再燃する温泉郷の新しい風
「おお、どこから来たんや? 六角堂のあったところに泊まっとるんか? 新しい人がよう来るのはええことや」
長門湯本に着いてすぐ、「恩湯」に浸かっていると老父に声をかけられた。近所に暮らす彼の声がうわずっていたのは神秘の湯のご利益か、それとも新たな場への歓迎の意か。この2軒隣にあるホテルが、かつてその名で親しまれていたらしい。

明治期に創業した「旅館 六角堂」は、この町を象徴する存在だった。音信川の畔、温泉の中心部という好立地。大浴場や宴席など、昭和期には行楽シーズンともなれば連日のようににぎわっていたが、後継者不在を理由に、2023年に惜しまれつつ閉館した。


それが2025年3月、「SOIL Nagatoyumoto」として装い新たに生まれ変わった。全24の客室はいずれもリバービュー。“間”をテーマに設計された空間は、窓の景色とつながるように境界があいまいで、たおやかな川や山に意識を重ねると、ついまどろんでしまう。
さらに複合施設として、薪窯ピザのカフェ・レストラン「TARU」やアクティビティセンター、サウナを併設する。特にアクティビティはプログラムが約15もある充実ぶり。それも深川萩訪問や塩づくり体験、林業士ツアーなど、長門湯本で当たり前にある“日常”を打ち出したものばかりだ。






日常……嗚呼、ずいぶん遠くに来たけれど、そんな小さな営みに触れたいから、こうして旅に出たんだった。最上階のサウナで蒸され、夜景を眼下に再びまどろみながら、恩湯での出会いを反芻する。確かな旅の感触。でも、たった一泊ではあまりに断片的。
明日は温泉郷をどうそぞろ歩きしようか。音信川を見下ろすと、水面が照り返していた。再び灯った町の象徴たる輝きを。





SOIL Nagatoyumoto
老舗旅館を事業継承して開業した複合施設。株式会社山口フィナンシャルグループとの合弁事業として、東京の日本橋やしまなみ海道の瀬戸田などで“ソフトデベロッパー”として注目を集めるStapleが企画・運営を行う。客室はツインルームを中心に、スイートルームやドミトリータイプも完備。大浴場を廃止し、ゲストは恩湯に無料で入り放題とするなど、長門湯本の町と連携するように設計された。地域の豊かな自然環境に根ざした、「自然育」「食育」「湯育」の3つをテーマに掲げる。
https://soilis.co/nagatoyumoto/