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‘Modern Nomad’
TRAVELER’S GUIDE

太平洋を眺めながら
移住者たちのクロストーク

Gathering Seaside

開放感溢れる平野サーフビーチに集ったのは、3人の移住者たち。アートディレクターであり、ビーガンカフェの先駆けとして東京の第一線で活躍してきた清野玲子さん。サーフィンをきっかけに大阪から高知に移住し、高知の食材の橋渡しを担う「KOCHI GOOD FOODS」の市吉秀一さん。そして、孫ターンし、ハーブの栽培加工、「BONSAI Cafe」など幅広く手がけるデザイナーの塩田教介さん。個性豊かな面々に、高知ライフの魅力についてざっくばらんに語ってもらった。

08/31/2021

人、食、自然の魅力に溢れる高知



—移住した経緯について教えてください。

塩田 東京の家具メーカーに勤めていて、20年ほど前に生まれ育った高松に帰って来た後、地元の商店街の仕事などをしていたんですが、そのころから独学でデザインを始めて。いずれは親父の生家である高知県宿毛市へと考えていて、フリーランスになるタイミングで今の家に移住しました。

市吉 関西に住んでいたころは、サラリーマンでした。片道5時間かけて高知までサーフィンしにきていたんです。自然豊かな土地に魅せられて、友だちもいっぱいできて。東日本大震災をきっかけに都会にいる場合じゃないっていう思いが強くなって移住したのが2013年ですね。

清野 私はまさか高知に住むことになると思っていませんでした。長い間、東京で仕事をしてきたんだけど、2017年くらいから今までと同じやり方ではダメだっていうことを思うようになったんです。それと、子どもが小学校に入って、東京の子育てと教育にも限界を感じて。私も旦那もそれぞれ別で事業をやっていたので、通える範囲で最初は学校を探してたんだけど、いの町にユニークな小学校(※2019年4月に開校した「とさ自由学校」)ができたというニュースを見て、すぐにサマーキャンプに申し込んだんです。息子を参加させている間にレンタカーで地域をまわってみたら、すごく自分に合っているって直感してしまった。息子もここの学校に通いたいと言ってくれたので、よしっ!と移住したのが2019年ですね。

—高知のどんなところが魅力ですか?

清野 私はお店をやってちょうど20年だったんです。猪突猛進にやってきて、やりがいもあったんですけど、高知に来たら自分でもびっくりするくらい、その20年がまるでなかったような感覚で。なんともいえない居心地のよさがある。あ、こっちの人だったんだ私って、忘れていた感覚を思い出した感じかな。本当にね、引っ越してきてよかったと思ってるし、うちの息子もすごく変わったから。学校では、彼は一日中、虫とりしています(笑)。

市吉 物価も安いし、都会とはまったく違う価値観で生きてる。高知に来たばかりのころ、スペインみたいやなって思って。朝からお酒飲んでたり、シエスタのように昼寝して、なんていい暮らしだ、と。自分の人生を自分で楽しむ、それをみんなが認め合ってる。あと、人懐こい人が多いというか、あっけらかんと裏表がない。人のよさがずば抜けているなぁと感じますね。

塩田 太平洋にばっと開けているロケーションがそうさせるのか、わーっと開け放たれている感じがあるんですよね。僕は高松に長く住んでいて、海といえば穏やかな瀬戸内海だったんですが、いろいろと煮詰まったときに高知に来るとぱーっとなって幻の世界に来たような感覚でした。今はそれが日常なわけだけど。

清野 ロケーションもそうだけど、高知の人のよさは、たぶん食が豊かだというのもあると思う。食べるのに困らないから、心に余裕がある。やっぱり都会にいると収入を得るために働くけれど、ここでは人生に必要な分だけちょっと稼いで、あとの時間は人生を楽しむために使うという生き方が自然に根づいている気がする。みんなお米も野菜も育てているし、釣りも日常。いろいろいただいたりするし、案外、お金がなくても生きていけるんだなと思います。


—これからの高知の未来について聞かせてください。

市吉 僕はね、一周遅れの最先端って言ってるんですけど(笑)、未来はすべて高知にあると思っていて。経済重視社会から距離を置きながら、独特な文化が生まれて、それぞれの営みがちゃんとあって。小さい経済をもっている人々が、しっかり手を携えている。そんな高知ならではの幸せなコミュニティーは、これから全国のモデルケースになっていくんじゃないか、と。そのなかで重要なのは食育。子どもが通う幼稚園でも大事にしているし、とさ自由学校のような開かれた学校もできたりしていて、自然を守るという意識や動きも、どんどん芽生えている気がします。

塩田 一周遅れの最先端って共感するなぁ。僕は、宿毛っていう高知のなかでも田舎に住んでいるので、ちょっと行けばスイスみたいな山があるし、川も海も全部ある。でも、それだけではなくて、ディープな自然のなかに、例えばロンドンにあるようなカフェが佇んでいたらいいなぁとか。豊かな自然のなかに、現代人にとって必要な空間がバランスよく存在するほどよい余白が、高知にはあるんじゃないかな、と。自然と共存しつつ、高知にいながらにして世界が味わえるみたいな、ユニークな場所になるんじゃないかな、そうなったらおもしろいなって。

清野 日本はこれからますます二極化していくと思うから、そんななか、人口が少ない高知はチャンスだと私は思っていて。人が少ないからこその自由度があるし、それでいてオープンな人柄もあって、何かを変えるということに対してそんなにハードルが高くない。さらに移住者も多いから柔軟な考えの人が多い。小学校も、半分以上が移住組で国際色も豊かになってきて、ユニークな人しかいない。あれだけ東京で苦しかった保護者同士のつき合いが、こっちでは本音でばんばん話すし、物事が進むのが早い。可能性に溢れている高知で、今後も新しいことがいろいろできそうで、すごく楽しみですね。

平野サーフビーチの一角にあるキャンプ場「Laki Lani on the Beach」のテラスにて


(写真左から)
清野玲子 Reiko Kiyono
アートディレクター。ヴィーガンカフェの先駆け「CafeEight」「PURECAFE」を運営し、日本のオーガニック文化を牽引。現在は高知でデザインや企画、コンセプターの仕事に関わる。「とさレモンの会」を運営。

市吉秀一 Hidekazu Ichiyoshi
株式会社ローカルズ代表。食のプロデューサーとして、高知の食材を県外に橋渡しする「KOCHI GOOD FOODS」を運営する傍ら、コーディネート業やPRなど複数のわらじを履く。高知県観光特使。

塩田教介 Kyosuke Shiota
デザイナー。三原村「甘酒」のパッケージデザインなど、地域にまつわるデザイン業をする傍ら、自家農園で栽培したハーブ「S/H」を加工・販売。ドリンクと盆栽をオープンに楽しむ「BONSAI Cafe」主宰。

PAPERSKY no.64 | MODERN NOMAD
火を囲み、釣った魚と地元の食材で調理しながら、心と身体と魂を開放する高知の旅へ。旅のゲストは旅する料理人の三上奈緒さんと、釣り師の BUN ちゃんこと石川文菜さん。
text | Yukiko Soda photography | Natsumi Kinugasa