Bean to Bar チョコラテは日常のソウルフードになった

オアハカでは大人たちが道端で、ほろ苦く、しっかりと甘い「チョコラテ」を飲んでいる。 深く根づいたカカオの文化について、 80歳を超えるハシータおばあちゃんに話を聞いた。 朝、市場のまわりを歩いていると至るところにチョコラ […]

10/03/2018

オアハカでは大人たちが道端で、ほろ苦く、しっかりと甘い「チョコラテ」を飲んでいる。 深く根づいたカカオの文化について、 80歳を超えるハシータおばあちゃんに話を聞いた。
朝、市場のまわりを歩いていると至るところにチョコラテの屋台が出ている。大人たちが群がって、パサパサのパンと一緒にチョコラテを飲んでいる。列に並んでいるとアグア(水)? レチェ(牛乳)? と聞かれ、どちらかを選ぶ。メキシコではチョコラテといえば、チョコレートを溶かしたこのドリンク。「アグア」のほうがダイレクトにカカオの苦味が伝わり、「レチェ」はややマイルドになる。卵がたっぷり入った黄色いパンは、チョコラテに浸して食べると、そのパサパサの分だけチョコラテを吸い込んで、口のなかでジュワッと溶けるよう。オアハカの朝は、チョコラテから始まる。
原産地であるメキシコでは、栄養価の高いカカオは古くから生活のなかに入り込んでいた。それぞれの家庭にカカオをすり潰すためのメタテと呼ばれる石臼があり、母親から嫁入り道具のように渡されたり、結婚の後見人から贈られたりするものだったという。幼いころの話を聞かせてくれた80歳のハシータおばあちゃんは、母から受け継いだメタテをなんと泥棒に盗まれてしまったそうだ。それほど価値があるものだったということか。ハシータおばあちゃんが子どものころには、チョコラテはまだまだ贅沢品で、客をもてなしたり、祭りのときに飲んだりする、特別なものだったという。メタテを使ってひとり分をすり潰すだけでもかなりの重労働。贅沢な飲みものであったことがわかる。祭りや結婚式の準備では、大きなパンやトルティーヤを何十枚も焼くのと同じように、女性たちがメタテを並べて1日中談笑しながらカカオをすり潰していたという。
カカオ、アーモンド、砂糖、シナモンという基本構成は変わらないが、家庭によってその配分が違う。日本人にとってのかつての味噌のようなものかもしれない。シンプルな食材だが、つくる人によってまったく違う味になる。
現在のような日常の品になったのは、チョコラテを販売する店ができてからだろう。オアハカで最も古いチョコラテ屋は、毎年7月に行われるオアハカの盛大な祭りの名を冠した「Guelaguetza」だ。1957年にオアハカ市の中心地でスタートしたこの老舗では、電動の石臼のような機械でカカオを挽いていて、湯や牛乳に混ぜればすぐにチョコラテが飲める完成品だけでなく、カカオや砂糖などの配分を変えてオーダーすることもできる。すり潰すという「手間」を代行し、各家庭の味を再現できる店。カカオはチアパス州やタバスコ州で生産されたものを使っている。今でも店に立っている創業者のテレサ・ゴメスさんは、現在の店がある場所の裕福な家庭に生まれたため、家にはカカオをすり潰す専門の人が雇われでいたと教えてくれた。彼女たちの負担を軽くすることに需要を見て、店を始めたのだろう。「Guelaguetza」では、オアハカの人々にとってのもうひとつ重要な料理、モレも売られているが、それはチョコラテと同じようにさまざまな具材をすり潰す必要があるから。特に黒色のモレには、カカオは欠かせない。こうしてチョコラテやモレといったハレの日の食べ物は、オアハカで誰もが愛する日常のソウルフードへと変わっていった。現在では、市街地から離れた村にもチョコラテ屋があり、すり潰す手間の代行をメインに営んでいる。日本の精米所のような存在なのだろう。「Guelaguetza」と同じように、どの店の店頭にもモレは並んでいる。
日本へチョコラテを輸出している栂岡那由多さんは、ハシータおばあちゃんのレシピでチョコラテをつくっている。チョコレートという既製品があるのではなく、カカオ豆という農産物からできた食べ物であることを伝えたいという思いもある。“BEAN TO BAR”という考え方を広めることは、カカオの生産者たちを守ることにもつながるからだ。栂岡さんの自宅で、豆からチョコラテになるまでの過程を、ハシータおばあちゃんに実演してもらった。メタテにカカオの粒を置き、体重をかけるようにしてすり潰していく。油分が出てくると少しずつ滑らかになっていく。そしてこれを何度も繰り返し、途中で砂糖やアーモンドを加えていく。シナモンも粉々に挽いて混ぜてしまう。80歳のおばあさんが20分近くすり潰したものをハラという水差しのなかで、モリニージョという混ぜ棒を回転させて「レチェ」(牛乳)で溶かす。フレッシュなチョコラテはやはり香りが高く、できたての味がした。
>> PAPERSKY #57 MEXICO, OAXACA|Food & Craft Issue