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山に階段を刻みつける|Sekizai|真鶴石材 2

15万年前、箱根山の噴火で流れ出た溶岩が周辺地域をすっぽり覆った。流れだした溶岩が冷えて固まり、やがて真鶴という町の一角をなす小松山と呼ばれる山の土台になった。真鶴で採石業を営む遠藤善之は、若いころからずっとこの山で、空 […]

06/18/2014

15万年前、箱根山の噴火で流れ出た溶岩が周辺地域をすっぽり覆った。流れだした溶岩が冷えて固まり、やがて真鶴という町の一角をなす小松山と呼ばれる山の土台になった。真鶴で採石業を営む遠藤善之は、若いころからずっとこの山で、空圧ドリル、建設機械、爆薬などを使って石を掘削する仕事をしてきたという。
「価値のある小松石がどこにあるかはわかっています」と遠藤は言う。「まず土を10mほど掘ると石の層にぶち当たる。その層の下に俺たちの欲しい小松石があるんだ」。そう言いながら、ベンチに置かれた灰色の石の塊を指さす。まだ磨かれていない原石は、どこにでもあるような石に見えるが、研磨すれば美しい青みがかった色になる。この貴重な青みがかった石の鉱脈にたどり着くまでに数年かかることもある。
遠藤の会社は、石の採掘をおこなう業者。真鶴の町を見下ろす山の一角から石を切りだしている。彼を含む6人の職人たちが、石を手頃な大きさに切り分け、加工業者に販売する。採掘は、生命の危険と隣り合わせの仕事である。「これは信じられないほど危険な仕事だ、本当に死んじまうからな」。彼が採掘現場で働きはじめたのは24歳のころ。発破作業中に兄を亡くし、後を継ぐようになった。小さなプレハブの休憩所の外では、ふたりの職人がドリルで掘りだした石を分割していた。ドリルの音が石の壁にぶつかり、あたりに反響している。近くの採掘現場では数人の職人が、重機やダンプカーを使って作業をしている。遠藤は、山に巨大な階段を刻みこむように石を切りだしていくようすを私たちに見せてくれた。
「これまで掘りだした良質な小松石のなかで、いちばん大きかった石は長さが8mもあった」と遠藤が教えてくれた。いまでは採掘法の安全性と効率は向上したものの、それほど大きな石にはなかなかめぐりあえない。ほとんどの石がすでに掘りだされているからだ。100年以上前は、海の近くの現場で石を採掘できたから、東京や日本のほかの港に運搬するのも簡単だった。このことが小松石の知名度を押しあげた。小松石のような石はほかになく、真鶴で大量に採掘できたうえ、流通が容易だったからである。いまでは大量に採掘できなくなったし、運搬にかかる手間も外国産のものと変わらなくなってしまった。小松石は貴重品になりつつある。採掘業者の3代目だが、次の代になっても小松石が残っているかどうかはわからないという。真鶴の下に眠る貴重な石の最後の塊が掘りだされる日が、いつかかならず訪れる。その石は切断され、磨かれ、やがて私たちの誰かがその斑点模様の青みがかった石の下に眠ることになるだろう。
新屋石材店
神奈川県足柄下郡真鶴町岩108-2
TEL: 0465-68-1343