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風雨に浸食され、壊され、再生する|Sekizai|真鶴石材 3

「私は仏師。石を彫る職人です」と、竹林昭吉郎が工房の前で言う。1948年に真鶴で生まれた竹林は、いまでは歳を重ね、太平洋を一望できる工房で作業に励んでいる。太平洋の海面を照らす光は、磨き上げられ、工房の外にずらりと並べら […]

07/15/2014

「私は仏師。石を彫る職人です」と、竹林昭吉郎が工房の前で言う。1948年に真鶴で生まれた竹林は、いまでは歳を重ね、太平洋を一望できる工房で作業に励んでいる。太平洋の海面を照らす光は、磨き上げられ、工房の外にずらりと並べられた作品にも、年輪が刻まれた彼の顔にも降り注いでいる。
竹林が彫っているのは、墓石や庭の置物ではない。寺院に奉納するための神聖な石像だ。その神聖な彫刻品に敬意を表して、東京都世田谷区のある寺が竹林に「大仏師」の称号を与えた。その称号をもって、竹林が僧侶とほぼ同じ地位にあると認めている。「この仕事で大切なのは、どれだけの愛を与えられるかということ。そして石を通じて、その愛をどのくらい示せるかということです」と彼は話す。
竹林が石を彫りはじめたのは18歳のころ。小松光義という名工に弟子入りしたのが始まりである。その後、湯河原に移り、銅像と塑像を専門とする彫刻家のもとで修業した。そこで10年学び、不動明王などの仏像の細部を彫るために必要な技術を身につけた。「修業時代は、空いた時間を利用して仏教も学びました。仏教の勉強はいまも続けています」竹林はそう言って、本の山を指さした。そこには彫刻の本と仏教の本が積まれていて、うち何冊かは開いたままになっている。
竹林は私たちを工房に案内してくれた。工房の床の上には作業中の大きな灰色の石の塊が置いてあり、半ば仏像の形になっている。近くの山から切りだされた、長方形の石塊だ。木槌と、大型の釘のような形をしたさまざまな種類の金属製のノミを使って、その石を削っていく。
 「この調子では、30年後にこの土地に墓石や彫刻をつくる人間がいるかどうか心配です。石材はあっても、職人や技術が消えてしまうのではないかと」。石材職人はその技術を活かす新しい方法を考案する必要があると竹林は考えている。「住宅とか、彫刻とか、ほかの方面の…」と彼は言う。
竹林は使いこまれた工具を手に取って座り、石を削りはじめた。「こうしていると瞑想に入っていきますよ。ここで作業している間に、いろいろなことを考えます」、そう言いながら石を削る。この石がどのように風雨に浸食され、壊され、それから大地の張力と圧力によって、どのように再生したのか――。「石は生き物なのです」。彼はそう言って、木槌を再び振り下ろした。割れた石の破片が床に飛び散り、削りくずが空中に舞いあがった。
竹林美術彫刻工房
神奈川県足柄下郡真鶴町岩939-2
TEL: 0465-68-5068
busshi.jimdo.com