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Kyushu's National Parks
Interview

オーガニックベース

野菜の声に耳を澄ます キッチンでの時間

 

01/13/2021

PAPERSKY NO.63 「九州の国立公園を巡る旅」では、雲仙の野菜でつくったサンドウィッチを美しく調理してくれた、料理家の奥津典子さん。これまで1000人以上の人を台所と身体本来の力で元気にしてきた奥津さんは現在、オーガニック直売所タネト(長崎県雲仙市千々石町)で夫の爾さんとともに在来種・固定種の野菜を直売しながら、土地の風土に根ざした食の大切さを伝え続けている。目の前で次々と食材を調理していく姿を見て、ふと、頭のなかではどんなことを考えているのか、興味がわいた。

「まだまだ発見の連続ですね。野菜は一晩置いておくと変わってしまうし、人の身体もそう。”これはこうして”という過去の経験知がいい意味で役に立たないんです。特に在来種の野菜は歯ごたえ、かたさ、色、味わいがはっきりしているので同じパターンで調理しようとしても通用しない。だからできるだけ先入観を捨てるというか、フレッシュな気持で、その食材の声、目の前の素材そのものに集中し、感じとることが大事ですね。食材は生き物だし、主張を持っているので」

自分を表現するのではなく、食材にとっての幸福とは何か、食材の個性にふさわしい調理を模索することが、結果、おいしくて人を健康に導く料理になると話す。3人のお子さんを育てる奥津さん。子どもの自主性を尊重する子育てのスタンスと、料理への向き合い方はとても似ているという。

「この野菜は本当にきれいだなあという感動が出発点。どうしたら、この魅力をより伝えられるだろうと。例えば根菜であるニンジンの千切りも上から切るか下から切るかで、色つやや舌触りがまったく異なる。同じ“ニンジン”という名称でも一つ一つが、旬の時期、終わりの時期、貯蔵後など、育った時期や風土が異なるし、生産者さんによっても千差万別。当然、ふさわしい料理も適切な分量も違う。“日本人”といった名称はあるけれど、一人一人がまったく違うのと同じですよね。それに、天気、気温、湿度もとても気にしますね。暑い日なら酸っぱい料理が必要ですし、寒ければ濃い味のものが必要です。つまり、食べる方も、食べられる食材も、双方の生命が幸福であってほしい。そう考えると両者の間で料理する私は、自分をしっかり持つことは必要ですが、理想や自我で目を曇らせてはだめなんです。この感覚ってやっぱり子育てに近いんですよね」

効率優先のため、多すぎる農薬散布やすし詰め状態で没個性に育てられる野菜は、生きものとして幸福なのか、それを食べる人間は幸福になれるのか、疑問を感じるという奥津さん。食材、生産者、食べる人、器のつくり手…食がつなげるすべての存在が幸福でリスペクトされる交差点を模索したいと目を輝かせながら語る。有機農法や種を継ぐ大切さ、そしてなにより九州の大地と太陽が育む食物のおいしさをより多くの人に知ってもらうべく、奥津さんは今日も、真摯に、朗らかに、キッチンでの時間を楽しんでいる。

オーガニックベース
吉祥寺と雲仙の2拠点で活動。「素材をいかし、自分もいかす台所の学校」をコンセプトに、風土と身体に根ざした料理を伝えている。
PAPERSKY no.63 | KYUSHU’S NATIONAL PARKS
九州の4大国立公園を巡り、各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ。旅のゲストは「CHALKBOY」こと吉田幸平さんと「青果ミコト屋」鈴木鉄平さん。