信仰と政治の壮大なドラマを感じて
九州の歴史を語る上で避けては通れない隠れキリシタンのストーリー。1550年に宣教師フランシスコ・ザビエルが平戸を訪れたことを端緒に、この地からキリスト教が日本中へ広まっていった。ところが16世紀末には豊臣秀吉によって「追放令」が発令。一気に各地でキリスト教弾圧の動きが強化され、キリシタンたちにとって暗い時代が始まっていく。彼らは弾圧を逃れるため、神道、仏教、カトリックを重層信仰する独自の潜伏信仰を生み出し、厳しい自然に囲まれながらも人の出入りの少ないここ平戸の春日集落でひっそりと暮らし続けた。

圧倒的な棚田や潜伏信仰の聖地である安満岳の景観を眺めながら、僕らはこの美しい海辺の傾斜地を歩いて巡った。今でも棚田では、15~16世帯ほどが耕作を続けているという。聞けば、江戸時代の古地図と比べてもほとんどその景観が変わっていないとか。キリスト教の伝来と隆盛、禁教と弾圧、そして潜伏という目まぐるしい動きが展開された時代にあって、この棚田がつねにその背景で美しい景観を誇っていたということになる。そんなことを考えながら丸尾さまと呼ばれる小さな丸い丘へと上っていく。
緩やかな斜面を登り切ると、とびきり美しい周囲の景観が目に飛び込んできた。隠れキリシタンとして潜伏信仰を続けた人々、そして仏教や神道、カトリックへ回帰した人々。こうした人々がそれぞれの事情を抱え、この場所で暮らし続けたわけである。
キリスト教が伝来する前から存在し、禁教が解けた現代にもその姿を残す棚田の風景。ここでどんな暮らしが営まれ、どんな感情を抱きながら人々は生きていたのだろう。歩けば歩くほど、信仰と政治が絡み合った複雑な歴史のストーリーに強い興味が増していく。ひたすら美しいけれどそれだけじゃ終わらない重い感情が、身体と脳になんだかズシンと残った。



春日集落には、棚田を堪能できるウォーキングコースが整備されている。丸尾山を中心に約150mと気持ちいい高低差を歩く基本的なコースは1時間から1時間半で踏破可能。舗装道路中心で、目印のプレートも随所に貼られている。
春日集落拠点施設「かたりな」
長崎県平戸市春日町166-1
TEL: 0950-22-7020

奈良時代から受け継がれてきたシナモンの葉でつくられた泉屋六治のシナモンティーと、特殊フィルムを使ったアイメック農法で栽培される、佐賀・唐津の高糖度トマトジュース「太陽のたまもの」。平戸夏香のピールは、疲れた体に◎。