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Bike Packing Weekend

山から川へ、そして海へ。
グラベルでたどる、水がもたらす物語

宮城県 名取市、岩沼市、亘理郡、福島県 相馬郡、相馬市、南相馬市、双葉郡

東日本大震災後の復興が進み、新たな街づくりが始まっている福島県浜通り地方。現在、その中北部に位置する相馬・双葉地域を合わせた相双エリアを自転車でつなぐグラベルルート、「SOU SOU OSAKANA GRAVEL」の整備が進められている。伝統の相馬野馬追(そうまのまおい)に、常磐沖で水揚げされる「常磐もの」、良質な米と水でつくられる銘酒と、見どころもご当地の美味も目白押し!総距離200km、走り応えたっぷりの2泊3日の自転車旅へ。

03/23/2026



およそ200kmのグラベルルート誕生!


阿武隈川の河口から双葉町まで、浜通り地方の沿岸部を南北につなぐ「SOU SOU OSAKANA GRAVEL」。200kmにおよぶルートのじつに70%がグラベルという、オフロード好き垂涎のルートである。3年前からこのルートの開発を行ってきたのは、「Japan Long Trail Walker」の記事で紹介した「ボルケーノトレイル」のプロデューサー、一瀬圭介さん。一瀬さんが活動する磐梯朝日国立公園と相双地域は、水を介して密接な関係があるとか。

「山に降った雨や雪は、火山特有の地層で濾過されてミネラル豊富な水となって阿武隈川に流れ込み、宮城県南部で太平洋にいたります。河口周辺は親潮と黒潮がぶつかる潮目にあたり、そこにミネラルを含んだ水が流れ込んで世界屈指の好漁場とります。ブランド魚として評価されている『常磐もの』の漁場のひとつになっています」

福島県唯一の潟湖、松川浦。波や風に侵食された海食崖と砂州・潟湖が混在する

「沿岸部を走りながら、水を媒介につながる国立公園の自然を体感してほしい」とナビゲーターを買って出てくれた一瀬さん。一瀬さんとともにグラベルバイクにまたがり、一路、浜通りへ。1日目は宮城県南部、阿武隈川河口にほど近い名取から阿武隈川をなぞって南下して福島県に入り、常磐線相馬駅周辺まで。

2日目。最初に目指すのは「小松島」とも呼ばれる松川浦。江戸時代から相馬藩の行楽地として愛されてきた美しい潟湖はアオノリの名産地で、一面にノリ棚が広がっている。

都市部ではなかなか味わえない、ロンググラベルルートを満喫
二本松藩に献上されていた松川浦名産のアオノリ。濃厚な香りと食感のよさが特徴だ

その先にある松川浦漁港はスズキやヒラメなど良質な白身魚が有名で、朝方を狙って水揚げの様子を見学する。水揚げした魚を選別し、秤に乗せ、せりにかけ……といった漁港の作業で活躍するのはパワフルな女性たち。あちこちで見かける、海とともに生きる人々のたくましさが心強い。震災後の漁業の復興や活性化にも港の女性たちが積極的に関わったそうだ。

この日はアナゴやフグが揚がった松川浦漁港
松川浦漁港では、ブランド化を進めている「福とら」の水揚げを間近に

その先の鹿島は、かつては海に面して民家がひしめいていたという港町だがその面影はない。名取から走ってきた沿岸部同様、今、目にできるのは三陸から続く巨大な防潮堤とどこまでも続く平原のみ。宅地を建てられなくなった平原は、風車や太陽光パネルの設置場所として活用されているようだ。防潮堤の内側では防風林の再生が始まっていた。

被災地では震災からの復興として再生可能エネルギーの推進が進められている。沿岸部に連なる風車がこの地域に新たな景色をつくり出している
グラベル率7割強の「SOU SOU OSAKANA GRAVEL」は一部区間で担ぎ上げもあり!
名取の河口で、朝日に輝く蔵王連峰を眺めながら


馬と生き、鮭に生かされた


江戸時代、馬産地として名を馳せた相馬地方で掘り下げるのは、馬にまつわるストーリー。南相馬市を流れる新田川では古くからサケ漁やサケの繁殖が行われたが、それを二本松方面に運んだのが馬。南相馬市博物館ではサケ籠をつけた運搬馬の姿が復元されていて、その様子はまるでパニアバッグ!

