Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

Kyushu's National Parks
Interview

Agrish-Farm

トマトジュースに詰め込まれた壮大なストーリー

 

12/24/2020

口にした瞬間、思わず「はっ」と声が出る。爽やかな甘みに満ちたそのトマトジュースを飲むと、太陽と大地のエネルギーが心地よく体のなかにほとばしった。佐賀県唐津市の「Agrish-Farm」。僕らはここで、そのジュースに巡り合った。あきらかに他のトマトジュースとは異なる鮮烈な味わいにも驚くが、農場主の吉田章記さんが就農してまだ3年目という事実もなかなかセンセーショナルだ。

「通常の栽培法で作られるトマトの糖度はおよそ6とか7程度。うちのトマトは糖度が10程度で、トマトがこれだけ甘いとやっぱりジュースも美味しくなるんです。トマトジュースは加熱処理によって水分を飛ばすことで濃厚な味を出していくのが普通ですが、火を入れるとどうしてもトマト本来の味ではなくなってしまう。僕はトマト本来の美味しさをそのまま味わえるジュースが作りたかったんです」

そこで吉田さんが着目したのは、土を使わず、高分子フィルムに水と養分を吸収させてトマトを栽培するアイメック農法。自然と水と養分の吸収を制限されるためトマトにほどよいストレスがかけられ、より多くの糖分を生み出すという。また土を必要としないため、バクテリアや最近、ウィルスによる汚染を防げ、農薬の使用量を大幅に削減できるというメリットもある。それにしても就農3年目にしてこれほど美味しいトマトの栽培を実現してしまった背景には、どんな情熱が潜んでいたのだろう。

「もともと僕は福祉関連の経営コンサルタントをしていました。ですから農業なんてまるで素人で。だけどこれから福祉の業界はいろいろな側面で経営側も働く側も難しくなっていくのを感じていました。だから福祉となにかをかけあわせた新しい試みを探していたんです。それでたどり着いたのが農福連携という考え方。農家の人手不足を障害者の方々が参加することで軽減するという思想です」

そんな夢を実現すべく、最新鋭のアイメック農法をゼロから勉強し、農地も確保。できたトマトを加熱処理せずにジュースへと仕上げるために、日本でも有数のみかん農家に駆け込んで直談判。ほどよく果肉が感じられるみかんジュースの製法をベースに、まったく新しいオリジナルのトマトジュースを完成させてしまった。

「障害者の方にやりがいを感じてもらえる仕事を紹介でき、余ってきている農地の有効活用にもつながる。さらにアイメック農法の素晴らしさが広まれば、佐賀に戻って就農したいという若者たちのUターンを加速させることができるかもしれません」

四方八方を幸せにするという吉田さんの壮大なビジョン。このジュースにはそんな壮大なストーリーが詰め込まれていることを知り、味わいが舌の上でさらに深みを増したように感じた。

AGRISH-FARM
土を使わず、特殊なフィルムに水と養分を吸収させて高糖度で高栄養価なトマト栽培するアイメック農法を実践。
PAPERSKY no.63 | KYUSHU’S NATIONAL PARKS
九州の4大国立公園を巡り、各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ。旅のゲストは「CHALKBOY」こと吉田幸平さんと「青果ミコト屋」鈴木鉄平さん。
text | Miguel Utsunomiya photography | Masahiro 'Lai' Arai (SunTalk)