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囲炉裏の末裔|PAPERSKY japan club

たいして料理もしないのについつい器や料理道具を買ってしまう。だいたいひとり暮らしだというのにこんなに食器が必要だろうか、といつも思うのだけどこれがなかなか止められない。じゃあそれらの出番はいつくるの? なんて言われそうだ […]

12/30/2013

たいして料理もしないのについつい器や料理道具を買ってしまう。だいたいひとり暮らしだというのにこんなに食器が必要だろうか、といつも思うのだけどこれがなかなか止められない。じゃあそれらの出番はいつくるの? なんて言われそうだが季節がめぐるとちゃんとやってくる。長かった夏もついに終わりを告げ、心地よい涼しさを感じはじめたこの季節、ものぐさな私でも腕を振るえる料理がある。そう、鍋である。ここぞとばかりにお気に入りの器や道具を引っぱりだし、気の置けない友人知人を呼んで鍋を囲むのが寒い季節のなによりの楽しみである。
鍋が「料理」として確立したのは江戸後期、200年ほど前のことだという。意外と歴史が浅いのに少し驚かされるが、とはいえ縄文時代に土器が、弥生時代には鉄器が普及するようになっているのだから「鍋」的な食の文化は日本にはきっと大昔からあったにちがいない。日本の伝統的な民家を思いだしてみると土間を上がった部屋の中央には囲炉裏がある。ガスや電気のない時代、囲炉裏は鍋を使っての食物の煮炊きはもちろん、暖房、照明、火種として暮らし全般を支えるなくてはならないものだった。人々の暮らしの中心にはいつも「火」があったのである。
囲炉裏が日常の風景から失われてしまったいま、我が家でその役割を果たしているものといえばカセットコンロということになる。近代に入り囲炉裏からかまどへ、さらにガスの普及によって台所が生まれ、料理をする場と食事をする場が分断されるようになった。それが持ち運び可能なカセットコンロの登場によって調理しながら卓を囲める現代の囲炉裏が再現された、そんなふうに考えてもあながちまちがってはいないだろう。
お気に入りのカセットコンロに火をつけ土鍋を囲めば自然とにぎやかな時間が始まる。いつの時代も人が集まり、楽しく過ごす場にはやっぱり「囲炉裏」が必要なのである。
This story originally appeared in PAPERSKY’s ARGENTINA | ART Issue (no.43)