極上の雪と自然、奥深いスキー文化を守り抜く
旭川エリアにある「カムイスキーリンクス」は、標高751mのカムイ山の斜面に設けられたスキー場だ。世界屈指の積雪量と雪質を誇るスノーリゾートエリア、「北海道パウダーベルト」のメインスキー場ということもあり、道北最大規模を誇る。全長2327mのゴンドラがかかる山頂からは25本のコースが広がっていて、自然のままの地形でパウダースノーを満喫できる非圧雪コースからスピード感を味わえるグルームバーン、ポール練習ができるバーン、スキー場の名物である、幅150mというモンスターサイズの「ゴールドコース」まで、多彩なコースバリエーションがウリだ。旭川で生まれ育ったという「カムイスキーリンクス」の阿部純也さんに、スキー場内の見どころを教えてもらった。
「もっともうちらしいものといえば、山頂からの風景です。霧氷に覆われたトドマツの林がどこまでも広がり、天気の良い日には抜けるような青空と極上のコントラスを楽しめます。僕たちはこのブルーを『カムイブルー』と呼んでいるんですよ。石狩平野を一望する眺望も見逃せません。平野を貫く石狩川と遥か日本海までを見渡すことができ、これぞ北海道!というダイナミックなランドスケープに浸れます」
とはいえ、いちばんの自慢はパウダーを超えた“シルキースノー”だろう。手のひらで握っても雪玉にならない、小麦粉のようにサラサラの雪は、内陸かつ寒冷地という地理的条件が重なった賜物だ。
“神々がいる山”ならではのシルキースノー
「この内陸部に流れ込んだ雪雲は大雪の山々に山ぶつかり、大量の降雪をもたらします。このとき、余計な水分が抜け落ちるんです。水分を含まない雪雲が、パウダーよりもさらさらの、シルクのような雪を降らせるんです」
カムイ=神々がいる場所という名前の通り、カムイ山は森羅万象のすべてが素晴らしい。だから「他のスキー場で滑りたいと思ったことがない」という阿部さん。旭岳と大雪の山々の間に位置するカムイ山は「神々の通り道」と考えられ、アイヌの人々によって大切に守られてきた。
「だからこそ、地元にはこの自然環境を末長く守っていこうという環境意識が根付いています。23の市町村で構成される上川郡では、全域で『ゼロカーボンシティ宣言』を掲げています。2050年までにCO2実質排出ゼロを実現することを目指し、住民ひとりひとりが意識をもって行動しようというものです」
12月にプラス気温を記録したり3月に雨が降ったりと、従来なら考えられないような現象が起きていることもあり、スノーアクティビティに関わる施設の危機意識はとりわけ高い。山頂レストランで使用するカトラリーをプラスチックからバンブー素材に切り替えたり、レストランの廃油をリサイクルして有効活用したり、「カムイスキーリンクス」でも地道な取り組みを始めている。今シーズンは新たに、コース整備のために伐採したカンバをコア材に、スノーボードを製作するという施策を始め、ようやくプロトタイプが完成したところだ。
パトロールおよび索道スタッフが着用するユニフォームにGoldwinの環境配慮型ワークウエアの導入を決めた背景にも、施設として少しでも環境負荷を減らしたいという思いがあったようだ。「カムイスキーリンクス」を運営する「一般社団法人大雪カムイミンタラDMO」の副理事長を務める佐藤昌彦さんは、導入の背景をこう語っている。
「Goldwinが私たちと同じように環境問題に危機意識を抱いていることに、大いに力づけられました。ダメージを受けやすい袖口や裾は容易に修理や交換ができる仕立てになっていたり、寿命を迎えた後はリサイクルできる素材を採用していたり、無駄な廃棄をなくそう、ロングユース&リサイクルを実現しようという仕立てに共感しましたね。リサイクル、あるはリサイクル可能な製品というのはどうしても割高になります。けれども、この時代を生きる私たちはコストダウンよりも価値があるものを選ぶことに舵を切らなくてはいけません。さもないと近い将来、この雪景色はあたりまえのものではなくなってしまうかもしれません」
実際の着心地について、スタッフからのフィードバックも上々だ。
「マイナス10度を下回る気温下でも十分に暖かい」
「これまではスキーウエアで代用していたが、索道の作業を意識した作りになっているとあり、フード、首周り、ポケットが大きく使いやすいなど、一つひとつのディテールが目的別に考えられて作られていることを実感した」
「ワークウエアだが、滑りにおいても支障がなく、これを着用してスキーレッスンも行えた」等々。
今後、佐藤さんたちは来場者に対しても環境配慮型のワークウエアを採用していることをアピールしたいと考えている。
