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日本料理 温石|懐を温める懐石料理

夏の猛暑にやられ、日に日に脱力していったあげく、僕は信州へ逃げることにした。長野といえば避暑地だが、今回は胃腸を納得させることで身体の疲労も自然に癒されるのではないか…という思いで、日本料理店『温石』へ再び向かった。ここ […]

01/28/2013

夏の猛暑にやられ、日に日に脱力していったあげく、僕は信州へ逃げることにした。長野といえば避暑地だが、今回は胃腸を納得させることで身体の疲労も自然に癒されるのではないか…という思いで、日本料理店『温石』へ再び向かった。ここが店である証は、錆びたトタンの看板ひとつのみ。松本の中心街を流れている女鳥羽川からゆったりとしたペースで歩けば、20分程度でたどり着く。住宅地のまんなかにたたずむこの民家は、風雨にさらされた感触や、使い古された漆喰の壁、庭に生えている夏草が、長閑な雰囲気をつくりだしている。鉄の引き戸を開けると、まっ白な凛とした空間が広がる。余剰な飾りのない瞑想的なスペースが、日常の喧噪から非日常の静寂な空間へと誘う、といってもよいだろうか。
メニューはおまかせの懐石料理1コースのみ。絢爛な料理の技や素材はなく、工夫されすぎていないシンプルな料理を満喫できるのが魅力だ。素朴な内装と同じく、一品一品の構成やバランス、盛りつけかた、そしてお皿や器にも、徹底的な配慮を感じる。最初のひと皿は、みじん切りのオクラがのった「飯蒸し」。ごはんの歯ごたえ、オクラの粘り気、だし汁のうまみという最低限の要素だけをたくみに浮かびあがらせた一品だった。お椀は鮎のすり流し。ワタの渋みや苦みをほどよく感じる、これまた絶品の味だった。
きめ細かなつけあわせにも、神様が宿ったかのような味わい深さがある。焼きカマスをふんだんにふりかけた混ぜご飯に、自家製のぬか漬け。プルーストがマドレーヌを食べて邂逅したように、一片の人参を口に当てたら不思議な“既食感”が湧いてくる…。過去の経験を甦らせるひと口サイズのこのお新香に泣きだしそうになってしまった。
日本料理 温石
長野県松本市元町1-3-27
TEL:0263-36-0985
onjaku-tadokorogaro.com