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【Papersky Archives】

美濃和紙

静かに差しこむ自然光が一枚の紙をとおして、やわらかな光となって満ちている。世代を超えて受け継がれてきた技で、紙漉き職人はそれぞれの人生をかけ、丹念に一枚の紙をつくり上げていく。ここは岐阜県美濃市。1300年代から続く伝統的な和紙産業の町だ。この町を象徴する素朴で美しい美濃和紙は、日本が世界に誇る手仕事のひとつである。

06/07/2021

Story 01 | 水のなかでつくる紙

美濃のすべての紙を、美濃の人々が力を合わせ、手づくりしていた時代があった。楮の木の皮を剥き、大きな釜に入れてやわらかくなるまで煮てから、冷たい川の水でていねいに洗い、その繊維を松の木でつくった叩き棒で叩いてほぐす。こうした和紙づくりのすべての工程を、子ども、お母さん、おばあちゃんを含め、美濃中の人々が一家総出で木を和紙に変えていた。しかし、楮の繊維と黄蜀葵(とろろあおい─日本の山芋の一種で楮をまとめる糊として使う)の根を混ぜた液を簀桁で漉きあげる「紙漉き」の作業をするのはひとりだけだ。美濃で現在、これらの工程をすべて手作業でやっている人はごくわずかしかいない。澤村正(80歳)は、重要無形文化財に指定されている本美濃紙保存会の職人のひとり。15代続く美濃和紙の職人である。

「とても難しい仕事です」大きな手で楮の皮の束を指しながら、澤村は言う。楮の皮はすでに干してある。あとは釜で煮て、洗いあげ、ふたたび釜に戻した後で叩き、どろどろの液にするだけだ。大変な仕事かもしれないが、熟練の技を使ってすべての作業をひとつひとつていねいに手でこなすことで「やさしい」紙ができると澤村は考えている。澤村の案内で薄暗い工房に入り、紙漉き用の水を張った「舟」と呼ばれる木製の水槽を見せてもらった。澤村は竹で編んだ網を木の枠で挟んだ道具「桁」(美濃では「けた」ではなく「こて」と呼ばれている)を手に取って水槽に入れ、濁った水を網の上にくりかえし広げる。右から左へ、上から下へ流れるように動かす。最後は素早く桁を振り、余分な液を取り除く。

「今日は重さ30gの紙をつくりましょう。10gの紙をつくるのに、どれだけ多くの液が必要かわかるはずですよ」。長年の勘で紙の重さがわかるという。彼の神がかった手漉きの技はこれだけではなかった。後ろのほうに漉いたばかりの和紙を重ねて置いてあるのを見つけ、「くっつかないんですか?」と尋ねると、澤村さんは和紙のほうを見やってこう言った。

「和紙は生きていますからね。自分たちのやるべきことがわかっています。だから大丈夫ですよ」

< PAPERSKY no.33(2010)より >

text & photography | Cameron Allan McKean Coordination | Lucas B.B.