「大切なのは、スキー場の運営に関わる私たちが、『この土地を自然からお借りして、スキー場をやらせてもらっている』という意識を持ち続けることだと思っています。借りたものを大切にお守りし、お返しする。このワークウエアは、そうした意識の現れなんです」(阿部さん)
「カムイスキーリンクス」が担う、サステナブルな観光とスキーヤーの育成
「一般社団法人大雪カムイミンタラDMO」は、大雪山国立公園を核とする1市8町においてサステナブルな視点に立った観光コンテンツづくりを行っている。一帯の自然を守りながら、観光産業の振興と地域活性化の促進に取り組むという事業活動の一つが、今年6年目を迎える「カムイスキーリンクス」の運営だ。
「観光地域づくりの象徴が、ここ、『カムイスキーリンクス』です。エリアの象徴であるスキー場としての価値を高めるため、営利よりも安全を最優先に考え、人材と設備に投資しています。対外的には、自然、異文化体験、アクティビティといった要素を満たす『アドベンチャートラベル』を観光の柱に据えています。私個人の考えでは、いちばんの観光資源は『人』であり、人との交流こそが旅や観光の醍醐味と考えているんですよ。地域を理解してもらい、地域の人と交流することで、ただの『観光』は一歩先の『関係』へと変化するはずです。人や地域コミュニティと深い関係を築くことが、その土地の自然や文化を尊重する意識や行動につながり、サステナブルと地域活性の両輪を担ってくれるのではないでしょうか」(佐藤さん)
こうした観光コンテンツのなかで「カムイスキーリンクス」が担うのはコミュニティづくりだ。公式SNSを活用して、スキー場におけるコミュニティづくりに積極的に取り組んでいる阿部さんは、たくさんのスキー場の中から「カムイスキーリンクス」を選んでもらう、リピーターになってもらうためのキーワードは、「人」でありコミュニティであると考えている。
「僕が子どもの頃、冬休みといえば宿題をもってスキー場に出かけ、スキーに来ていた大人たちに宿題を教えてもらっていました。小さな町だからということもありますが、人と人のつながりがスキー場独自のコミュニティを醸成していたと思います。そういうつながりが薄くなっている現代だからこそ、スキーという共通項だけで大人も子どももつながれるコミュニティの存在が必要なのではないでしょうか」
こうしたコミュニティの醸成には、次世代の育成が欠かせない。スキー文化を次の世代に継承するという「カムイスキーリンクス」の取り組みに賛同するGoldwinは、豪華ゲストコーチを招いての「Goldwin Jr. DEMO CAMP」を毎年開催している。2023年の年末に2日間に渡って行われた「Goldwin Jr. DEMO CAMP」には地元を中心とする20人の小中学生と、元日本代表アルペンレーサーで全日本技術選3回優勝の吉岡大輔選手、元日本代表アルペンレーサーで現在Goldwinに所属する石井智也選手、昨シーズン、全日本技術選にて準優勝した奥村駿選手、地元のスター選手小森彩未選手、昨年全日本技術選にて19位の成績を残した川尻幸之助選手という5名のトップアスリート&スキーヤーが参加。初日はポールトレーニング、2日目はゲレンデ内の整地・不整地を滑走するベースづくりという内容で、スキーヤーとしての土台作りを行った。
どの子も「もっと上手になりたい」というモチベーションをもって臨んでおり、開始当初こそおっかなびっくり、プルークで滑っていたポール初挑戦の子どもたちも徐々にスピードが乗ってきて、終盤には積極的な滑りを見せていたのが印象的だった。コーチたちも、「初めてのポールトレーニングが、『スキーは楽しい!』という実感につながっていたら嬉しい」と話す。
「ポールに入るというと経験者限定と思われてしまうかもしれませんが、ゆっくり滑ってかまわないからとにかく楽しんで滑ってほしい。このイベントではそれを伝えたいと思いました。滑っているうちにバランスや操作性が向上し、自ずとスピードも増すはずです。一般のゲレンデだけでなくコブやポール、不整地と、さまざまなシチュエーションを滑ることは技術の上達につながりますから、ビギナーもファミリーも臆することなくトライしてほしいと思っています」(石井さん)
地域のリーダーを自任し、ポジティブな未来を切り拓こうと奮闘している「カムイスキーリンクス」。温暖化、スキー人口の減少と課題は山積みだけれど、地域の自然とスキー文化を守り抜き、次世代に継承しつつ山麓の街の活性化も担おうと、佐藤さんたちは熱い気持ちを抱いている。