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Outdoors & Design 13

KATSUO TRAIL

ルーカス B.B.と歩きながら学ぶ

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

10/08/2024


僕は新しい価値観を創出したい。人間としての新しい歩き方を提案したいんだ。


荷物をパックして、出かける準備は万端。僕は天気予報をチェックした。日曜日、月曜日は晴れ。火曜、水曜日は雨で、木曜、金曜日は晴れらしい。僕がPAPERSKYのOld Japanese Highwayのウォーキングチームに参加した2日間はいつだったか分かるだろうか?僕たちは….ずぶ濡れになった。

焼津でルーカスに会って、彼の作った160kmのロングトレイルについて話を聞いた。


<1日目> 
「一番重要だったのは、最初からストーリー性を持たせることだった」



ずぶ濡れになりながら、さらに20kmは歩かなくてはならない状況だったが、僕たち7人はすごく楽しんでいた。満観峰から、トレイルというよりも、河川のようなシングルトラックを歩いていると、ルーカスが話し始めた。

「トレイルについて学ぶということは、歩くことによって学ぶということなんだ」

僕たちはルーカスの提案する新しいウォーキング・プロジェクト「KATSUO TRAIL」の初回のウォーキングに参加するためにここにやってきた。僕は最初の2日間のみ参加したのだが、本当は7日間フルに参加して、静岡や一緒にトレイルを歩いた仲間についてももっと知りたかった。

KATSUO TRAILの出発点。駿河湾の向こう側の雨雲の彼方に富士山を望む。

ここから15km戻った場所は、石津浜公園の浜辺で、日本で最も深い湾である駿河湾の彼方には富士山を望むことができる。ルーカスは、ここをトレイルの出発点と決めていた。終着点は、ターコイズ色の湖、そして、木々と茶畑に囲まれた、まる半島の山の上にあるように見えるのどかな奥大井湖上駅だ。ルーカルによれば、新しいトレイルを作る際、「最も大事なことはストーリー性を持たせることだと思った」らしい。それで、この2つの魅力的な場所のストーリーとは何だろう?それに、どうして「KATSUO TRAIL」という名前にしたんだろう。

浜辺沿いに数キロメートル歩き始めると、漁船や鰹関連の食品を調理・販売している小体なお店が目に付く。早速、ある一軒に立ち寄り、かつおサブレ、缶詰のカツオなどを買ってみた。別の一軒には、たくさんの写真が飾ってあり、さながら博物館のような様相だった。僕たちのガイド役を務めてくれたルーカスは、歩きながら、この土地のとても興味深いストーリーを話してくれた。

「焼津はカツオで有名な場所でね、日本で一番カツオの漁獲量が高いんだ」

ルーカスによれば。僕たちがさっき見かけた漁船は、かつて川根本町(トレイルの終着点)の山の奥地で伐採した木から作られていたと言う。伐採された樹木は一旦、河川に運ばれ、駿河湾(トレイルの出発点)まで搬出されたらしい。焼津の船大工たちは、この木材を使って、駿河湾の海溝深くに生息するカツオを獲るための漁船を造船していた。

大正時代の漁業 焼津漁業絵図 鈴木兼平著  神野善治编

ルーカスは、本能的にストーリー性を見出し、この地域全体の海と山を結びつけたトレイルの名前を思いついた。このトレイルを歩くことで、このエリアの歴史、文化、地質、変容しつつある経済活動と環境問題について、包括的に学ぶことができる。新旧織り交ぜた内容の話を歩きながらシェアすることは楽しい。

若い夫婦が営むyuruk bake shopでサバの塩焼きを挟んだベーグルサンドを買うと、そろそろ浜辺を後にする時間になった。その前に、昔から漁業関係者の信仰を集めてきた那閉神社で、いろいろな魚が刺繍された大漁釣守りと呼ばれるお守りを買ってから、内陸にある禅寺の林叟院を目指して歩き始めた。ルーカスと僕はお寺に入ると、瞑想スペースを窓越しに覗きながら、鈴木俊隆が日本からアメリカに禅を伝えた経緯などについて話し合った。

これこそが、トレイル・ラーニングだ。耳をすませて、辺りを見渡すと、歩きながらいろいろなことを学べるのだ。

雨が降ってきたが、僕たちはさらに歩き続けた。お店に立ち寄り、おでんを食べて、濡れた服を着替えた。からだが暖まると、東海道に入り、明治時代に開通した有名なトンネル、明治宇都宮隧道を通って、花火工場で有名な村に着いた。道路標識は巨大なロケットのように見える。陽が暮れるころ、僕たちは、またしてもずぶ濡れになり、今夜の目的点に着いた、お風呂に入って、美味しいものを食べながら、お酒を少し飲んで、いろいろな話題で盛り上がり、大笑いした後、床についた。



