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未来の知恵

石川直樹

08/13/2020

知床半島の人と歴史を考える道

今冬は北海道の知床半島によく通った。もちろんコロナウィルスの感染が今のように拡大する以前の話だ。北へ向かった目的は、初めての映画撮影だったり、現地での展覧会の準備だったりと様々だった。そうした仕事の合間に、森を歩き、海に出て、山に登った。知床半島のめぼしい場所には一度は足を運んでいるのはずなのだが、知床の森や海や山は何度行っても新しい発見があるから面白い。実は、名前の付いていないなんでもない場所に驚きが待っていたりもする。

滞在中、必ず足を運んで、移動の起点にするのが「知床自然センター」だ。ウトロの街から少し離れた丘の上にあり、ここを拠点に海側や山側へトレッキングにでかける。海側に行くと落差100メートルの崖の上からフレペの滝を見下ろすことができる。初めての人は誰しもが驚く絶景で、知床を訪れる友人がいるときはここを案内することにしている。

一方、反対の森側のルートは、人が少ない。こちらは2017年秋に新しくできた道で「開拓小屋コース」と呼ばれている。フレペの滝のような絶景は見られないが、ぼくはこの道が気にいっていて、冬場はスノーシューを装着してよく歩いている。

知床はもともと先住民のアイヌが沿岸部にぽつぽつと暮らす土地だった。その後、近代になって農業開拓が行われ、入植者による小さな集落がぽつぽつと生まれる。今ではウトロのあたりから半島の突端である知床岬方面は無人になっている。1977年、人のいないこうした土地が乱開発されることを危惧した有志によって「しれとこ100平方メートル運動」が立ち上がり、全国から寄付金が集まって、周辺の土地が買い取られた。植樹なども行われて、現在に至るまで昔の森に戻す森づくりが続けられている。

開拓小屋コースは、そうした森のなかを静かに歩く歴史の道でもある。植樹された木々は、今は整然と並んでいるが、50年後100年後に多様な環境を生み出す無数の萌芽となって成長し続けている。ルートを進んでいくと、残された開拓小屋そのものにも出会える。水はどうしたのか、畑はどのあたりだったろう、などと往時の暮らしを想像しながら歩くと面白い。さらに、知床連山を一望できる丘にも繋がって、そこまで行けば眺めは最高だ。

街よりも少々標高が高いので天気が変わりやすいのだが、晴天で風がない日に行くと、森の木々からこぼれ落ちた雪がさらさらと音を立てながら輝いていたりするし、野生動物の足跡を見つけて人知れず生きる動物たちの営みに思いをはせることができる。何より、いつ行っても観光客があまりいないのもいい。

ここで2~3時間程度の適度なトレッキングをこなした後、海沿いのウトロの街に戻ると、空気がガラッと変わる。流氷が張り詰めた海岸沿いまで下ると、先ほどまで歩いていた森と海が繋がっていることを強く感じる。もし真冬の道東を訪れることがあったら、ぜひこのようなコースを歩いてみてほしい。こんな時世になってしまったが、自分の内に眠る野生が呼び起こされて、未来への希望が少しでも湧いてくると思うのだ。

石川直樹 Naoki Ishikawa
1977年東京都生まれ。2008年、『NEW DIMENSION』『POLAR』で日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を受賞。2011年『CORONA』で、土門拳賞を受賞した。著書に開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』ほか多数。近刊に『アラスカで一番高い山』(福音館書店)。2020年、写真集『EVEREST』『まれびと』で日本写真協会作家賞を受賞した。
http://www.straightree.com

THE VOID
ニーハイメディアから出版された、石川直樹による最初の長編写真集。ニュージーランドのノースランドで、先住民マオリの聖地として受け継がれる森の原生林を収めた一冊です。
text & photography | Naoki Ishikawa