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Star Atlas –街の星図を探して–

伊藤正裕

静岡編 vol.3

その土地に点在する魅力的なヒト、モノ、コトは、“星”に例えることができる。光の強さ、色、輝き方はさまざまな星たち。それらのストーリーを一つずつ紐解いていくことで、その土地だけにある「Star Atlas(星図)」を浮かび上がらせていく静岡編の第三回。

06/08/2022

海へ川へ湖へ。静岡と釣りの身近な距離感


「サーフフィッシング(砂浜から行う釣り)をやっていると、マグロやカツオとかびっくりするような魚が釣れるんですよ。大きい魚や、この魚なんだろうみたいな魚も釣れるし、何が出てくるかわからない面白さもあります」。静岡での釣りの魅力について、静岡市を拠点とするサーモンデザインのアートディレクター、伊藤正裕さんはそう語る。

伊藤さんは「自転車を30、40分こげば海に行けた」という静岡県富士市の出身。アウトドア好きの父親の影響で子供の頃から釣り好きで、最初はエサ釣りから入った。小学校2、3年生の頃にブラックバスブームとなり、父親に買ってもらったルアーロッドでルアー釣りを始め、友達と一緒に近所の池や電車で釣り場に行っていたという。

「サーフフィッシングは、あそこだけ妙に波が立つとか、ルアーを引いてきたら急に重たくなったとか、そういう小さなヒントを重ねていって、自分が思っていたとおりに魚がいたり、釣れた時には気持ちよさがあります」と伊藤さん。

グラフィックデザインの仕事を東京でしていた伊藤さんが、より釣りにハマるようになったのは、10年ほど前に地元の静岡に戻ってきてからだ。その頃から仕事の内容も、より時間を自由にコントロールできるように変化させていった。「今は職場から海まで車で20分なので、天気がよくて夕方ちょっと釣りに行けるような時は、1時間半ぐらいで行って帰ってこれます。日常的に釣りにアクセスしやすい距離感がすごくいいなって思います」

初めて静岡で釣りをする人にもおすすめと、伊藤さんが連れて行ってくれたのが、三保海岸の灯台前の浜。この日、一緒に釣りへ出掛けたのはマリンスイーパーの土井佑太さん。土井さんは海中清掃をしながら根掛かりしたルアーを回収し、再塗装などをした上で販売している。その活動を応援し、回収されたルアーのうち自社製のものを買い取り始めたのが地元のルアー釣りメーカー、ジャクソンだ。

釣り人でもある土井さんは大学時代からダイビングを始め、海中にルアーがたくさん落ちているのを目の当たりにしたことが、マリンスイーパーの活動を始めたきっかけだった。

伊藤さんが以前から不思議に思っていたのが、静岡にはルアーメーカーが多いということ。その大きな理由として、様々な釣りが楽しめる自然環境に恵まれていることがある。「静岡は海岸線が長くて、浜も多いんですよね。また駿河湾は日本一の深さがあって、いろんな魚種が季節に応じてどんどん入れ替わります」と、ジャクソンの開発・生産部執行役員の河西幸彦さんは言う。

ジャクソン本社に展示されているルアーの一部。「開発の立場からすると、静岡はいろんなタイプの釣りができる水場が近くにあるのでテストがしやすいんですよ」と河西さん。

加えて、「プラスチック製のルアーをつくりやすい環境なんです」と河西さんは教えてくれた。「静岡にはタミヤなどプラモデルの文化があって、さらに浜松の方にもヤマハやスズキがあるので、金型屋さんが数多くあるんですよ。だから他の地域より金型代が安くて、技術もあるのでつくりやすいんです」

ジャクソン社内の工場で乾燥中のプラスチック製ルアー。最初のアイデア出しから製品づくりまで社内だけで完結するのもジャクソンの特徴。
お話を伺った、ジャクソンの開発・生産部執行役員の河西幸彦さん(左)は山梨出身で、営業部の興津征矢さん(右)は福島出身。もともと釣り好きだったお二人は静岡で暮らし、働くようになってから、楽しむ釣りの幅がより広がったと言う。

そして、これまで渓流釣りやサーフフィッシングなどを楽しんできた伊藤さんが、今後チャレンジしてみたいと思っているのがカヤックフィッシングだ。静岡市清水区にショールーム兼工場があるバイキングカヤックは、好きな色を選べてカスタムできる日本製のカヤックをつくっているのが特長。ニュージーランド出身のカヤック職人アレックス・ベネットさんたちが注文を受けてから一台一台、製作している。アレックスさんは「このカヤックはシンプルで、経験がなくても誰でも乗れます」と話す。静岡でカヤックフィッシングにおすすめの場所は、静かできれいで、魚が豊富にいる西伊豆の海だそうだ。

バイキングカヤックのカヤック職人、アレックスさん。「カヤックフィッシングをする時には、釣りだけじゃなくてシュノーケリングやフリーダイビングもできますし、体験全体を楽しんでほしいですね」と語る。
バイキングカヤックでは、お客さんが選んだ3色までの色を配合したポリエチレンの材料をアルミニウムの型に入れて熱し、成形する。

「釣りは本当にいい息抜きだし、ゲームとして面白い。静岡は釣りのフィールドがいろいろあって、まだ探せてないところがきっとあるだろうし、自分で探しに行くのもすごく楽しい」と伊藤さんは語る。10歳の長男と一緒に川や沢へ出掛けることもあり、今後も静岡での釣りの楽しみの探求は尽きることがなさそうだ。

人気モデル「忍Pro」に乗り込んでみた伊藤さん。ショールームにはテストプールもあり、水に浮かんだカヤックに乗る体験もできる。



伊藤正裕
東京で雑誌「mark」、「PERFECT DAY」などのエディトリアルデザインに携わった後、2012年から出身地の静岡を拠点に。不動の滝オートキャンプ場、南アルプスマウンテンマラソンの立ち上げ、運営にも携わる。2021年にデザイン事務所、サーモンデザインを設立。

text | Takeshi Okuno (Media Surf) photography | Toshitake Suzuki