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Animal ONSEN

動物が息づく温泉をたどる

Part 01 古湯温泉(ツル)

山がちな島国、日本の各地に点在する温泉。身体の傷を癒やし疲労を回復させてくれるものとして、今なお愛されている歴史の長い文化です。各地の温泉の歴史を遡っていくと、どうやら動物との縁が深いらしく、中には「鹿」や「熊」などの名前が冠されている温泉地も。このシリーズでは、動物たちとの繋がりを持った温泉地をデザイナー・三重野龍さんの題字とともに紹介します。まずは佐賀県の「古湯温泉」から。

07/22/2024

各地に残る動物のおもかげ


日本国内を旅行するたびに、各地で見かける温泉地。

温泉地にはだいたい泊まれる旅館があり、その近くに土産物屋があり、喫茶店があり、店主が世代交代して開業したであろうカフェなどがあって、1、2泊でその温泉地を堪能できるようなつくりになっている。短い滞在期間で気軽にローカルな旅を味わえる画期的なシステムだ。

そうした旅行を重ねるなかで気づいたのは、温泉の由来に動物が数多く関わっていること。シカやクマ、イノシシやツル、なかには妖怪のカッパまで。その動物の名前が温泉地の名前に入っていたり、入っていない場合も地名に残っていたりして、今よりも動物との距離が近かったであろう昔の日本のおもかげが感じられる。この連載では、メディアで取り沙汰されるような名湯ばかりではなく、動物との関わりに焦点を絞って温泉を巡ってみたい。



ツルが再生した温泉地


まず一軒めは、佐賀県・富士町にある「古湯温泉」へ。

福岡県中心部から車で約1時間、JR長崎本線・佐賀駅からバスで35分ほどでアクセスできるような身近さにありながら、温泉に向かうに連れてぐんぐんと山あいへ引き込まれていくような立地にある。

古湯温泉の歴史は長く、開湯は2100年も前に遡る。

秦(現在の中国)の始皇帝から不老長寿の薬を探す命を受けた「徐福」という人物がこの地で暮らしていた。そこへ突如「湯の神」が現れ、「この山中に、黄金の霊が湯となって湧出するところがある。必ず行ってその源を掘り起こし、これを広めて多くの人を救われよ」と告げ、去っていったそうだ。これによって大衆に向け開湯したものの、その後大地震の影響で埋もれてしまう。

温泉が埋もれてから88年後の寛政3年(1791年)の春。この村の住人が、ツルが水場に足を浸して数日、傷が癒えて飛び去ったのを目撃する。不思議に感じた住人はその水場へ指を入れると温かく、掘り起こしてみることに。すると、かつて浴室につかわれていた松材が出てきたかと思いきや、すぐさま温泉が湧き出てきた。これが、今の古湯温泉の由来だという。

ツルのオブジェが今なお残る旅館「鶴霊泉」の庭。ツルは長寿の象徴でもあり、日本に稲作を伝えた重要な鳥だという説もあり、縁起がいい動物として愛されてきた

こうして再起を遂げた「古湯温泉」は、14軒の温泉宿が密集する古湯温泉エリアに加え、隣接する2軒の宿を残した「熊の川温泉」(動物の熊とは関係ないらしい)とともに“ふるくま温泉”という愛称で呼ばれている。うち12軒は立ち寄り湯を提供していて、ドロップインで利用できる。

今回は、100年以上前から営業を続ける「大和屋」の立ち寄り湯へ。

ウサギが踊る特徴的なのれんは、京都の高山寺が所蔵する「鳥獣人物戯画」の使用許可を得てつくられたそう。

これをくぐり中に入ると、歴史が積み重なった重厚感に包まれ、外よりも静かな時間が流れている。

こちらで提供している立ち寄りの貸切風呂は一室1700円。六尺(直径約1.8m)の酒樽を再利用した大きなひとつの浴槽に、なみなみと源泉が注がれ続けていて、さらに障子を開ければ、内庭を眺めることも。

湯は約38℃のぬる湯で、透き通っていながらも湯にとろみがあり、ゆったりと庭の景色を眺めながら浸かっていると、意外なほどに身体が温まる。

火照った身体は、温泉街の横に流れる嘉瀬川の清流沿いを歩いて冷ますのがいい。川を横目に歩けば、まるでツルを見つけた村人が過ごしていた時間そのままを体験しているような気分になれるはずだ。

鶴の恩返し よみがえりの宿 鶴霊泉
https://kakureisen.com
住所|〒840-0501 佐賀県佐賀市富士町古湯875番地
営業時間|立ち寄り湯 11:00-15:00(最終入館14:00)
料金|大人1000円
休業日|火・水(立ち寄り湯のみ)
電話|0952-58-2021FAX|0952-58-2867


古湯温泉 古湯 大和屋
https://www.furuyu-yamatoya.jp
住所|〒840-0501 佐賀県佐賀市富士町古湯860
営業時間|立ち寄り湯 11:00-16:00
料金|大人700円
休業日|不定休電話|0952-58-2101

letters | Ryu Mieno text & photography | Yusuke Kajitani