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オオタシャツ

地元産アパレルの定義を変えるブランド

 

02/09/2022

東京東部にある観葉植物店にて開催されたオオタシャツのポップアップストア。溶けてしまいそうなくらい蒸し暑い6月の梅雨の日、私はそこで初めてオオタシャツに出会った。店頭に吊り下げられたかたちも色もさまざまな衣服は、並んでいる植物たちが生み出す豊かな緑を背景にはためく光景として、磁石のように私の視線を吸い寄せた。それらはまるで幸せな家族を見ているかのようだった。

ベスト、シャツ、パンツなど、すべての商品に一体感がある。色の素晴らしさは言うまでもない。クリーミーライラック、この上なくみずみずしいウォーターメロンピンク、ピューリタンホワイトなど、さまざまな色が並び、素材の繊維は柔らかく真新しい。

太田旨彦さんは、口数は少ないが親切で温かな人柄だ。オオタシャツのデザインと縫製を彼一人で行っていることや、素材に使っている生地は国内のさまざまな織物産地から仕入れていることを話してくれた。高級なポリエステル素材は福井県から、シルクは山形県から、木綿のはぎれは太田さんの故郷である愛知県愛西市から仕入れているという。

愛知県・岐阜県にまたがる「尾州産地」という織物の一大産地で太田さんは育った。尾州産地は、織物製造のすべての工程において理想的な条件を備えた地域である。彼はこの地で、2019年にオオタシャツを創業した。

「私は織物製造がさかんな地区に生まれ、実家近くにあった織物工場を遊び場にして育ちました。その工場で織られた生地が世界中に輸出されていると聞かされたものです。ファッションがここから生まれていると思うと、子どもながらに心が躍りました」

しかし、太田さんは成長とともに、尾州産地に住む人々が地元産の生地を使った服をほとんど着ていないことに気づくようになった。

「私は幼い頃から、地元産の生地を纏っている人を地元で見た記憶がほとんどありません。地元の人々が尾州の生地で作った服をもっと着てくれたらいいのに、とずっと思っていました。ただ、尾州織物は非常に高価で、販売業者は地元の人たちにはとても手が出ない価格として売られているのが現状でした」

太田さんは、地元産の生地をもっと身近なものにしたいと考え、多くの人に着てもらうためにオオタシャツを立ち上げ、日本各地で見つけた織物から着想を得てデザインした製品たちを送り出している。

「近年はファストファッションの流行とコロナ禍の影響で、国内の繊維産業が衰退し続けています。この状況を改善する手段の一つが、尾州産地をはじめとする国内の優れた織物産地の生地を使った製品をつくることです。私は国内のさまざまな産地の生地にこだわることを仕事の柱にすることに決めました」と太田さんは語る。

独学で縫製とデザインを学んだ太田さんが一人で経営するオオタシャツは限られた数しか生産できないが、お客様から直接注文を受けるオーダーメイド品の製造も請け負っている。

製品のあらゆる部分に配慮が行き届いたオオタシャツの製品を見ていると、太田さんが自分の仕事と業界を愛していることがわかる。地元産の素材、美しさ、シンプルさ、職人技へのこだわりが融合されたオオタシャツの製品に出会った人は、もうファストファッションを買う気持ちにはなれないだろう。