もうひとつ、1,000年の歴史を誇る重要無形民俗文化財指定の行事、「相馬野馬追」も見逃せない。もともと妙見社の祭礼を兼ねた軍事訓練として行われていたもので、現在も戦国時代さながらの甲冑を身につけた騎馬行列や、馬に乗って神旗を取り合う神旗争奪戦が行われている。

「相馬野馬追」の舞台となる相馬中村神社では、馬の像があちこちに
「相馬野馬追」の舞台となる相馬三社のひとつ、相馬太田神社。馬や牛の守護神というから、現代の馬=自転車に乗るサイクリストもお参りすべし

ルート上には乗馬体験ができる「カリフォルニアライディング」も登場するが、馬つながりということでウエスタンスタイルの鞍にまたがって鞍上の景色を楽しもう。

「相馬野馬追」の武士の気分で乗馬体験を。

馬から自転車に乗り換えて、2日目の宿泊地・小高へ。JR常磐線小高駅至近の「双葉屋旅館」は、現女将・小林友子さんの曾祖母が開いた庶民的な旅館だ。東日本大震災の津波と原発事故の影響を受けて一時休業していたが、小林さんは仮設住宅に暮らしながら旅館の改修に臨み、避難指示区域に指定されて一時は住民がゼロになった地域の復興にも貢献してきた。

小高駅舎に醸造所兼パブリックマーケットをオープンした「haccoba -Craft Sake Brewery-」のような若い移住者のサポートや、地域の文化を伝える私設ミュージアム「おれたちの伝承館」のオープン、そして震災後から続けているチェルノブイリとの交流。国内外から多くの視察を受け入れているというが、「小さな活動でいいから、小高にしかないものをつくっていく」という小林さんを慕うファンは多い。

小高駅前の車止めは、なんと馬モチーフ! ヘルメットはオージーケーカブトの新作モデル「GLOSBE NT

「haccoba-Craft Sake Brewery-」は2021年2月に誕生したクラフトサケブリュワリー。東北に伝わるどぶろく製法「花酛」をベースに、発酵過程で果実やホップなどのボタニカルを加えたユニークなクラフトサケを醸している。取材時期に小高駅舎醸造所で扱っていたのは、左からスパークリングのGinger PON☆PON¥2,750、カヤやアブラチャンの実など在来の植物と一緒に発酵させたzairai[森 forest]/秋-2025-¥2,420、日本酒とベルギービールの要素をかけ合わせたhanamoto bretta [kriek] ¥2,640
早朝のライドスタート。こんなサンライズが見送ってくれた

3日目は現在も町内の多くが帰還困難区域に指定されている浪江町、双葉町へ。この先は地震と大津波による被害を受けただけでなく、現在も原発事故による甚大な影響を受けている地域で、震災遺構や震災関連施設が点在する。そこには「震災を風化させず、自分ごととして捉えてほしい」という住民の思いが込められている。

時間をとって訪れたいのは「東日本大震災・原子力災害伝承館」。2020年に開館したこちらは、震災・原発事故直後から現在までの経過や復興の歩みの全体像を学ぶことができる施設で、地震、津波、原発事故という複合災害の記録や復興の歩みを国内外に伝え、将来に引き継ごうとしている。スクリーンに映し出される災害の光景や大きく変わってしまった風景には胸が苦しくなるけれど、完成形が見えない復興に向けて困難や逆境に立ち向かう地域の姿は力強くポジティブだ。

