命を継ぐ人、意志を紡ぐ人
世界有数の火山大国である日本は、太古から地球の息吹ともいえる火山活動を繰り返し、形を変え続けてきた。今回訪れた島原半島の形成も約430万年前の海底火山の噴火が始まりだそう。その中央に鎮座する雲仙岳も活火山で、三十数年前にも大きな噴火があった。この土地からは今もなお変動し続けている大地のダイナミズムをひしひしと感じる。その限りないエネルギーがここに暮らす人たちにも宿っているのだろうか。
「竹田かたつむり農園」の竹田竜太さんとの出会いは、そう思わせる旅の始まりだった。今、色もサイズも画一化された一代限りのF1種と呼ばれる野菜が流通する一方で、個性ある在来種の多くが失われているという。竹田さんはそんな日本古来の野菜の種を守っている種採り農家。育てる野菜の一部は敢えて収穫せず、花を咲かせ、乾燥させて種を採るという、手間と時間のかかる作業。「種は風土や気候を記憶するから、この土地に合わせておいしくなる。あと、僕の育て方にも合わせて成長してくれるんですよ」と、笑う竹田さん。その瞳の奥に、命の多様性を未来へと継いでいく、強い意志と覚悟を見た。

「地元の食材だからではなく、リスクを負っておいしさを追求している人のものだから使っています」と話すのは、「villa del nido」のシェフ吉田貴文さん。今やわざわざ訪れるべきレストランとして料理人や食通たちが遠方からも訪れる。提供されたお皿の上には、その魅力を最も引き出す方法で調理された竹田さんの旬の野菜。つくり手と料理人のおいしさを追求する情熱が、ひと皿に昇華されているようにも感じた。洗練された森をイメージさせるウッディな店内。穏やかさと安らぎを覚えるその空間のなかに、気持ちが高揚するような神秘的な力が循環しているのを感じた。

「雲仙つむら農園」の津村義和さんは、子どもたちにおいしいものを食べさせたいと農業の道へ。前号で訪れた埼玉県小川町で有機農法を学び、雲仙に移住したというから驚いた。前職では薬に関する研究を行っていた異色の経歴をもつ津村さんにとって、畑は1年に1回しか結果が出ない壮大なラボだという。自然の力を借りながら、土地に合わせて育て、種を採り、観察しながらまた育てていく。おいしいかどうかの判定役は津村さんのお子さんたちだそう。「あるひとつの条件の育ち具合で判断せず、大きな方向性と多様性をもって種を選択していく」という言葉が印象に残った。


次に向かったのは、海を間近に臨む古部駅の向かいにたたずむ「ぽっぽや茶葉」。ちょうど津村さんの奥さんの奈緒美さんが、野菜の入ったかごを抱えて店に入ってきた。そう、この店の人気メニューのスリランカカレーには、津村さんの野菜が盛りだくさん。スパイスと野菜のもつパワーの相乗効果か、食べると体がじんわり温かくなった。ライスは地元米を雲仙のほうじ茶で炊いたものと聞いて、食事の後、長田製茶の長田篤史さんにその茶畑を案内してもらった。雲仙普賢岳を背に有明海が広がる眺望のよい茶畑には、気持ちの良いさわやかな風が吹いていた。


訪れた人の心の在りようも変える力
おいしい地元食材を味わえる店が増えたことに呼応して、宿泊施設にも変化が。熊本県からフェリーが就航する多比良港の近くにある老舗旅館「観月荘」では、地元のさまざまな食材が女将の園田泰子さんの手でおいしい料理になって宿泊客に提供される。竹田さんや津村さんの野菜、地元の酒やベルガモットビールまで。園田さんは雲仙の個性ある人たちをパワフルに引き合わせて新しい魅力をつくり出すハブ的存在だ。そんな女将さんのファンになったリピーター客も多い。

さらに、宿泊の新しいスタイルとして、鍋島藩の武家屋敷が残る重要伝統的建造物保存地区の神代小路に築190年の古民家をリノベーションした一棟貸しのホテル「TOKITOKI」も誕生した。「“何もしないをする”がコンセプト。自分だけの時間を見つけてほしい」とオーナーの境研伍さん。町全体を宿に見立てる「まちやど」の発想で、受付は最寄駅近くの衣料店、朝は近くの旅館が地元食材を使った朝食を持ってくる。

ひとりでゆっくりと過ごせるカフェもできた。神代小路の一角でコーヒーのポップアップ店をしていた小川杏奈さんが実家が営む石材店の敷地内にオープンさせた喫茶と雑貨の店 「ku-ji」。ひとりで来店しても居心地よく過ごせるような席を多くつくり、読書用に本をたくさん置いた。センスのいい雑貨が並ぶ店の片隅には、こんなカフェがあったらと空想の物語を小川さんが綴ったノートが。そのカフェは今あなたがいるここですよ、という物語の締めくくりが、なんだか沁みた。

とどまることなく挑戦し続ける人たちの姿に、「生きることは変化し続けること」というある哲学者の言葉を思い出した。この変動する大地、そして、それを構成する有形無形すべての多様な要素ひとつひとつに宿る変化し続ける力。その未来へのベクトルを、生命力と呼ぶのかもしれない。次に訪れる時には、また新しい芽が膨らんで、今とは違う表情を見せてくれるのだろう。

地球の鼓動を感じる大地で生きる人たちの
熱きスピリットと自然の恵みに出会う旅
ツール・ド・ニッポン in 雲仙
2024年12月14日(土)・15日(日) 開催

火山がもたらす大いなる恵みとダイナミックな自然を堪能する雲仙の自転車旅。1 日目は、日本古来の野菜の種を守り、育て、次の世代へと繋いでいる伝統野菜を育てる農家の皆さんの畑へサイクリング。肥沃な大地で育った雲仙野菜の収穫を体験したら、夜は名物女将が切り盛りする旅館で、収穫した野菜を使ったスペシャルディナーを。生産者の皆さんと一緒に、雲仙の恵みを存分に味わいます。2日目は、雄大な普賢岳を眺めながら、歴史ある神社や手仕事の工房に立ち寄り、伝統的な町並みが残る神代小路(こうじろくうじ)を散策。有明海の潮風を感じながら、山の幸と海の幸、人々の暮らしに出会う旅に出かけましょう。
2024年12月14日(土)・15日(日)開催
ツール・ド・ニッポン in 雲仙 ご参加募集中!
https://papersky.jp/tour-de-nippon-unzen/
Tour de Nippon Guide
長崎県雲仙市
villa del nido
長崎県雲仙市国見町多比良甲313-2
TEL:0957-73-9713
ぽっぽや茶葉
長崎県雲仙市瑞穂町古部乙82-6
TEL:0957-77-3030
割烹旅館 観月荘
長崎県雲仙市国見町多比良乙93
TEL:0957-78-2027
TOKITOKI
長崎県雲仙市国見町神代丙132-1
TEL:090-9762-3525
雑貨と喫茶 ku-ji
長崎県雲仙市国見町神代戊2576-1