いま伝えたい、ものづくり〜 テマヒマ展 〈東北の食と住〉

人が時間をかけて、自分の手を動かすこと—「ものを作る」という行為には計り知れない力がある。 それがごくありふれた家庭料理や編み物でも、誰かがものを作る気配を感じながら過ごしていると、私たちの心は不思議と落ち着くものだ。こ […]

06/19/2012

人が時間をかけて、自分の手を動かすこと—「ものを作る」という行為には計り知れない力がある。 それがごくありふれた家庭料理や編み物でも、誰かがものを作る気配を感じながら過ごしていると、私たちの心は不思議と落ち着くものだ。この4月から、東京ミッドタウン・ガーデン内の21_21 DESIGN SIGHTで「テマヒマ展 〈東北の食と住〉」が開催されている。昨年の東日本大震災を受けて開催された特別企画『東北の底力、心と光。「衣」、三宅一生』に続く、東北6県の「食」と「住」に焦点を当てた企画展だ。
地下フロアへの階段を下りていくと、ドンドン、コツコツ、カンカン、ギーギー…まるで工房の中に入っていくかのように、人がものを作る音がかすかに聞こえてくる。こうした東北の職人達がものづくりに取り組む現場を紹介してくれるのが、ギャラリー1で上映されている「『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』のための映像」(トム・ヴィンセント、山中 有)である。時折美しい冬の風景を交えながら、スクリーンの中で淡々と続いていく作業。 作り手の動作や呼吸に合わせて細かく切り替わるカメラアングル。7本の映像がひと回りするまでじっくり眺めていると、身体のリズムが、作業場で流れるごくシンプルな時間に少しずつ馴染んでいくのが分かる。
続くギャラリー2では、東北の「食」と「住」にまつわるものづくりから、50種を超える品々が紹介されている。空間構成を手掛けたのは、佐藤卓とともに本展のディレクターを務める深澤直人。ケースの中で大量に吊るされた、縄干しいわなや寒干し大根などの伝統的な食べ物。ガラス越しのサンクンコートで塔のように積み上げられたりんご箱。会場にはおびただしい数の「もの」が並び、影までも密に計算され、標本のように整然とディスプレイされていた。それは一見すると「暮らし」という言葉からかけ離れた光景にも見える。しかし、職人達が淡々とものを作り続ける先ほどの映像を思い浮かべれば、この圧倒的な数の1つ1つに込められた時間の重みがまっすぐに伝わってくる。そして実際には、この会場に置かれているよりもずっと多くのものが作られ、長い間人々の暮らしの支えとなってきたのだ。
各所に展示されている西部祐介の写真も見逃せない。特に地下ロビーにある、雲がかった壮大な山並みと、夕暮れに包まれる山麓の風景を捉えた2枚の写真が印象的だ。プリントに収められたその雄大なランドスケープを眺めていると、私は昨年の冬に会津鉄道の車窓から眺めた景色を思い出す。雪の降りしきる夜、静寂に包まれた南会津の温泉地で過ごした時間。 真っ白な道を歩く時に感じる1歩の重み。誰もいない茅葺きの駅舎で触れた木の温もり。音の無い世界にいると、まるで身の回りにあるもの全てが自分に語りかけてくるかのように感じられる。そのような感覚を物心ついた時からずっと磨いてきた東北の職人達には、一体どれだけのものが聞こえているのだろうか。同じく西部による「Anonymous hands」シリーズが捉えた、深いしわの刻まれた職人の手。まるで作る動作のすべてを記憶したかのようなその手は、最早自然の一部となっているのかもしれない。
展示会場をひと回りして、私は再びギャラリー1の映像作品と向き合った。作業場で、はにかんだような笑顔を見せる人、無骨な中にも優しさのある目線を真っ直ぐに向ける人。その素朴な表情を見ているうちに、このようなものづくりをもっと大事にしたいという思いが沸いてくる。その一方で、作り手のほとんどが高齢化し、多くのものがいつまで作られ続けるのか分からない—そんな厳しい現実への危機感が、展覧会の其処彼処から伝わってくる。
いま、失われつつある東北のものづくりから私達は何を学ぶのか。
都市における暮らしはますます加速し、物事の「隙間」はどんどん省かれている。いつでもどこでも、誰もがあらゆる情報を瞬時に入手し、自分を発信できる混沌とした社会。私達が実感を持つ暇もなく過ぎて行く日常。その真っ只中にいる自分と、手間隙をかけたものづくりの世界との間には、接点などまったく見当たらないように思えてしまう。
しかし、東北の地で長年ものづくりに取り組んできた人達の感覚を、ほんの僅かでも共有できたなら、私達はこうした「伝えていくこと」の価値をもっと理解できるようになるのではないか。手仕事のよさをもっと感じたいと願う一方で、自分の身体からはその感性が失われつつあるということに私達は気づかなければならないのではないか。
ぜひ多くの人達に「テマヒマ展 〈東北の食と住〉」へ足を運んでほしい。そして人の手と自然とのあいだで絶えることなく続いてきた時間の蓄積に触れてほしいと願う。
「テマヒマ展 〈東北の食と住〉」
会期:2012年4月27日(金)~8月26日(日)
休館日:火曜日
開館時間:午前11時~午後8時(入場は午後7時30分まで)
入場料:一般1,000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料
▼詳細は21_21 DESIGN SIGHTオフィシャルWEBサイトをご覧下さい。
http://www.2121designsight.jp/