<2日目>
「人が歩かないなら、そこはトレイルではない」



朝食をすませた後、お弁当用のおにぎりを詰めて、脚の痛みを覚えつつ、2日目のトレイルに出かけた。いつの間にか、僕たちは地元のおばあさんとおしゃべりを始めていた。彼女は玉取特有の丸い石と、その石が地元の山体が崩壊した際にどのようにここに集まったのかを話してくれた。

山体が崩壊していく様を思い描いていた時に、目の前に山が見えた。僕たちが通るはずだった谷倉沢沿いの山道は2年前の台風の影響で、とても歩ける状態ではなかった。自然災害が丸い石を成形してしまうほどのスケール感には及ばないが、ここは慎重に行動すべき状況だった。橋が流されているので、飛び越えながら移動しなければならない場所もあり、苦労して歩き続けても、行き詰まってしまうことだろう。僕たちはプランBを選択した。

こんなことがあるからこそ、トレイルの検証ウォークが必要なのだ。僕たちは静岡の奥地で山々に囲まれ、スマホの電波が届かない場所にいた。僕は谷間から足を踏み出した時、「なんだか楽しいな」と思っていた。

これは僕たちの最終的な検証ウォークというわけではなかった。と言うのは、まだまだ解決すべき事柄がたくさんあるからだ。今日のテスト・ウォークでルートの見直しとトレイルのメンテナンスが必要なことが明らかになった。それに、標識、地図、ウェブサイトについても考えなくてはいけない。ルーカスは、QRコードを作って情報共有したり、歩きながらこのトレイルのストーリーが理解できるようになればいいと言っている。

「歩く人がいない道はトレイルじゃない。どうして、このトレイルを歩くのかを考えることが大事なんだ」

昔のトレイルは必要に迫られて、あるいは宗教上の理由から、もしくは、商業的な目的や危険を回避するために作られていた。それに伴い、インフラも整備され、歌川広重の浮世絵や松尾芭蕉の俳句などが当時のメディア的な役割を果たして情報が拡散された。東海道を歩きながら、インスパイアされて、彼らが作り上げた作品は今も名作として知れ渡っている。

トレイルの出発点で僕が撮影した写真を覚えているだろうか。残念ながら富士山は見えなかったが…。上記は、同じ場所を歌川広重が木版画で描いた作品「東海道五拾三次 由井 薩埵嶺」(1858年ごろの制作)

今のメディアは様変わりしてしまったが、僕自身が語るストーリーを、他の人たちが思いもよらない語り口で伝えてくれることもある。自分が生み出したインスピレーションの種は、他の人が花を咲かせてくれる場合もあるだろう。今後、「KATSUO TRAIL」の噂が広まり、このルートを歩いたり、走ったり、自転車で巡る人も出てくるだろう。大胆にもこのトレイルに挑戦する好奇心旺盛な人たちに向けて、キャンプ場や売店もオープンするに違いない。30時間で走り抜ける人もいるだろうし、江戸時代のペースで7日間かけて歩く人もいるだろう。ルーカスは、なるべく時間をかけて歩いてもらいたいと思っている。先ずは1、2日くらいかけて歩いてから、1年間のスパンでこのトレイルのことを学び尽くしてしまうのがいいかもしれない。あらゆる場所に興味深いものが発見できる可能性があるのだから、挑戦してみてはどうだろう。

プランBは、プランCになり、最終的にはプランDになった。僕たちはバス停のベンチに座って、ジョークの応酬を楽しみながら、このエリアを巡回している移動販売車で買ったお菓子を食べていた。

ラッキーなことに2日目は雨が降らず、僕たちは目的点までたどり着くことができた。地元の人たちにあたたかく迎えられて、素晴らしい集いに参加することができた。翌朝、僕はKATSUO TRAILを後にしなくてはならなかったが、その前にどうしても一つ確かめたいことがあった。ルーカスにとって、成功とは何を意味するのだろうかと言うことだ。

「好きなことに時間を使えて、人や社会にポジティブな影響を与えられることかな。人を尊重して、一緒に何かを作り上げることができる環境。一人よりも、二人、三人の方がより面白い発想ができると思う」

その通りだ。ルーカスの尽きることのないポジティブな精神に、僕はとても影響を受けている。そして、この2日間、ともに過ごしたメンバーと地元の人たちのおおらかな人柄に魅了され、僕はこの検証トレイルでさまざまな気づきを得た。

そう確信している….。


*KATSUO TRAILについてのお問い合わせは DO lab.([email protected]g)までご連絡ください。



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