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Kyushu's National Parks
Traveler's Guide

霧島錦江湾国立公園(宮崎・鹿児島)

Route 4 : 宮崎県・高千穂 〜 宮崎 〜 鹿児島県・鹿屋 〜 霧島

 

02/24/2021


人々の人生を大きく変えた、肥沃の大地へ

4つめの国立公園であり、壮大な旅の最終目的地となったのが霧島錦江湾国立公園。豪快な霧島山塊と芳醇な錦江湾を抱く、宮崎、鹿児島へと連なるルートを進んでいった。

宮崎に入り、まず出会ったのが伝統の味噌づくりに挑む加藤潤一さん。大阪や横浜でウェブデザイナーとして活躍していた時代から一転して、宮崎へ移住。「ここく」という会社を一人で立ち上げ、突如、農業を始めてしまった人だ。売れっ子デザイナーながら毎日、パソコンに向かい続ける生活に疑問を持っていたところ、たまたまスローフードの概念に出会い、就農への道へ転身することを決めたという加藤さん。今では燦々と太陽が輝くここ宮崎の静かな田舎町で、半農半デザインのライフスタイルを楽しんでいる。

約1.4haの農地を一人で管理する「ここく」の加藤さん

「味噌は日持ちするし、加工からパッケージング、販売までやればデザイナーとしての技術とか考え方が少しは活かせるかなと。それにたまたま在来種の大豆に巡り会えたことも大きかった。ひとりで大豆から味噌の販売までを手がけるのは大変ですけど、口にすると皆、おいしいって喜んでくれる。デザイナー時代は自分のつくったものが最終的にどう喜ばれているのか、まったくわからなかったので、今はやりがいをかみしめてますね」

朝は農地で作業し、帰宅してシャワーを浴びたらデザインの仕事を。その後は作業場で味噌などの商品包装や事務処理などをして、帰宅後は炊事、その後はまた少しデザインの仕事。そんなバランスを楽しみながらこの土地に継がれる農作物のストーリーを、自分も紡いでいきたいと語る加藤さん。そんな話を聞きながら、爽やかな風が田畑を吹き抜ける情景を、僕らは心地よく楽しんだ。

アレルギーを持つ息子のためにパンを焼き始めた児玉浩子さん
伝統を守りながら新たな挑戦をする宮崎・尾鈴山蒸留所の黒木信作さん

旅も終わりに近づき、僕らはいよいよ最後となるサンドウィッチの具材を求め、鹿児島県鹿屋市にある家族経営の「ふくどめ小牧場」を目指した。ここには世界的にも希少なサドルバックという豚が飼われている。ドイツで7年間、食肉加工の修業を積み、今では牧場における加工部門をとりしきる福留洋一さん。日本で唯一となるサドルバック種の養豚は欧州で思いついたという。

ふくどめ小牧場の福留さん。ドイツでハム・ソーセージ加工の修行をして、マイスターの資格を取得した

「ドイツやイタリアでものすごくおいしい豚肉に出会って調べてみると、古来から親しまれていたというサドルバックでした。いずれは鹿児島に戻って父の牧場経営に関わることが決まっていたので、黒豚でなくこのサドルバックなら他の牧場との差別化になるとも思ったんです。脂身の柔らかさ、コクはあるんだけどあっさりとした味わい。野性味のある味は独特で、もちろん人気です」

敷地にはソーセージやハムなどの加工品販売所とレストランを併設。希少な肉をこの場で味わうこともできた。父親の経営する牧場で兄は養豚、弟の洋一さんは加工、妹も一緒に働くという家族ぐるみの取り組みでチームワークも抜群だ。

ふくどめ小牧場では加工品をその場で味わえる

「なにしろ日本のどこにも飼われていない種なので始めは勉強しながら、立ち止まって考えながら、飼育にはいろいろと苦労がありました。なんとか健康に育てることができているのはやっぱり環境のよさも大きいと思う。日照とかきれいな湧き水とか、ストレスが少ないよう広さをとった豚舎とか、自家配合の飼料とか。そうやって大切に育てた豚なので、無駄なく利用することにもこだわっているんです。肩ロース、バラ肉といった主だった部位以外もハムやソーセージとして加工し、脂までとって利用する。かつてやりたかったことが、今はすべて実現できていますね」

大変なこともたくさんあるけれど、がんばれる源はやっぱり家族や従業員の幸せだと目を輝かせながら話す福留さん。どこまでも爽やかな言葉の数々を胸に、僕らはまた車に乗り込んだ。

廃校を利用した「ユクサおおすみ海の学校」
障害者たちの活躍の場でもある「kiitos」のチョコレート

今回の旅も終わりが見えてきた。各県に複雑にまたがるそれぞれの国立公園では、次世代に残すべき大自然が僕らの五感を四六時中、刺激した。魅力的な食を求めてひたすら奔走した道中。その軌跡が苦心してつくったサンドウィッチの味わいに、確かに凝縮されていたからだ。太陽の香り、土の匂い、樹木の囁き、さやめく風、そして心に残るのは各地で出会った創造のストーリー。どんなに大きな台風があっても、コロナの収束が見られない現在にあっても、ただひたすら肥沃な大地で懸命に生きるたくましさを感じて、道中、僕らの好奇心もどんどん増幅していった。何かに向かって突き進む人々の背中はどこまでも眩しい。新しいモノやコトを生み出す勇気が、なんだか僕らにもふつふつと湧いてきたようだ。

有機無農薬のローズガーデン「ダマスクの風」へ遊びに
サンドウィッチを調理してくれた「この路」の蜂谷拓広さん


SPOT LIST

KODAMAPAN
宮崎市佐土原町下那珂4750-133
TEL: 0985-71-2386

ここく
宮崎市清武町船引3996-1
TEL: 080-3472-0369

ふくどめ小牧場
鹿屋市獅子目町81-1
TEL: 0994-48-2324

ユクサおおすみ海の学校kiitos
鹿屋市天神町3629-1
TEL: 0994-31-8193

この路
鹿屋市北田町11099-3
TEL: 0994-42-2271

PAPERSKY no.63 | KYUSHU’S NATIONAL PARKS
九州の4大国立公園を巡り、各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ。旅のゲストは「CHALKBOY」こと吉田幸平さんと「青果ミコト屋」鈴木鉄平さん。
text | Miguel Utsunomiya photography | Masahiro 'Lai' Arai (SunTalk)