震災から15年、災害の記憶が風化しつつあるからこそ訪れたい「東日本大震災・原子力災害伝承館」。地震や津波、原子力発電所事故発生当時の映像とアニメーションを組み合わせた映像資料、被害の大きさを示す実物展示を、今一度防災への戒めとしよう
屋上に避難した児童や教職員、保護者ら90名の命を救った、宮城県山元町の「震災遺構中浜小学校」。大津波の痕跡をできるかぎりそのまま残して整備された施設は、災害への備えの大切さを伝承する役割を果たしている

ここでの体験を踏まえてこの3日間を振り返ってみれば、走ってきたルートやそこで目にした風景の印象が、これまでとは違って感じられるはずだ。自転車旅は楽しい、けれどもただ楽しいだけでは物足りない。「SOUSOU OSAKANA GRAVEL」は気づきや余韻ももたらしてくれる、学びのフィールドなのだ。

新鮮な「常磐もの」と、松川浦出身の大将が厳選した日本酒を味わえる「夢酒三四郎」。この日の刺し盛りは、ホッキ、スズキ、ヒラメの昆布締め、マダイ、マゾイ。日本酒は宮城の伯楽星
「相馬野馬追」で戦国時代にタイムスリップ?!
1000年以上の歴史をもつ、相馬地方を代表する祭典。甲冑を身につけた約400騎の騎馬武者の行列や甲冑競馬ともいわれる「神旗争奪戦」、裸馬を素手で追い込み小高神社に奉納する神事など、3日間に渡って行われる儀式・行事は見どころ満載。南相馬市博物館には勇壮なジオラマや甲冑をはじめとする祭具、これに関連する資料が展示されている。

南相馬市博物館
福島県南相馬市原町区牛来出口194
TEL:0244-23-6421


一瀬圭介/Keisuke Ichinose
石川県出身。Adatara Azuma Nature Center(ANC) 主宰。1,000Kmクラスのバイクパッキングアドベンチャーレースに出場するサイクリストにして、テレビから雑誌までジャンルレスに活躍する山岳フォトグラファー。磐梯朝日国立公園山域に広がる活火山のある風景に惹かれ、2020年に岳温泉へ移住。この山域を旅するように歩いてほしいと、活火山と山麓の温泉を繋ぐロングトレイル「磐梯・吾妻・安達太良ボルケーノトレイル(以下、ボルケーノトレイル)®」をプロデュース。現在、東吾妻と安達太良エリアを結ぶ「ATA」ルートが開通済みで、猪苗代湖までを含める全線約250kmのルートや周辺域のサイクリングルートの設計に挑んでいる。また、この国立公園から阿武隈川を介して繋がる沿岸部のグラベルルート「SOU SOU OSAKANA GRAVEL」も延伸中。この地域を旅するサイクリスト&ハイカーは、「ANC」が発信する情報をチェックして。「ボルケーノトレイル」の詳細は「Japan Long Trail Walker」の記事にて。


Bike Packing Guide
山元町震災遺構中浜小学校
宮城県亘理郡山元町坂元久根22-2
TEL:0223-23-1171
夢酒三四郎
福島県相馬市中村田町34
TEL:0244-35-6346
南相馬市博物館
福島県南相馬市原町区牛来出口194
TEL:0244-23-6421
カリフォルニアライディング
福島県南相馬市原町区上太田石積248-1
TEL:0244-26-9943
双葉屋旅館
福島県南相馬市小高区東町1-40
TEL:0244-32-1618
haccoba小高駅舎醸造所&PUBLIC MARKET
福島県南相馬市小高区東町1-140 小高駅舎内
TEL:なし
東日本大震災・原子力災害伝承館
福島県双葉郡双葉町中野高田39
TEL:0240-23-4402

text | Ryoko Kuraishi photography & videography | Ryuta Iwasaki Special Thanks | Adatara Azuma Nature Center, OGK Kabuto, Specialized