の運営をしてみて分かったんですが、今、東京には面白い企画を待っている空間がどんどん増えてきている。店舗自体のコンセプト作りだけでなく、家具選びやメニューの選定だって”編集”です。つまり、編集力を生かせる場というのはなにも雑誌やウェブだけじゃないということですね」
草薙氏は昨年にも話題の飲食店をオープンさせている。三軒茶屋の駅前にあるこの隠れ家的バー「ONSEN」でも、氏の構築したユニークなコンセプトが光る。北海道・白老温泉水、鹿児島・紫尾温泉水や財寳温泉水など、水道水とは全く異なる柔らかい温泉水を利用した、口当たりの良いお酒と料理を楽しめるのだ。
「ズバリ、温泉がコンセプトなんですが、あんまり店内の雰囲気を和風にはせず、バランスを取った。まだ開店して1年経っていないんですが、店舗の企画運営に関する相談や依頼がたくさん来るようになって。雑誌を立ち上げるのと同じように、店舗を立ち上げるのも、周囲からすれば“旗を掲げている”という見え方になる。面白い旗を掲げれば、そこにまた面白い人が集まってくるようになり、さらにユニークな企画が生まれる。編集者が有する編集力って、これからの時代、益々求められるものだと思うし、そのフィールドはまさにアイデア次第だと思うんです」
information)
「BUNDAN」
東京都目黒区駒場4-3-55 日本近代文学館内
TEL03-6661-3096(東京ピストル内・BUNDAN担当)
定休日/毎週日・月・第4木曜
http://www.facebook.com/BUNDAN.cafe
「ONSEN」
東京都世田谷区三軒茶屋2-13-10 1階
TEL080-3932-3390
不定休
http://www.facebook.com/sancha.onsen.bar
Tokyo
いま、求められる「編集力」
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10/23/2012