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墜落も嫌だけど雷はもっと嫌

本誌(No.45)冒頭のエッセイに書いたフラットアイアンでのクライミング。もっとも怖かったのはランナウトではなくて雷だった。順調に登り出し、ルートの三分の二くらいまで来たときだった。まだ午前中なのに遠くで雷鳴が聞こえた。 […]

08/13/2014

本誌(No.45)冒頭のエッセイに書いたフラットアイアンでのクライミング。もっとも怖かったのはランナウトではなくて雷だった。順調に登り出し、ルートの三分の二くらいまで来たときだった。まだ午前中なのに遠くで雷鳴が聞こえた。この時期、コロラドでは毎日のように夕立がある。まだ空は明るいものの、時間の問題なのは確かだ。昼すぎには下りたいと、ペースを早めて登攀続行。いったん雷鳴が大きくなったが、スカイラインに出るころには落ち着いた。ルートの残りはあとわずか。もう大丈夫だろう。そう安心したのが甘かった。
最終ピッチに差し掛かったとき、突然轟音が聞こえた。すぐ近く、いや、この場所が雷雲の渦中なのかもしれない。岩山のいちばん高い終了点には懸垂下降用の鉄製のリングがふたつあった。仲間の確保をしていたとき、髪の毛がふわっと逆立った! 下敷きを髪の毛に擦って静電気を起こす、あの感覚だ。やばい。フラットアイアンというほどだから、岩の赤茶けた成分は鉄かもしれない。しかも岩山のてっぺんで鉄のリングを触っているのである。
懸案はもうひとつ。ロープは60mだから折り返して懸垂下降すれば30mしか下りられない。100フィートで地面に下りられるとトポ(ルート図)には書かれているが、はたして1回で降りられるだろうか……ロープが足りなければ途中で支点をつくらなければならない。様子を見るために先に下る。途中、絡んだロープを解く。しめた。ぎりぎりロープは地面についた。一気に下って仲間に合図。その間にも、轟音をたてながら雷があちらこちらに落ちている。「早く、早く!」そう叫んでも、なかなか降りてこない。何をしているんだろう? 懸垂下降のミスは致命的だ。パニックになっていないだろうか。それともまさかもう雷に……。ややあって、ロープが揺れ出すと血相を変えたパートナーがロープを伝って降りてきた。
これが今回の旅で最も強烈な思い出。思い出すと今でも寒気が走る。
 
» PAPERSKY #45 Colorado | Bouldering & Hot Springs Issue (no.45)